無修正のAV(アダルトビデオ)のアップロードによるわいせつ物頒布等罪(わいせつ電磁的記録等送信頒布罪、わいせつ電磁的記録記録媒体陳列罪)について

目次

はじめに

インターネットとスマートフォンの普及により、誰もが簡単に動画を世界中に発信できる時代になりました。
また、アダルトなコンテンツは大きな収益が見込めるため、日々多くの動画が販売されています。

多くの方がご存知のように、現在の日本の法律では、モザイク等による修正を施していない無修正動画は、処罰の対象となります。
そこで、「日本国内のサイトで販売するのは危険だが、海外のサイトであれば安心」と思い込んで、無修正の動画をアップロードし、逮捕される事件も増えてきています。

警察のサイバーパトロールは年々強化されており、この犯罪による検挙者は後を絶ちません。
本稿では、無修正動画のアップロードの違法性等について、過去に問題となった裁判例等も踏まえて解説します。

「わいせつ物頒布等罪」とは

刑法第175条第1項
わいせつな文書、図画、電磁的記録に係る記録媒体その他の物を頒布し、又は公然と陳列した者は、二年以下の拘禁刑若しくは二百五十万円以下の罰金若しくは科料に処し、又は拘禁刑及び罰金を併科する。電気通信の送信によりわいせつな電磁的記録その他の記録を頒布した者も、同様とする。


この条文にある「わいせつな」「電磁的記録」を「頒布」する行為が、今回のテーマである「わいせつ電磁的記録等送信頒布」です。

犯罪が成立するための3つの要素(構成要件)
この犯罪が成立するためには、以下の3つの要素が全て満たされる必要があります。

① 「わいせつ」なものであること
法律の世界でいう「わいせつ」の定義は、判例(過去の裁判例)によって確立されており、以下の3つの条件を全て満たすものとされています。

いたずらに性欲を興奮又は刺激せしめ
普通人の正常な性的羞恥心を害し
善良な性的道義観念に反するもの

この定義だけだと非常に抽象的で、どのようなものが「わいせつ」になるのか分かりづらいですが、こと無修正のアダルト動画に関しては、司法の判断は明確です。
性器や性交の様子を、モザイクなどの修正を施さずに露骨に描写した映像は、現代の日本の裁判実務において、ほぼ例外なく「わいせつ物」に該当すると判断されます。
「芸術性がある」といった主張が認められることは、まずありません。

「電磁的記録」であること
電磁的記録とは、簡単に言えばデジタルデータのことです。
パソコンやスマートフォンに保存されているMP4やAVIといった形式の動画ファイルは、当然これに該当します。

「頒布(はんぷ)」にあたる行為であること
わいせつな電磁的記録の「頒布」とは、不特定または多数の者の記録媒体にこれらの記録を存在するに至らしめる行為を指します(最判平成26年11月25日 刑集68巻9号1053頁)。
インターネット上のサーバーへの動画のアップロードは、そこにサイト閲覧者がダウンロードをするという行為が介在するため、一見すると頒布に当たらないようにも思います。
しかし、前掲平成26年判決は、「不特定の者である顧客によるダウンロード操作を契機とするものであっても,その操作に応じて自動的にデータを送信する機能を備えた配信サイトを利用して送信する方法によってわいせつな動画等のデータファイルを当該顧客のパーソナルコンピュータ等の記録媒体上に記録,保存させることは,刑法175条1項後段にいうわいせつな電磁的記録の「頒布」に当たる」として、サーバーにデータをアップロードして、ダウンロードできるようにする行為も、「頒布」に当たると判断しました。

FC2コンテンツマーケットのようなサイトで動画を販売する行為はもちろん、XVIDEOSやPornhubのような無料の動画共有サイトにアップロードする行為も、同様に「頒布」です。
利益を得ていたかどうかは、犯罪の成立自体には影響しません。
ただし、刑法175条2項では有償で頒布する目的でわいせつな電磁的記録を保管する行為を禁止しているため、この規定にも該当しますし、量刑にも影響があります。

なお、動画データをストリーミング再生で視聴できるようになっていた場合は「わいせつ電磁的記録記録媒体陳列罪」に、リアルタイム配信(生配信)していた場合には「公然わいせつ罪(刑法174条)」に該当します。

海外サイトへのアップロードについて

多くの人が手を染めてしまう背景には、「サーバーが海外にあるサイトなら、日本の法律は適用されず、警察も捜査できないだろう」という誤解があります。
結論から言えば、この考えは完全に間違っています。

日本の刑法が適用される根拠(属地主義
日本の刑法は、「属地主義」という大原則を採用しています。
これは、「日本国内で発生した犯罪については、犯人の国籍を問わず、日本の刑法を適用する」という原則です。

「実行行為地」としての日本
無修正動画を海外サイトにアップロードする場合、実行行為はどこで行われたといえるでしょうか。
この点について、東京高判平成25年 2月22日(前掲平成26年判決の控訴審)では、「犯罪構成要件に該当する事実の一部が日本国内で発生していれば,刑法1条にいう国内犯として同法を適用することができると解されるところ,既にみたとおり,被告人らは日本国内における顧客のダウンロードという行為を介してわいせつ動画等のデータファイルを頒布したのであって,刑法175条1項後段の実行行為の一部が日本国内で行われていることに帰するから,被告人らの犯罪行為は,刑法1条1項にいう国内犯として処罰することができる」と判断しています。
つまり、顧客がダウンロードをして保存するという行為は日本国内で行われているため、日本国内で行われた犯罪として扱われるということです。

通常、AV(アダルトビデオ)を公表する場合、簡単に流れを分解すると以下のようになります。
①動画の撮影・編集
②動画をサーバー(サイト)へアップロード
③顧客がサイトからダウンロード
この事件では、この③が日本国内で行われていたことから、日本国内で行われた犯罪と判断されましたが、この裁判例がいうように「犯罪構成要件に該当する事実の一部が日本国内で発生していれば,刑法1条にいう国内犯として同法を適用することができる」ということであれば、例えば、①だけ日本で行われた場合や、②だけ日本で行われた場合でも処罰の対象となる可能性があります。

アップロードから逮捕、そして勾留へ

わいせつ物頒布等罪に関する事件では、逮捕されることも多いです。
以下では、どのように手続きが進むのかを解説します。

1.発覚から被疑者の特定まで
捜査が始まるきっかけは様々です。

サイバーパトロール: 都道府県警のサイバー犯罪対策課は、インターネット上を監視しており、違法なアップロードがないかを調査しています。
一般ユーザーからの通報: サイトの通報機能や、警察の通報窓口への情報提供によって発覚します。
サイト運営者からの情報提供: 違法性の高いコンテンツを発見したサイト側が、警察に通報することもあります。

発覚後、警察はサイト運営者からIPアドレスなどの提供を受け、プロバイダ(携帯キャリアやネット回線事業者)を特定します。
その後、捜査関係事項照会書や、裁判所の許可状(捜索差押許可状など)を得てプロバイダに照会し、その通信記録に紐づく契約者情報、すなわちあなたの氏名・住所を特定します。

2.逮捕・家宅捜索
プロバイダから契約者情報が得られ、容疑が固まると、警察は裁判所に逮捕状と捜索差押許可状を請求します。

家宅(事業所)捜索
捜査員は令状を示し、家の中に入ってきます。
目的は、犯行に使用された証拠の確保です。
パソコン、スマートフォン、外付けハードディスク、USBメモリ、サーバーの契約書類など、関連すると思われるものは全て押収されます。

逮捕: 家宅捜索と同時に、あなた自身も逮捕状に基づき逮捕されます。

3.逮捕後の身体拘束
逮捕されると、以下のタイムリミットに従って、厳しい取調べと身体拘束が続きます。

警察段階(最大48時間): 警察署の留置場で過ごし、警察官による取調べを受けます。
検察段階(最大24時間): 身柄が検察庁に送られ(送検)、検察官による取調べを受けます。

勾留(原則10日間、延長でさらに最大10日間)
検察官が「逃亡や証拠隠滅の恐れがある」と判断した場合、裁判所に勾留を請求し、これが認められると、原則10日間、警察署の留置場で身体拘束が続きます。
多くの場合、捜査のために勾留はさらに10日間延長されます。

つまり、逮捕されてから起訴されるか否かが決まるまで、最大で23日間、社会から隔離され、会社や学校に行くことも、家族と自由に連絡を取ることもできなくなるのです。
また、この種の案件ですと、複数の動画をアップロードしていることが多いため、別事件のために再逮捕・再勾留されることも珍しくありません。

刑事裁判

最大23日間の身体拘束の後、検察官はあなたを起訴するか、不起訴にするかを決定します。

1.刑事罰の内容
起訴され、裁判で有罪が確定した場合の法定刑は、前述の通り「2年以下の拘禁刑もしくは250万円以下の罰金若しくは科料に処し、又は拘禁刑及び罰金を併科」です。

2.起訴・不起訴の判断
検察官が起訴・不起訴を判断する際には、以下のような事情が考慮されます。

営利性の有無・被害額: 利益を得ていたか、その金額はいくらか。
頒布した動画の数・期間: アップロードした動画の数や、活動していた期間の長さ。
動画のわいせつ性の程度: 内容が悪質か。
前科・前歴の有無: 同種の前科がないか。
反省の態度: 容疑を認め、真摯に反省しているか。

これらの事情を踏まえ、弁護士を通じて反省の意を示す書面を提出したり、贖罪寄付(しょくざいきふ)を行ったりすることで、不起訴処分(起訴猶予)や略式起訴(罰金刑)といった、より軽い処分を目指す弁護活動が行われます。

3.刑事裁判
検察官が起訴した場合、刑事裁判が開かれることになります。
刑事裁判では、証拠等から、有罪か無罪か、有罪の場合、その量刑(罪の重さ)をどうするかが判断されます。
初犯で、営利目的でなく、アップロードした動画の数も少ないといったケースでは、罰金刑(数十万円程度)で済むこともあります。
しかし、営利目的で、長期間にわたり、多数の動画を販売していたような悪質なケースでは、拘禁刑が下されたり、高額の罰金を併科される可能性も十分にあります。

おわりに

無修正の動画をアップロードしてしまった、既にそのことで警察に捜査されている、という場合、まずは弁護士に相談することをお勧めいたします。
逮捕される前に相談することで、取りうる選択肢は大きく広がります。

弁護士は、あなたと共に警察署に出頭する「自首」をサポートすることができます。
自首が成立すれば、刑が減軽される可能性があるほか、逮捕されずに在宅で捜査が進む「任意捜査」となる可能性も高まります。

万が一逮捕されてしまった場合でも、弁護士であれば、接見(面会)して取調べへの対応方法をアドバイスすることができます。

最後に、極めて重要な注意点として、もしアップロードした動画に18歳未満の児童が登場する「児童ポルノ」が含まれていた場合、適用される法律も罰則も全く異なります。
「児童買春、児童ポルノに係る行為等の規制及び処罰並びに児童の保護等に関する法律児童ポルノ禁止法)」に基づき、単純所持ですら犯罪となり、不特定若しくは多数の者提供(頒布)又は公然と陳列した場合は「5年以下の拘禁刑若しくは500円以下の罰金に処し、又はこれを併科(児童ポルノ禁止法7条6項)」という、重罪となります。

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この記事を書いた人

髙田法律事務所の弁護士。
インターネットの誹謗中傷や離婚、債権回収、刑事事件やその他、様々な事件の解決に携わっている。
最新のビジネスや法改正等についても日々研究を重ねている。

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