名誉毀損の「公然性」とは?伝播可能性の判例と成立要件を弁護士が解説

目次

はじめに

インターネット上に誹謗中傷の投稿をされた場合、どんな場合でも発信者情報開示や損害賠償請求ができるわけではありません。
ある投稿について、名誉毀損(名誉権侵害)が認められるためには、「公然性」という要件が認められる必要があります。

例えば、密室での二人きりの会話、一対一のメールやDMのやり取りでは、この公然性が認められず、名誉毀損にはならないと判断されることがあります。
今回は、この「公然性」という要件について解説いたします。

※なお、侮辱(名誉感情侵害)などの場合、「公然性」が認められなくても権利侵害が認められることがあります。ただし、メールやDMだと、「公然性」の問題とは別に、発信者情報開示の要件を満たさない(情報流通プラットフォーム対処法2条1号の「特定電気通信」に当たらない)ため、投稿者の特定が難しくなります。

【一覧】公然性が認められるケース・認められないケース

名誉毀損が成立するためには、「公然性」(不特定または多数人が認識しうる状態であること)が必要です。
ケースごとの公然性の判断の目安を一覧にまとめました。

※ただし、これはあくまで一般的な目安です。個別の事案によって判断は異なります。

ケース公然性解説
X(旧Twitter)・Instagram等の公開アカウント○ 認められる不特定多数が閲覧可能なため、公然性は原則認められます。
鍵アカウント(非公開アカウント)△ ケースによるフォロワーの人数や属性によります。フォロワーが多数であれば認められる可能性があります。また、フォロワーが少数でも、伝播可能性(後述)が認められれば公然性が肯定されることがあります。
5ch・爆サイ等の匿名掲示板○ 認められる誰でも閲覧できる状態であり、不特定多数が認識しうるため、公然性は原則認められます。
Googleマップ等の口コミ○ 認められる不特定多数が閲覧可能です。
LINEグループ・オープンチャット(多人数)△ ケースによる参加人数、グループの性質(誰でも参加可能か、限定的か)等により判断が分かれます。
少人数のグループチャット(数名程度)△ ケースによる特定かつ少数の場合、伝播可能性が認められるかどうかが問題となります。
Discord(公開サーバー・大規模サーバー)○ 認められうる不特定多数が参加・閲覧可能な場合は、公然性が認められる可能性が高いです。
Discord(少人数の非公開サーバー)△ ケースによるメンバーが限定されている場合、伝播可能性の有無が問題となります。
1対1のDM・LINE× 原則認められない相手が一人であり、不特定または多数人が認識しうる状態とはいえません。ただし、スクリーンショットが拡散される蓋然性が高い等の事情がある場合は、伝播可能性が問題となる余地があります。
メール(特定の一人宛て)× 原則認められないDMと同様です。
飲み会・職場等での口頭の発言△ ケースによるその場にいる人数やその場の状況によります。不特定多数が出入りする場所で大声で発言した場合は認められやすくなります。

なお、公然性が認められない場合であっても、侮辱(名誉感情侵害)等として損害賠償請求が認められることがあります。
ただし、DM等の場合は、公然性の問題とは別に、発信者情報開示請求の要件(情報流通プラットフォーム対処法にいう「特定電気通信」への該当性)を満たさないため、投稿者の特定自体が困難になるという問題があります。

以下では、公然性の定義や判例の考え方について、詳しく解説していきます。

「公然性」とは?定義と要件

刑法では、230条1項で、「公然と事実を摘示し、人の名誉を毀損した者は、その事実の有無にかかわらず、三年以下の拘禁刑又は五十万円以下の罰金に処する。」として、名誉毀損罪について定めています。
ここでいう「公然と」という部分が、今回問題となる「公然性」の要件です。
なお、これは刑法の名誉毀損罪の話ではありますが、民法上の名誉毀損(名誉権侵害)の場合でも、名誉毀損の本質は社会的評価の低下であり、特定少数者に対して事実を摘示したところで、社会的評価が低下するとはいえない1ことから、現在では「公然性」が必要であるとされています。

「公然と」とは、「摘示された事実を不特定または多数人が認識しうる状態」のことをいいます。
つまり、投稿などについて、不特定または多数人が認識しうる状態になっていないといけないわけです。
この「不特定」とは、「相手方が限定されていない」ことを指し、「多数人」とは、「社会一般に知れ渡る程度の人数」のことを指します。
先ほど挙げた例のように、密室で二人きりでした会話などは、その会話内容を不特定または多数人が認識しうる状態ではないため、名誉毀損が成立しないわけですね。
また、1対1のDMやLINEなどでの会話も、名誉毀損の成立は難しいと思われます。

何人から「多数人」にあたるのか?人数の基準

これは、一人にしか情報が伝えられていないため分かりやすいのですが、情報を伝達する相手が複数人になってくると、「どこから公然性を満たすのか」が難しくなってきます。
例えば、ある人が、仲の良い知人10人に対して「Aって、この前〇〇ってお店で万引きしたらしいよ」という内容のメールを送ったとします。
この10人は、「仲の良い知人」ですから、「不特定」とはいえないかもしれません。
では、「多数人」には該当するでしょうか。これが100人だったらどうでしょうか。

このように、「〇人以上であれば多数人にあたる」という明確な基準はありません。
裁判では、単に人数だけではなく、以下のような事情が総合的に考慮されます。

  • 情報を伝えた相手方の人数
  • 相手方の属性(被害者の知人か、無関係の第三者か等)
  • 情報が伝えられた場の性質(閉じたグループか、出入り自由な場か等)
  • 情報がさらに拡散される蓋然性(伝播可能性)

したがって、「3人だけだったから大丈夫」「10人程度なら問題ない」とは一概にいえません。 少人数であっても、そこから情報が広まる可能性が認められれば、伝播可能性を通じて公然性が肯定されることがあります。

「伝播可能性」とは?判例の考え方

また、さらに難しいことに、この「公然性」は、判例上(最判昭和34年5月7日刑集13巻5号641頁)、「摘示の直接の相手方が特定かつ少数の人であっても、その者らを通じて不特定または多数人へと広がっていくときには公然性が認められる」とされています。
つまり、相手が「特定かつ少人数」であっても、「その人たちから大勢の人へ伝わっていく可能性がある」場合には、「公然性」があるということになります。
このことを「伝播可能性」などといいます。

この判例は刑法の事案ですが、民法上の名誉毀損について、この「伝播可能性」の理論を取り入れるべきかについては批判もあります。
民法上の名誉毀損は、対象者の社会的な評価が低下したことを問題としていることから、将来的に多数の人に伝わって評価が低下する「可能性」を問題にするべきではなく、多数の人に伝播して評価が低下した「結果」を問題とするべきだというのが、そのうちの一つです。
裁判例では、「伝播可能性」を認めて公然性を肯定したものや、否定したものなど様々なものがあります。

SNSにおける公然性

現在では、多数の人がインターネットを利用しており、SNSを利用している人も多くいることかと思います。
誰もが閲覧できるような場所に投稿をすれば、「公然性」アリと判断される可能性が高いでしょうが、例えば、承認した者しか見られないようになっているアカウントの投稿(いわゆる「鍵アカ」「鍵垢」)などの場合、「不特定または多数人」といえるのかどうか、「伝播可能性」があるのか、境界線が難しくなります。

例えば、若い方はあまり知らないかもしれませんが、mixi(ミクシィ)というSNSがあります。
このSNSは、元々は招待制で、招待された人しか登録することはできませんでした。
また、このSNSの投稿には「マイミク限定」という設定があり、この設定をすると、投稿を友人(マイミク)にしか見れないようにすることができました。
この「マイミク限定」で公開された投稿(マイミクの人数は100人前後)について、裁判所は、「マイミクの範囲を超えて他の第三者の目に触れることは原則としてないと推認され,これを覆すような事情は認められない」として、公然性を否定しました(東京地判平成26年12月24日)。

一方で、非公開のコミュニティで、承認された者が4人しかいなかった場合であっても、「このコミュニティも管理者の承認を受ければその承認を受けた者は以後自由に閲覧することができること,承認をするか否かはひとえに管理者の判断に委ねられていることが認められ,また,インターネットという媒体の性質上,承認を受けて閲覧をした者がその記事をコピーして他に流布させることは非常に容易であることからすると,非公開という設定がされているからといって,○○サイトのコミュニティに記載した内容が社会に伝播する可能性がないということはできない」として、伝播可能性を認めたものもあります(東京地判平成27年2月17日)。

判断が分かれた理由は不明ですが、インターネット上の投稿をする場合、前者はあくまでも例外的な事例で、後者のように、承認制であっても、それを見ている人から別の人に伝播していく可能性があるとの前提で発信をするべきだと思います。

Discordのグループチャットで公然性は認められる?

Discordというトークアプリがあります。
ゲーマーなどで広く知られたアプリで、通常のチャットやボイスチャットを利用できる便利なツールです。
このアプリが出てきたことで、SkypeやTeamSpeakなどのボイスチャットツールや、IRCなどのチャットシステムを利用していたユーザーが一気にDiscordに流れました。
このアプリ上での投稿について公然性が争われた事案について紹介します。

Discordでは、一対一でチャットやボイスチャットをすることができるだけでなく、サーバーを作成して、複数人でチャット等を楽しむことができます。
問題となった事案では、特定のサーバー内に25人所属していたところ、裁判所は、「当該サーバーの所属メンバーである25人程度が多数に当たると断ずることはできないものの、当該サーバーに投稿された表現の意味内容が所属するメンバー以外の者に拡散しないように管理されていたと認めるに足りる証拠はないから、当該サーバーに投稿された表現の意味内容は、当該投稿に係る表現を閲覧したメンバーを介して、同人誌掲載作品を含む各種の作品等を通じて互いに面識がある不特定多数のクリエーター等に伝播する可能性があったというべきである」として、「伝播可能性」を認めました(東京地判令和6年11月29日)。
つまり、25人程度の人数は「多数」ではないものの、その25人から不特定多数のクリエイターに伝播する可能性があるということです。

公然性・伝播可能性が争われた裁判例

ここでは、公然性や伝播可能性の有無が争われた裁判例を、場面ごとに紹介します。

インターネット上の投稿(公開サイト・掲示板等)

インターネット上の表現は、アクセス制限がなければ誰でも閲覧することができるため、原則として公然性が認められます。
「実際のアクセス数が少なかった」というだけでは、公然性は否定されません。

SNS(公開範囲の限定がある場合)

SNSでは、公開範囲を限定する機能が設けられていることがあります。
例えばFacebookでは公開範囲を設定でき、X(旧Twitter)では「鍵アカウント」に設定することが可能です。
このように公開範囲が限定されている場合、閲覧可能な人数や投稿の性質等を踏まえた判断がなされます。

裁判例状況判断ポイント
東京地判平成21年5月13日SNSの日記の読者数が105人公然性肯定読者数が多数であることを重視
東京地判平成26年6月19日閲覧可能者が58人公然性肯定同上
東京地判平成26年12月24日SNS(mixi)で公開範囲をマイミクに限定公然性否定マイミクの範囲を超えて他の第三者の目に触れることは原則としてないと推認され,これを覆すような事情は認められないと判断
東京地判平成27年2月17日非公開設定のコミュニティ(表現者を含め4人)公然性肯定管理者の承認を受ければ以後自由に閲覧できること、インターネットの媒体の性質上コピーして他に流布させることが容易であること等を考慮。伝播可能性の理論により公然性を肯定
東京地判平成26年8月18日SNSの特定のトピックにおいて主に4人が投稿公然性肯定投稿者からさらに第三者に情報が伝達される可能性等があるとして、伝播可能性の理論により公然性を肯定

鍵アカウントや非公開設定であっても、フォロワー数が多数であれば「多数人」にあたるとして公然性が認められる可能性があり、フォロワー数が少数であっても、伝播可能性が認められれば公然性が肯定されることがあります。

メール

メールについては、基本的にその宛て先(受信者)が何人かが問題となります。
メールマガジンやメーリングリストに投稿したり、多人数にメールを送信すれば、公然性が肯定される可能性が高くなります。

裁判例状況判断ポイント
東京地判平成29年2月13日メールが約150人の社員及び役員に自動的に配信公然性肯定多数人に配信され、自由に閲読され得る状態にあった
東京地判平成26年11月11日社員ら約90人に対してメールが送信公然性肯定人数は決して少数とはいえないとした(伝播性も検討)
東京地判平成26年12月9日メーリングリストに投稿公然性肯定特に公然性への言及なく名誉毀損を肯定
東京地判平成20年11月25日計8人にメールが送信公然性肯定従業員がこれを閲読することが可能であるので,不特定又は多数人に伝播するおそれがあると伝播性を肯定
東京地判平成29年9月7日表現者の秘書業務を担当する会社にメールを送付公然性否定秘書センターの担当者に対して秘書業務に関連したメールを送信したとしても,不特定多数人に対する表現行為とはいえないと判断
東京地判平成27年1月23日団体に関するメールが会長宛や外部の特定人宛に送付公然性否定?内容が一般に流布した形跡は認められず、対象者の社会的評価を一般的に低下させるような結果を生じたとも認められないとした

メールだからといって常に伝播性が認められるわけではなく、メールの内容や受領者の性質等に鑑みて、伝播性の有無が判断されます。

チャット

東京地判平成28年12月28日は、社内チャットにつき、社内のチャット内での発言とはいえ、チャットに参加していない他の従業員への伝播可能性も十分肯定でき、現に従業員間で伝播していたことからすれば対象者の名誉が毀損されたといえるとしました。

Discord等のチャットサービスも、同様の枠組みで判断されるものと考えられます。
サーバーの公開・非公開の設定、参加人数、チャットに参加していないメンバーへの伝播可能性等が考慮要素になるでしょう。

職場へのファックス

東京地判平成 9年4月21日は、テレビ局の職場に名誉毀損的な文書をファクシミリ送信したことにつき、たとえ当該文書に名宛人が記載されていても、不特定又は多数の者の認識し得る状態におかれることになるとして、伝播可能性が認められると判断しました。

伝播可能性が否定された裁判例

伝播可能性が否定される場合もあります。
裁判例上、以下のような事情がある場合には、伝播可能性が否定される傾向にあります。

① 受領者に守秘義務がある場合

東京地判平成28年7月11日は、東京都行政書士会の苦情処理委員会に対してされた苦情申し立てについて、各委員には審査に付された事項について守秘義務が課せられていることを理由に伝播性を否定しています。
同様に、東京地判平成22年3月1日は別の文書について、対象者が守秘義務を課せられていることを理由に伝播性を否定しました(ただし、同裁判例は守秘義務の対象ではない別の文書については伝播性を肯定しています)。

② 受領者と対象者の関係上、伝播が想定し難い場合

東京地判平成28年7月26日は、対象者の親族等への書面について、他に伝播する事態は想定し難いとして公然性を否定しました。

③裁判手続等における提出

東京地判平成20年10月8日は、表現者が特定の一人に教えた対象者の前科情報がどこまで伝播したかという現実の経緯を検討し、陳述書を訴訟において提出したことにより前科を知り得たのは裁判所職員に限られ、特定かつ少数の者にとどまるものというべきとして、公然性を否定しました。

④その他

東京地判平成15年8月22日は、26人の理事が出席した大学の理事会において、特定の大学教授の名誉を毀損する内容の意見書を読み上げた行為について、意見書の内容が高度の秘匿性が要請されていたこと、理事会における議事がみだりに外部に漏れることは予期されていなかったこと、意見書は理事会終了後に回収されたことなどから伝播可能性を否定しました。

おわりに

今回は、名誉毀損における公然性や伝播可能性について解説いたしました。
「鍵かけてるし、問題ないだろう」と油断して悪口を書いたら名誉毀損になってしまった、ということも十分あり得ます。
何かを発信する人は、自分の投稿がそもそも誰かを誹謗中傷するものになってないかどうかも含めて、一度見直してみてください。
また、誹謗中傷された人でも、「鍵垢内で投稿されてるみたいだから無理かな」と即断せず、弁護士に相談してみてください(ただし、結果としてやはり「難しい」という結論になる可能性はあります。)。

インターネットの誹謗中傷等についてはこちら

弊所の弁護士へのご相談等はこちらから

  1. 松尾剛行『最新判例にみるインターネット上の名誉毀損の理論と実務 第2版 [勁草法律実務シリーズ]』140頁(勁草書房、2019年) ↩︎
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この記事を書いた人

髙田法律事務所の弁護士。東京弁護士会所属 登録番号60427
インターネットの誹謗中傷や離婚、債権回収、刑事事件やその他、様々な事件の解決に携わっている。
最新のビジネスや法改正等についても日々研究を重ねている。

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