【この記事の結論】
- VTuberへの誹謗中傷に対しても、法的措置をとることは可能です。 侮辱(名誉感情侵害)やプライバシー侵害として「中の人」の権利侵害が認められた裁判例があります。ただし、名誉毀損については「同定可能性」の問題から、VTuber特有のハードルが存在します。
- 被害に気づいたら、まず証拠を保全し、速やかに弁護士に相談してください。 プロバイダのログ保存期間(3~6ヶ月程度)を過ぎると投稿者の特定が技術的に不可能になります。
- 発信者情報開示請求により、匿名の投稿者を特定できる可能性があります。 特定後は、損害賠償請求や刑事告訴を検討することになります。
はじめに
VTuberは今や社会に浸透したエンターテインメントですが、人気商売であるがゆえに、日々、誹謗中傷に晒されている方も少なくありません。
匿名掲示板やSNSでの悪質な書き込みに悩みながらも、「アバターへの攻撃で法的措置がとれるのか」「匿名の相手をどうやって特定するのか」がわからず、対応に踏み切れないという声を聞きます。
VTuberへの誹謗中傷であっても、法的措置をとることは可能です。
本稿では、VTuberに対する誹謗中傷が問題となった裁判例も踏まえながら、VTuber特有の法的問題、被害に遭った場合の具体的な対処法、発信者情報開示請求の手順、損害賠償請求や刑事告訴の方法について解説します。
VTuberが誹謗中傷を受けたらまずやるべきこと
証拠を保全する
誹謗中傷の書き込みやコメントを発見したら、何よりも先に証拠を保全してください。
投稿者が自らコメントを削除したり、第三者の通報によってコメントが消えたりすると、証拠が失われてしまいます。
保存すべき情報は以下のとおりです。
- スクリーンショット: 投稿内容、投稿日時、投稿者のアカウント名・IDが全て写るように撮影します。前後の文脈(スレッドの流れ等)がわかるように、関連する投稿も含めて保存してください。
- URL: 投稿が掲載されているページのURLを記録します。
- 動画・配信の場合: コメント欄のスクリーンショットに加え、可能であれば画面録画を行い、コメントが表示されている状態を動画として保存します。
- ウェブ魚拓: ウェブ魚拓サービスを利用してページを保存しておくという方法もあります。
直接反論しない
誹謗中傷に対して配信上やSNSで直接反論することは避けてください。
理由は以下のとおりです。
- 炎上リスク: 反応することでさらに注目を集め、誹謗中傷が拡大する可能性があります。
- キャラクターイメージへの影響: VTuberとしてのブランドイメージが損なわれる可能性があります。
- 法的措置への悪影響: 言い返した内容によっては、法的措置をとる際に不利に働く可能性があります。
弁護士に早期相談する(ログ保存期間のタイムリミット)
証拠保全ができたら、速やかにインターネット問題に詳しい弁護士に相談してください。
投稿者の特定に不可欠な通信ログの保存期間は、一般的に3ヶ月~6ヶ月程度と非常に短いです。
注意しないといけないのは、この期間は「弁護士に相談するまでの期限」ではなく、「発信者情報開示請求がプロバイダに到達するまでの期限」であるという点です。
弁護士への相談、事実関係の整理、申立書の作成等にも時間がかかるため、被害に気づいたらできるだけ早く行動することが重要です。
VTuberへの誹謗中傷で問題となる権利侵害
誹謗中傷は一般的な用語であり、法律用語ではありません。
法的には、投稿が特定の権利を侵害しているかどうかが問題になります。
VTuberへの誹謗中傷で主に問題となる権利侵害の類型は以下のとおりです。
名誉毀損(名誉権侵害)
名誉毀損とは、人の外部的な名誉、すなわち社会的な評価を低下させることで成立します。
名誉毀損は、事実を摘示する方法で行われた場合に成立します。
- 「事実の摘示」の例: 「〇〇(VTuber名)は不倫している」「〇〇は前科がある」
- 「事実の摘示」にあたらない例: 「バカ」「アホ」「キモい」→ これらは「評価」であり、後述する侮辱の問題になります
「事実」と「評価」を切り分ける作業は奥が深く、実務上「名誉毀損で主張したが、裁判所は名誉感情侵害(侮辱)と認定した」ということも起こり得ます。
なお、VTuberの場合、名誉毀損が認められるためには「同定可能性」(第三者から見て誰のことかわかるか)が必要ですが、「中の人」が特定されていないVTuberではこのハードルが高く、名誉毀損の成立は容易ではありません。
この点については、後に詳しく解説します。
※名誉毀損には、事実摘示型と意見論評型の区別や、真実性の抗弁・公正な論評の法理等の抗弁の問題もありますが、本稿では割愛します。
侮辱(名誉感情侵害)
侮辱(名誉感情侵害)とは、人が自分自身に対して持つ主観的な評価(主観的名誉)を、社会通念上許される限度を超えて傷つける行為です(最判平成22年4月13日民集64巻3号758頁)。
具体的にどのような表現がアウトになるかの線引きは難しいですが、配信内容や音楽・グッズ等に対する意見(悪質でない限り、営業活動に対する意見として権利侵害にあたらない)は侮辱に該当しないと判断される可能性が高く、個人の人格に対する攻撃(権利侵害が認められやすい)は侮辱に該当すると判断される可能性が高いと言えます。
プライバシー侵害——「中の人」の個人情報暴露
VTuberの本名、顔写真、住所等の個人情報を暴露する行為は、プライバシー権の侵害にあたる可能性があります。
いわゆる「中の人バレ」「特定行為」と呼ばれるものがこれに該当し得ます。
ただし、どのような情報の暴露がプライバシー侵害として法的に保護されるかは、暴露された情報の性質(私生活上の事実といえるか)、本人がその情報をどの程度秘匿していたか等の事情によって判断が分かれ得ます。
例えば、過去の活動名義(いわゆる「前世」)の暴露がプライバシー侵害にあたるかどうかは、一律に判断できるものではありません。
VTuber特有の問題——「同定可能性」とは
VTuberへの誹謗中傷で最も難しい法的問題が「同定可能性」です。
名誉毀損における同定可能性
名誉毀損は、人の社会的な評価を低下させることですから、第三者から見て、その投稿が誰のことを指しているのかわかる必要があります。
この問題を「同定可能性」といいます。
VTuberの場合、この点が非常に難しくなります。
VTuberの「中の人」がどこの誰なのか、第三者からはわかりません。
「A」というVTuberに対して「Aは不倫している」と投稿されても、それが「中の人」である「B」のことを指しているとは簡単にはわからないわけです。
もっとも、特に企業に所属するVTuber(企業勢)の場合、所属企業やその関係者は「中の人」が誰であるかを把握しています。
そのため、特定できるだけの背景知識を持つ読者が存在すれば、当該読者から不特定多数に伝わっていく可能性があるとして、同定可能性があるという考え方もあります1。
侮辱(名誉感情侵害)における同定可能性
侮辱(名誉感情侵害)は、社会的な評価ではなく、人の内心に関するものです。
そのため、第三者から見て誰のことを言っているか特定できる必要はないのではないか、すなわち同定可能性は必要ないのではないかという議論があります。
この点について、同定可能性が不要であると判断した裁判例があります(福岡地判令和元年9月26日)。
裁判所は、名誉感情侵害はその性質上、対象者が当該表現をどのように受け止めるかが決定的に重要であることから、対象者が自己に関する表現であると認識することができれば成立し得ると判断しました。
ただし、一般の読者が対象者を同定できるかどうかは、侮辱行為が社会通念上許される限度を超えるか否かの考慮要素にはなるとも述べています。
あまりにもどこの誰だかわからない投稿であれば、侮辱にあたらないと判断される可能性は高まります。
参考裁判例——大阪地判令和4年8月31日
VTuberに対する誹謗中傷について、「中の人」の権利侵害を認めた重要な裁判例として、大阪地判令和4年8月31日があります。
この事件では、企業に所属するVTuber「B」が体調不良で休養する旨をツイートした後、活動を一時中止したところ、匿名掲示板上で「仕方ねぇよバカ女なんだから 母親がいないせいで精神が未熟なんだろ」との投稿がなされました。
裁判所は、この投稿について以下のように判断しました。
- 「バカ女」「精神が未熟」というように分断して捉えるのではなく、投稿の内容を一体として捉え、表現が見下すようなものになっていること、成育環境に問題があるかのような指摘までしていることを踏まえれば、社会通念上許される限度を超える侮辱であると認めました。
- 「アバターへの攻撃であって、中の人への攻撃ではないのではないか」という主張に対しては、VTuberはアバターの表象をいわば衣装のようにまとって活動しており、投稿はVTuberの名称で活動する者に向けられたものであるから、名誉感情を侵害されたのは「中の人」であると判断しました。
この裁判例は、VTuberへの侮辱(名誉感情侵害)であっても「中の人」の権利侵害が認められることを示した重要な先例です。
ただし、この裁判例は侮辱(名誉感情侵害)について判断したものであり、名誉毀損(名誉権侵害)として認められたものではない点に留意が必要です。
今後、VTuberについて名誉毀損(名誉権侵害)やプライバシー侵害として争われた場合に、同定可能性についてどのような判断がなされるかは、裁判例の蓄積が待たれるところです。
どのような表現が誹謗中傷に該当するか
権利侵害が問題となりやすい表現
VTuberの配信内容や作品に対する意見ではなく、個人の人格に対する攻撃は権利侵害が問題となりやすい傾向にあります。
- 名誉毀損が問題となり得る例: 「〇〇は枕営業している」「〇〇は犯罪歴がある」「〇〇は不倫している」(いずれも具体的な事実の摘示)。ただし、VTuberの場合は同定可能性のハードルがあるため、名誉毀損の成立は容易ではありません。
- 侮辱に該当しやすい例: 前掲の裁判例のように、成育環境や身体的特徴への攻撃、人格を一方的に否定する表現(ただし、「バカ」「アホ」の一言程度では認められにくい)
- プライバシー侵害が問題となり得る例: 本名、顔写真、住所等の暴露。ただし、暴露された情報の性質や秘匿の程度によって判断が異なります。
違法とまでは言えないケース
VTuberは動画投稿や配信を事業として行っているため、その内容に対する意見や評価は、悪質なものでない限り、営業活動に対する意見として権利侵害にあたらないと判断されることが多いです。
- 配信の内容や進行に対する批判的な感想
- 音楽、ライブ、グッズ等に対する意見や評価
- 活動方針に対する批判
ラーメン屋の口コミで味やサービスについて書き込みがなされるのと類似した構図です。
発信者情報開示請求の手順
誹謗中傷の投稿者を特定し、損害賠償請求や刑事告訴につなげるためには、発信者情報開示請求を行います。
開示請求の全体の流れ
投稿者の特定は、大きく2つの段階を踏みます。
ステップ1:プラットフォーム(SNS・掲示板等)に対するIPアドレス等の開示請求
投稿が行われたプラットフォーム(YouTube、X、匿名掲示板等)の運営者に対し、投稿者のIPアドレスとタイムスタンプの開示を求めます。
プラットフォーム運営者が任意で開示に応じることは少なく、裁判手続き(仮処分等)が必要になるのが一般的です。
ステップ2:アクセスプロバイダに対する契約者情報の開示請求
開示されたIPアドレスから投稿者が利用したアクセスプロバイダ(携帯電話会社・インターネット回線業者)を特定し、そのプロバイダに対して契約者の氏名・住所等の開示を求めます。
これも裁判手続きが必要です。
発信者情報開示命令(非訟手続)
2022年10月施行の改正法により、上記のステップ1とステップ2を一つの手続きで行える「発信者情報開示命令事件(非訟手続)」が利用可能になりました。
従来の2段階の手続きを一連の裁判手続きとして処理できるため、手続きを比較的迅速に進めることが可能です。
ログ保存期間のタイムリミット
アクセスプロバイダの通信ログ保存期間は、一般的に3ヶ月~6ヶ月程度です。
この期間を過ぎるとログが消去され、投稿者の特定が技術的に不可能になります。
弁護士に依頼すれば、訴訟の前にプロバイダに対するログ保存要請を先行して行い、証拠の保全を図ることができます。
開示請求にかかる期間の目安
発信者情報開示請求の手続き全体にかかる期間は、おおむね半年~1年程度です。
非訟手続の活用により期間短縮が期待できますが、事案やプロバイダの対応状況によって前後します。
投稿者特定後の法的措置
投稿者の身元が判明した後は、以下の法的措置をとることができます。
損害賠償請求(慰謝料の相場)
特定した投稿者に対し、侮辱(名誉感情侵害)やプライバシー侵害等に基づく損害賠償(慰謝料など)を請求します。
まずは弁護士名義の内容証明郵便で示談交渉を行い、相手が応じない場合は民事訴訟を提起することが一般的です。
慰謝料の一般的な相場:
- インターネット上の名誉毀損・侮辱: 10万円~50万円程度(個人の場合)
- プライバシー侵害: 数万円~数十万円程度
VTuberの場合、誹謗中傷が活動に影響を与えた場合(休止に追い込まれた等)は、活動への影響も損害として主張できる可能性があります。
また、投稿者の特定にかかった弁護士費用(調査費用)の一部が損害として認められる場合もあります。
刑事告訴
投稿内容が刑法その他の罪に該当する場合、警察に刑事告訴を行い、処罰を求めることが考えられます。
- 名誉毀損罪(刑法230条): 3年以下の拘禁刑又は50万円以下の罰金
- 侮辱罪(刑法231条): 1年以下の拘禁刑若しくは30万円以下の罰金又は拘留若しくは科料
※侮辱罪は2022年の法改正により法定刑が大幅に引き上げられました。従来は「拘留又は科料」のみであったものが、「1年以下の拘禁刑若しくは30万円以下の罰金」が追加されています。
ただし、VTuberの場合、名誉毀損罪の成立には民事と同様に同定可能性の問題があり、「中の人」が特定されていない場合には成立のハードルが高くなります。
実務上は、侮辱罪での告訴を検討するケースが多いと考えられます。
重要: 名誉毀損罪と侮辱罪はいずれも親告罪です。犯人を知った日から6ヶ月以内に告訴する必要があります(刑法232条1項、刑事訴訟法235条)。投稿者の特定後、速やかに告訴の要否を判断してください。
弁護士に依頼するメリット
権利侵害の法的構成
VTuberへの誹謗中傷は、同定可能性の問題をはじめ、通常のインターネット誹謗中傷以上に法的構成が難しい分野です。
どの投稿が、どの権利を、どのように侵害しているかを法的に整理し、裁判所に認められやすい主張を組み立てるには、専門的な知識と経験が必要です。
スピード対応
ログ保存期間の制約がある以上、迅速な対応が不可欠です。
弁護士にご依頼された場合、タイムリミットを意識して手続きを進め、プロバイダへのログ保存要請等を行います。
精神的負担の軽減
弁護士が代理人となることで、被害者本人が加害者や法的手続きに直接向き合う負担を軽減できます。
VTuberとしての活動を継続しながら、法的措置を並行して進めることが可能になります。
よくある質問(FAQ)
- VTuberのアバターへの誹謗中傷でも法的措置はとれますか?
-
はい、内容次第では法的措置をとれる場合があります。
例えば、裁判例(大阪地判令和4年8月31日)では、VTuberはアバターの表象をいわば衣装のようにまとって活動しているため、VTuber名義での活動者に向けられた侮辱は「中の人」の権利侵害にあたると判断されています。
- 匿名掲示板の書き込みでも投稿者を特定できますか?
-
はい。
発信者情報開示請求により、匿名掲示板の運営者からIPアドレスの開示を受け、さらにプロバイダから契約者情報の開示を受けることで、投稿者を特定できる可能性があります。
ただし、ログ保存期間を過ぎると特定が困難になるため、早期の対応が重要です。 - 配信内容への批判的な感想も誹謗中傷になりますか?
-
配信内容、音楽、グッズ等に対する意見や評価は、悪質なものでない限り、営業活動に対する意見として権利侵害にはあたらないと判断される可能性が高いでしょう。
ただし、個人の人格に対する攻撃に至る表現は、権利侵害として法的措置の対象となり得ます。 - 「中の人」の個人情報を暴露された場合はどうなりますか?
-
本名、顔写真、住所等の個人情報の暴露は、プライバシー権の侵害にあたる可能性があり、発信者情報開示請求や損害賠償請求の対象となり得ます。
ただし、暴露された情報の性質や秘匿の程度等によって判断が異なるため、具体的な見通しは弁護士にご相談ください。 - VTuber事務所として組織的に対応するにはどうすればいいですか?
-
事務所としては、所属VTuberへの誹謗中傷を定期的にモニタリングし、悪質な投稿を発見した場合は速やかに証拠保全を行い、顧問弁護士等と連携して法的措置の要否を判断する体制を整えることが重要です。
実際に、大手VTuber事務所では法務チームを設置し、組織的に誹謗中傷対策を行っている例もあります。
おわりに
VTuberへの誹謗中傷は、「アバターだから何を言っても許される」という認識のもとで行われがちですが、権利侵害が認められるケースもあります。
裁判例が示すとおり、VTuberへの攻撃であっても、侮辱(名誉感情侵害)として「中の人」の権利侵害が認められる場合があり、投稿者を特定して法的責任を追及できる可能性があります。
名誉毀損やプライバシー侵害についてはVTuber特有のハードルがありますが、今後の裁判例の蓄積により対応の幅が広がることも期待されます。
誹謗中傷への対応は、証拠保全からログの保存期間まで、時間との勝負です。
被害に遭われた方は、できるだけ早い段階でインターネット問題に詳しい弁護士にご相談ください。
インターネットの誹謗中傷等についてはこちら
弊所の弁護士へのご相談等はこちらから
- 松尾剛行『サイバネティック・アバターの法律問題 VTuber時代の安心・安全な仮想空間にむけて』6頁(弘文堂、2024年) ↩︎