【弁護士が解説】暴行罪で逮捕されたら|傷害罪との違いと示談交渉の重要性

目次

はじめに

「カッとなって、相手の胸ぐらを掴んでしまった」「口論の末、相手を突き飛ばしてしまった」「飲み屋で喧嘩になり、相手に殴りかかってしまった」

日常生活の中で、怒りや興奮から、つい手が出てしまう。
こうした行為は「暴行罪」というれっきとした犯罪にあたります。
多くの人が「この程度で警察沙汰になるはずがない」と軽く考えがちですが、被害者が110番通報をしたり、被害届を提出したりすれば、警察は捜査を開始し、場合によっては逮捕・勾留といった深刻な事態に発展します。

一度逮捕されれば、長期間身柄を拘束され、会社や学校、家族といった社会生活に計り知れない影響が及びます。
そして、起訴されて有罪となれば、「前科」がつくことになります。

しかし、暴行罪で逮捕されたとしても、すぐに刑罰が科されるわけではありません。
逮捕直後からの迅速かつ適切な対応、特に被害者の方との「示談交渉」を行うことで、検察官が起訴を見送る「不起訴処分」を獲得し、前科を回避できる可能性も十分にあります。

本稿では、ご自身やご家族が暴行事件の加害者として逮捕されてしまった場合に、どのような犯罪が成立し、より重い「傷害罪」とどう違うのか、そして不起訴処分を獲得するために最も重要な示談交渉について解説いたします。

暴行罪とは何か?

1-1. 刑法の条文

暴行罪は、刑法第208条に定められています。

刑法 第208条(暴行)

暴行を加えた者が人を傷害するに至らなかったときは、二年以下の拘禁刑若しくは三十万円以下の罰金又は拘留若しくは科料に処する。

この条文のポイントは、「人を傷害するに至らなかったとき」という部分です。
つまり、相手に怪我をさせていなくても成立するのが暴行罪の最大の特徴です。

1-2. 法的な「暴行」の定義

一般的に「暴行」と聞くと、殴る・蹴るといった行為を想像しがちですが、法律上の「暴行」の定義はそれよりもはるかに広範です。
法律上、暴行とは「人の身体に対する不法な有形力の行使」と定義されています。
有形力とは、物理的な力(エネルギー)の作用を意味し、それが相手の身体に直接触れる必要はありません。

【暴行罪に該当する可能性のある行為の具体例】

  • 殴る、蹴る、叩く、突く、突き飛ばす: これらは典型的な暴行です。
  • 胸ぐらを掴む、腕を強く引く、髪の毛を掴む: 相手の身体に直接触れ、不法な力を加える行為です。
  • 相手に物を投げつける: 物が相手の身体に当たらなかったとしても、相手の身体に向けられた物理的な力の行使として、暴行罪が成立することがあります。
  • 顔や身体に水をかける、塩をまく: 相手の身体に液体や固体を付着させる行為も、有形力の行使とみなされます。
  • ハサミで他人の髪の毛を無断で切る: 判例上、暴行罪の成立が認められています。
  • 至近距離で太鼓や鐘を鳴らし続け、相手を失神させる: 判例上、音も物理的なエネルギーであるとして、暴行罪の成立が認められたケースがあります。

このように、「怪我はしていないから問題ない」という自己判断は通用せず、暴行罪として被害申告される可能性があります。

1-3. 暴行罪で逮捕されるケース

暴行罪は、被害が軽微であることも多く、必ずしも全ての事案で逮捕されるわけではありません。
しかし、以下のような場合には、逮捕の可能性が高まります。

  • 現行犯逮捕: 被害者や目撃者がその場で110番通報し、駆けつけた警察官によって、犯行中または犯行直後に身柄を確保されるケースです。
  • 通常逮捕(後日逮捕): 犯行後に被害者が警察署に被害届や告訴状を提出し、警察が捜査を進めた結果、裁判官が発付する逮捕状に基づき、後日逮捕されるケースです。防犯カメラの映像や目撃者の証言などが証拠となります。

逮捕が実行されるかどうかは、行為の悪質性や、「逃亡のおそれ」「証拠隠滅のおそれ」があるかによって判断されます。住所不定であったり、警察からの任意の出頭要請を無視したりすると、逃亡のおそれありとして逮捕されやすくなります。

暴行罪と傷害罪の違い

暴行罪とよく似た犯罪に「傷害罪」があります。
両者は密接に関連していますが、その法定刑には大きな差があります。

2-1. 傷害罪の条文と刑罰

傷害罪は、刑法第204条に定められています。

刑法 第204条(傷害)

人の身体を傷害した者は、十五年以下の拘禁刑又は五十万円以下の罰金に処する。

暴行罪が「2年以下の拘禁刑若しくは30万円以下の罰金…」であるのに対し、傷害罪は「15年以下の拘禁刑…」と、法定刑の上限が重く設定されています。
これは、暴行罪よりも傷害罪がはるかに重大な犯罪として扱われていることを示しています。

2-2. 分岐点は「傷害の結果」の有無

暴行罪と傷害罪を分ける境界線は、その行為によって「相手が傷害を負ったかどうか」という結果の有無です。

  • 暴行罪: 不法な有形力を行使した(例:殴った)が、相手は怪我をしなかった(例:痛かっただけ、アザもできなかった)。
  • 傷害罪: 不法な有形力を行使した(例:殴った)結果、相手が怪我をした(例:打撲で全治1週間の診断、鼻血が出た、骨折した)。

ここでいう「傷害」とは、「人の生理的機能に障害を与えること」を指します。
外傷(切り傷、打撲、骨折など)はもちろん、PTSD(心的外傷後ストレス障害)などの精神疾患を発症させた場合も、傷害に含まれる可能性があります。
実務上、被害者が医師の診察を受け、暴行行為との因果関係が認められる「診断書」が作成され、警察に提出された時点で、事件は暴行事件から傷害事件へと切り替わり、捜査が本格化します。

2-3. 「暴行のつもりが傷害罪」-結果的加重犯

加害者側が最も注意しなければならないのが、「怪我をさせるつもりはなかった」という弁解が、原則として通用しないということです。

刑法では、暴行の故意(殴るつもり、突き飛ばすつもり)さえあれば、その結果として意図せず相手に怪我をさせてしまった場合でも、重い傷害罪の責任を負うとされています。
これを「結果的加重犯(けっかてきかじゅうはん)」といいます。

  • 具体例:
    • 軽く胸を突いたつもりが、相手がバランスを崩して転倒し、頭を打って重傷を負った。
    • 口論中に相手の腕を振り払ったところ、相手が転んで手首を骨折した。

これらのケースでは、加害者に「骨折させてやろう」という傷害の故意がなかったとしても、「胸を突く」「腕を振り払う」という暴行の故意が認められるため、傷害罪が成立します。

逮捕された後の流れと示談交渉の重要性

もし暴行罪や傷害罪で逮捕されてしまった場合、ご本人やご家族は、刑事手続きの迅速な流れに対応する必要があります。

3-1. 逮捕後の刑事手続き

逮捕されると、以下のような厳格な時間制限のもとで手続きが進みます。

  1. 逮捕~送検(最大72時間): 警察は逮捕から48時間以内に、検察官に事件を送致します。検察官は、送致を受けてから24時間以内に、被疑者の身柄を引き続き拘束するかどうかを判断します。
  2. 勾留(最大20日間): 検察官が「勾留(こうりゅう)」の必要があると判断して請求し、裁判官がそれを認めると、原則10日間、さらに延長が認められると最大10日間、合計で最大20日間の身体拘束が続きます。
  3. 起訴・不起訴の決定: 検察官は、この最大23日間(逮捕72時間+勾留20日)の身体拘束期間が終わるまでに、被疑者を刑事裁判にかける「起訴」処分とするか、裁判にかけずに事件を終了させる「不起訴」処分とするかを最終的に決定します。

この逮捕から最大23日間が、極めて重要な期間となります。

3-2. 不起訴処分

逮捕された場合の最大の目標は、検察官による「不起訴処分」を獲得することです。
不起訴処分となれば、刑事裁判は開かれず、その時点で釈放されます。
そして、前科がつくこともありません。

不起訴処分にはいくつか種類がありますが、目指すことが多いのは「起訴猶予(きそゆうよ)」です。
起訴猶予とは、検察官が「犯罪の事実は認められるが、被疑者の反省の程度、被害の軽重、被害回復の状況(示談)、年齢、境遇など、諸般の事情を考慮した結果、今回はあえて起訴する必要まではない」と判断する処分です。

3-3. 不起訴獲得の鍵となる「示談交渉」

検察官が起訴猶予の判断を下す上で、最も決定的な影響を与える要素が、「被害者との示談が成立しているかどうか」です。

暴行罪や傷害罪は、特定の「被害者」が存在する犯罪です。
したがって、その被害者が受けた損害が回復され、被害者が「加害者を許す」という意思宥恕(ゆうじょ))を示しているかどうかは、検察官にとって処罰の必要性を判断する上で最大の関心事となります。

  • 示談とは: 加害者が被害者に対して、犯した行為について真摯に謝罪し、合意の上で慰謝料や治療費を含む示談金を支払うことです。そして、その合意の証として、「本件について、被害者は加害者を宥恕(許す)し、加害者の刑事処罰を望みません」といった内容(宥恕文言)を含む示談書を取り交わします。
  • 示談の効力: この「宥恕文言」入りの示談書が、弁護人を通じて検察官に提出されれば、被害者の処罰感情は既に解消されたと評価されます。検察官は、「被害者が許しているのであれば、処罰する必要性は低い」と判断し、不起訴処分(起訴猶予)とする可能性が極めて高くなります。

3-4. なぜ弁護士による示談交渉が不可欠か

逮捕されている期間(最大23日間)は非常に短く、この間に示談を成立させる必要がありますが、そこには大きな障壁があります。

  1. 加害者本人は交渉できない: 逮捕・勾留されている加害者本人は、当然ながら被害者と交渉することはできません。
  2. 家族では連絡先が入手困難: 捜査機関(警察・検察)は、被害者保護の観点から、加害者の家族に対して被害者の連絡先を教えることは原則としてありません。
  3. 被害者の感情的な抵抗: 仮に連絡先を知っていたとしても、加害者本人やその家族からの連絡は、被害者の怒りや恐怖心を再燃させ、交渉をかえって困難にさせるリスクが非常に高いです。

これらの問題をすべて解決できるのが弁護士です。

  • 弁護士は、守秘義務を負う専門家として、検察官を通じて被害者の連絡先(または被害者側弁護士の連絡先)を確認し、示談交渉の申し入れを行うことができます。
  • 被害者も、弁護士が間に入ることで、加害者側と直接やり取りする精神的負担なく、冷静に交渉のテーブルに着きやすくなります。
  • 弁護士は、示談書を作成し、検察官に対して不起訴処分を求める意見書を提出するなど、タイムリミット内に的確な弁護活動を行います。

示談金(慰謝料)の相場と算定要素

示談交渉において最も重要なのが、示談金(慰謝料)の額です。
法律で金額が定められているわけではなく、双方の合意によって決まりますが、実務上、ある程度の「相場」が存在します。

4-1. 示談金の内訳

示談金は、主に以下の要素で構成されます。

  • 慰謝料: 暴行を受けたことによる精神的苦痛に対する賠償。
  • 実費:
    • 治療費: 傷害を負った場合の通院・入院費用。
    • 休業損害: 怪我によって仕事を休まざるを得なかった場合の減収分。
    • 通院交通費: 病院に通うためにかかった交通費。
    • 物損: 暴行によって衣服が破れた、眼鏡が壊れた場合の弁償費用。

4-2. 慰謝料の相場

事案によって大きく変動しますが、一般的な目安は以下の通りです。

  • 暴行罪(怪我なし)の場合: 慰謝料が中心となります。10万円 ~ 30万円程度が相場となることが多いです。ただし、行為の悪質性が高い場合(執拗さ、威嚇の程度など)は、50万円程度になることもあります。
  • 傷害罪(怪我あり)の場合: 実費(治療費など)に加えて、怪我の程度に応じた慰謝料が上乗せされます。
    • 全治1~2週間程度の比較的軽微な傷害(打撲、擦過傷など): 30万円 ~ 50万円程度
    • 全治1ヶ月程度の傷害(骨折、歯の欠損など): 50万円 ~ 100万円程度
    • 重傷・後遺障害: 傷害の程度、入院期間、後遺障害の等級などに応じて、数百万円以上になる場合もあります。

4-3. 金額を左右する要素

最終的な金額は、上記の相場を参考にしつつ、以下の個別事情を考慮して交渉されます。

  • 増額要因: 暴行の態様が悪質(凶器の使用、一方的・執拗な攻撃)、被害者の精神的ショックが非常に大きい、加害者の反省の態度が見られない。
  • 減額要因: 偶発的な犯行である、被害者側にも一定の落ち度(挑発行為など)があった(ただし正当防衛には至らない)、加害者が深く反省し誠実に謝罪している、加害者の支払い能力(学生や無職など)。

「正当防衛」の主張とその限界

「相手から先に殴りかかってきたので、やむを得ず反撃した」というケースでは、「正当防衛」の成立が問題となります。

5-1. 正当防衛とは

正当防衛は、刑法第36条第1項に定められています。

刑法 第36条第1項

急迫不正の侵害に対して、自己又は他人の権利を防衛するため、やむを得ずにした行為は、罰しない。

この要件を満たせば、暴行や傷害にあたる行為も犯罪とはならず、無罪となります。

5-2. 正当防衛の要件

しかし、実務上、正当防衛の成立が認められるハードルは非常に高いです。以下の要件をすべて満たす必要があります。

  1. 急迫不正の侵害: 相手からの違法な攻撃が、現に存在する(または間近に迫っている)こと。
  2. 防衛の意思: 相手を攻撃する意思ではなく、あくまで「身を守るため」という意思であること。
  3. やむを得ずにした行為(防衛行為の相当性): 防衛の手段・程度が、相手の攻撃に対して必要最小限度であること。

5-3. 「過剰防衛」

実務上、問題となるのは過剰防衛です。

  • 過剰防衛(刑法第36条第2項): 相手の攻撃(素手)に対し、ナイフで反撃するなど、防衛の程度が明らかに度を超えている場合です。これは正当防衛とはならず、「過剰防衛」(刑が減軽または免除される可能性がある)として、処罰の対象となります。

「先に手を出したのは相手だ」という主張が、そのまま正当防衛の主張として認められる可能性は決して高くありません。
防犯カメラ映像や第三者の証言など、客観的な証拠がない場合、正当防衛の主張が認められない可能性が高いです。

おわりに

暴行罪は、日常生活の延長線上で起こりうる身近な犯罪です。
しかし、その法的責任は決して軽くなく、「怪我をさせるつもりがなかった」という言い訳は通用せず、傷害罪というさらに重い犯罪に発展する危険性を常にはらんでいます。

万が一、暴行事件で逮捕されてしまった場合、その後の人生を左右するのは、逮捕後の最大23日間という限られた時間での対応です。
前科を回避し、社会復帰を果たすための最大の鍵は、弁護士を介して、被害者の方に誠心誠意謝罪し、適切な被害弁償を行い、「宥恕(許し)」を得る示談を成立させることに尽きます。

ご自身やご家族が逮捕された、あるいは警察から事情聴取の連絡が来たという場合は、一刻も早く弁護士に相談してください。
迅速な弁護活動の開始こそが、不起訴処分を獲得し、未来を守るための最も確実な道となります。

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この記事を書いた人

髙田法律事務所の弁護士。
インターネットの誹謗中傷や離婚、債権回収、刑事事件やその他、様々な事件の解決に携わっている。
最新のビジネスや法改正等についても日々研究を重ねている。

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