【この記事の結論・要約】
- Grokで他人の写真を性的に加工する行為は、肖像権侵害・名誉毀損・著作権侵害など複数の法的責任を問われる可能性があります。
- X利用規約があっても、被写体本人の権利が失われるわけではありません。
- 被害者は削除請求・発信者情報開示請求・損害賠償請求ができる可能性があります。
はじめに
2025年12月下旬、X(旧Twitter)のWeb版に「Grok画像編集機能」が実装されました。
投稿画像にカーソルを合わせると「画像を編集」ボタンが表示され、テキスト指示でAIが加工してくれる機能です。
問題は、他人の投稿画像も加工できる点にあります。
コスプレイヤーやアイドルの写真に「ビキニに変えて」などと指示し、性的画像を生成するケースが多発しています。
2026年1月の報道では未成年者の写真が性的に加工された事例も確認され、インド政府がX社に是正命令を出すなど国際問題に発展しています。
本稿では、このような行為の法的問題を解説します。
なお、生成AI全般に関する肖像権侵害の問題については、以下のコラムもご確認ください。

また、生成AIによる著作権侵害については以下のコラムもご覧ください。

第1章:Grok画像編集機能とは
Grokはイーロンマスク氏のxAI社が開発した生成AIです。
Web版では画像にカーソルを合わせると「画像を編集」ボタンが表示され、無料ユーザーでも回数制限付きで利用できます。
また、有料機能で、元の写真や画像の投稿に返信(リプライ)でGrokへ指示を出すことによって画像編集をすることもできます。
他人の投稿画像も加工できる仕様が悪用され、他人の写真を性的に加工する行為が問題となっています。
これに対し、X社は、2026年1月6日に、「違法コンテンツ(児童性的虐待素材(CSAM)を含む)が含まれる投稿に対して、投稿の削除、アカウントの永久凍結などを含む対応を行うことに加え、行政や法執行機関と協力するなどの措置をとる」という指針を出しました。
では、Grokの画像編集機能が悪用され、自身の写真などを無断で加工された場合、悪用者の投稿の削除やアカウントの凍結以外に何か対応することはできないのでしょうか。
第2章:著作権法上の問題
当然ですが、この機能に関する裁判例などは、記事執筆時点ではまだありません。
しかし、以下のような様々な問題点が想定されます。
2-1. 元画像の著作権
Xに投稿された写真の多くは撮影者が著作権を持つ著作物です。
Grokで画像を加工する行為は、著作権法上の「複製」(著作権法第21条)や「翻案」(著作権法第27条)に該当する可能性があります。
また、著作者人格権である、「同一性保持権」(著作権法第20条)にも該当する可能性があります。
2-2. X利用規約の誤解
「Xに投稿した時点で、加工を許可したことになるのではないか」という主張が散見されますが、これは法的に誤りです。
Xの規約は、ユーザーが「X社」に対してライセンスを付与するものであり、他の第三者に対して「自由に加工して良い」という権利を与えるものではありません 。
2-3. 著作権法第30条の4(非享受目的)の適用除外
日本の著作権法には、AIの学習などのために著作物を利用できる規定(30条の4)がありますが、これは著作物を「鑑賞」や「享受」する目的がない場合に限られます。
他人の写真を性的に加工して閲覧・共有する行為は、「享受目的」を含んでいるため、この例外規定は適用されず、著作権侵害となる可能性が高いです。
第3章:肖像権の侵害
3-1. 肖像権とAI生成
肖像権とは、自分の顔や姿をみだりに撮影・公表されない権利であり、憲法13条に由来する人格権として最高裁でも認められています。
たとえAIが生成した「偽の画像」であっても、元画像が存在し、特定の人物(被写体)を識別できる場合は肖像権侵害が成立する可能性があります。
3-2. Grokによる画像生成の違法性の検討
以下の記事でも解説していますが、生成AIによる肖像権侵害を検討する場合、以下の考慮要素を元に検討すべきだと考えられます。

- 実在の人物の容ぼうと生成された人物肖像の同一性
- 実在の人物の容ぼうと生成された人物肖像の結びつき(関連性)
- 利用行為の態様
- 侵害者の主観的要素
- 元データの撮影行為の違法性
- 打消し表示(の有無)
自身の写真をGrokによって勝手に水着などの性的な写真に変えられた場合について考えてみましょう。
実在の人物の容ぼうと生成された人物肖像の同一性
Grokによる画像生成は、画像編集機能を用いて写真等を編集するか、元写真等の投稿に対して「@grok この画像を水着にして」などのように返信(リプライ)をして編集するため、元の写真や画像が存在し、その写真や画像に対する改変内容を指示することで生成されます。
実際には生成された画像次第にはなりますが、多くの場合、生成された画像は、写真や画像の対象となっている実在の人物の容ぼうとAIで生成された人物の肖像が同一と評価できるでしょう。
実在の人物の容ぼうと生成された人物肖像の結びつき(関連性)
上述したように、Grokによる画像生成は、多くの場合、元になる写真や画像があります。
そのため、多くの場合で、AIによる肖像生成に、実在の人物の肖像が利用されたといえるでしょう。
しかも、返信(リプライ)の形で画像生成される場合、その過程(プロンプト)は明らかであるといえます。
利用行為の態様
生成された肖像がどのように利用されたかという問題です。
この点についてはケースバイケースですが、例えば、実在の人物の写真を勝手に水着に変えるなどの行為は、性的な目的での利用といえるでしょうから、権利侵害と判断される可能性が高いといえます。
侵害者の主観的要素
権利侵害が成立するためには、行為者の故意または過失が必要となります。
ここでいう故意とは、「実在している特定の人物の肖像を生成する意図をもって生成したか、あるいは、そのような意図がなく自動生成したが、結果的に実在している特定の人物と同一であることを認識して当該肖像を利用した場合」のことを指します。
また、過失とは、「上記のような結果が生じることが予想できたのに、それを回避しなかった」ことを指します。
わかりにくいですが、Grokの件に引き直すと、「実在の人物の画像を生成する意図があったか」、あるいは、「生成した画像が実在している人物だったことを認識して利用したか」が問題となります。
Grokによる画像生成は、実在する人物の写真や画像を元に、AIに指示して画像を生成するわけですから、ほとんどの場合で、「実在の人物の画像を生成する意図があった」といえるでしょう。
元データの撮影行為の違法性
学習データに含まれる元写真の撮影が違法であったかという問題です。
通常の肖像権が問題となる場面では、撮影行為や公表行為が違法であるかどうかなどが争われます。
生成AIによる画像生成についても、元のデータとなる写真の撮影行為の違法性は問題となります。
ただし、一般的なAIによる生成では元写真の一部しか利用されず、多数のデータに「希釈」されるため、権利侵害への寄与度はかなり弱くなります。
Grokによる画像生成の場合、元となるデータは1枚ないし数枚程度であり、多数のデータに希釈されるわけではありません。
一方で、元となるデータは、著作権者や肖像権者本人がアップロードしていることが多く、撮影行為自体は適法なケースがほとんどです。
そのため、「元の写真や画像を他者が利用(公表)することの適法性」という観点から考える必要があるでしょう。
もしくは、この考慮要素をそもそも考慮要素としない、あるいは別の要素として考える、などの方向性も考えられます。
打消し表示(の有無)
「AIで生成された画像であり、実在の人物とは結びつきがない」といった表示の有無です。
Grokの仕様上、Grokで生成された画像はGrokのアカウントから投稿されます。
そのため、「AIで生成された画像です」と明示され、あるいは、明示されているわけではないものの、AIによって生成された画像であるとわかるケースがほとんどです。
一方で、Grokに生成させた画像を、自分のアカウントなどから投稿する場合、このような表記の有無は問題となり得ます。
もっとも、この考慮要素は、付随的な要素と位置づけられています。
結論
以上の考慮要素を総合的にみると、「Grokによって他人の写真を勝手に水着などの性的な写真に加工する行為」は、肖像権を侵害する可能性が高いといえるでしょう。
もっとも、裁判で争われた場合に、どのような要素を考慮して判断されるのかはまだわかりませんし、画像編集機能で作成した写真等を自分で投稿した場合と、返信(リプライ)でGrokに写真を生成・投稿させた場合とでは、結論が変わる可能性もあります。
第4章:名誉毀損等の刑事罰
4-1. 名誉毀損罪(刑法230条)
「性的な画像が作られ、公表される」こと自体が、その人物の社会的評価を低下させると判断される場合があります。
加害者が「これはAIが作ったジョークだ」と弁解しても、客観的に見て本人の名誉を毀損している場合には、名誉毀損罪が成立します。
4-2. 侮辱罪(刑法231条)やわいせつ物頒布等罪(刑法175条)
2022年の法改正により厳罰化された侮辱罪の対象にもなり得ます。
また、加工後の画像が性器等の露出を含む過激な内容である場合、AI生成画像であっても「わいせつ物」とみなされ、刑事摘発の対象となるリスクがあります。
実際、2025年10月にはAI画像の販売での逮捕事例も発生しています 。
4-3. 児童ポルノ規制法との関係
被写体が実在する未成年(18歳未満)である場合、その写真を性的に加工する行為は児童ポルノ禁止法に違反する可能性があります。
児童ポルノ禁止法に違反する場合、上記の刑罰よりも重い刑罰を科される可能性があります。
第5章:被害に遭った際の具体的な法的措置
Grokの画像編集機能による被害に遭った場合、以下の方法による対応を検討すべきです。
5-1. X社への削除申請と通報
まずは被害の拡大を防ぐため、X社の通報機能を利用します。
「性的な嫌がらせ」や「同意のない性的コンテンツ」として報告するほか、弁護士を通じてガイドライン違反を指摘し、迅速な削除を促すこと等の対応をとります。
5-2. 発信者情報開示請求による加害者の特定
「誰が加工したか分からない」場合でも、情報プラットフォーム対処法(旧:プロバイダ責任制限法)に基づき、投稿者のIPアドレスや氏名、住所等の開示を求めます。
5-3. 民事・刑事での責任追及
加害者が特定できれば、以下の措置を講じます 。
- 損害賠償請求: 精神的苦痛(慰謝料)や調査にかかった費用(弁護士費用、開示費用の一部)を民法709条、710条に基づき請求します 。
- 刑事告訴: 名誉毀損罪や侮辱罪は「親告罪」であるため、被害者自身(又は弁護士等の代理人)が警察に告訴状を提出する必要があります 。
おわりに
Grok画像編集機能は、テクノロジーの進歩を象徴する一方で、他人の尊厳を安易に踏みにじる道具としても悪用されています。
進歩のスピードが速く、まだ裁判例の蓄積等もない分野ですが、だからこそきちんと対応すべきだと考えています。
無断で写真を加工されるなどの被害に遭った場合、まずは、詳しい弁護士にご相談されることをお勧めいたします。
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