SNSアカウントが凍結された場合の対応と裁判手続きの利用

目次

はじめに

Youtube、X(旧Twitter)、Instagram、TikTok等のSNSは、現代社会において、個人・法人を問わず重要な社会的基盤としての役割を担っています 。個人にとってはコミュニケーション、情報収集、自己表現の手段であり 、ビジネスにおいてはマーケティングやブランディングのための重要なツールです 。
このようにSNSの重要性が高まるにつれて、アカウントが利用できなくなること(凍結・利用停止)による不利益もまた、深刻なものとなっています 。

SNS運営会社は、利用者が利用規約に違反した場合にアカウントを凍結する措置を講じることがあります 。
しかし、実際には規約違反が存在しないにもかかわらず、AIによる機械的な判断や運営側の誤認によって、アカウントが不当に凍結される事例も散見されます 。
このような場合、利用者は運営会社との間のSNS利用契約に基づくサービスの提供を受けられない状態となり、契約上の債務不履行の問題も生じ得ます 。

本稿では、利用規約違反の事実がないにもかかわらずSNSアカウントを凍結された場合に、その凍結を解除するために取りうる法的な対応について、裁判外の手続きと裁判手続きに分けて解説します。

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アカウント凍結への初期対応(裁判外の手続き)

アカウントが凍結された場合、まず検討すべきは、裁判所を介さない当事者間の交渉による解決です。

1.異議申し立て制度の利用

多くのSNSプラットフォームでは、アカウント凍結に対する異議申し立ての制度を設けています 。
まずは、各サービスが公式に用意しているフォームや手順に従って、凍結が不当である旨の異議を申し立てることが第一の選択肢となります 。

この手続きにより、運営会社側で再調査が行われ、誤判断であったことが判明すれば凍結が解除される可能性があります。
もっとも、事業者によっては、この異議申し立て制度が十分に機能しておらず、申し立てを行っても返信がない、あるいは定型的な応答に終始するといったケースも報告されています 。

2.運営会社への直接交渉

公式な異議申し立て制度で解決しない場合、運営会社に対して書面の郵送などによる直接の交渉を試みることが考えられます 。
しかし、この方法にはいくつかの実務的な困難が伴います。

  • 連絡先の特定: 多くのSNS運営会社は、交渉のための電話番号やFAX番号を公開しておらず、連絡手段が限定される場合があります 。
  • 海外法人への送付: 運営会社の本社が海外にある場合、書面を送付するには国際郵便(EMS等)を利用する必要があり、手続き的な負担が生じます 。近年は、日本国内に登記上の拠点や代表者を定めている海外事業者も増えていますが 、その代表者の権限が裁判書類の受領のみに限定されている場合もあります 。
  • 日本子会社の権限: 日本に子会社が存在する場合でも、その法人が営業部門に過ぎず、アカウントの管理権限を持っていないとして、凍結に関する問い合わせには一切応じないケースも少なくありません 。

これらの理由から、裁判外での直接交渉は、必ずしも有効な解決手段とならない可能性があります。

なお、私の経験上、この方法で数日で対応され、凍結解除に至ったケースもあります。
ただし、あくまでも運営会社の自主的な対応を促す方法ですので、不誠実な会社の場合、対応がなされません。

裁判手続きの利用とその法的構成

裁判外での対応が奏功しない場合、裁判手続きの利用を検討することになります 。
裁判手続きは、最終的な司法判断を求めるだけでなく、その過程で運営会社側に事態を精査させたり、代理人弁護士を選任させて交渉のテーブルに着かせたりする効果も期待できます 。

アカウントの凍結解除を求めるにあたり、請求の根拠となる主な法的構成は以下の通りです。

1.契約に基づくアカウント利用請求

利用者とSNS運営会社との間には、アカウント登録の時点でSNS利用契約が成立しています 。
利用規約違反の事実がないにもかかわらずアカウントを凍結する行為は、この契約に基づくサービス提供義務の不履行(債務不履行)にあたります。

そこで、利用者は、このSNS利用契約上の地位に基づき、アカウントの利用(凍結の解除)を請求することが考えられます 。
この構成には、主に以下の2つの法的論点が存在します。

  • 国際裁判管轄: 多くのSNS利用規約には、紛争が生じた場合の裁判所を、海外の特定の裁判所に限定する「専属的合意管轄」の条項が含まれています 。もっとも、利用者が個人としてサービスを利用している「消費者」に該当する場合、消費者契約法の規定により、この国際裁判管轄の合意が無効となる可能性があります 。その場合、日本の裁判所に管轄が認められる余地があります 。
  • 運営会社の裁量: 運営会社側は、サービスの提供内容や利用制限については、自社に広範な裁量が認められると主張することが想定されます 。これに対し、利用者側は、当該凍結措置が裁量の範囲を逸脱・濫用したものであると反論することになります。

2.名誉権侵害(名誉毀損)に基づく請求

SNSによっては、凍結されたアカウントのプロフィールページに、「このアカウントは利用規約に違反したため凍結されました」といった趣旨の表示が、第三者から閲覧可能な状態で行われることがあります

利用規約違反の事実がないにもかかわらず、このような表示を行うことは、当該利用者の社会的評価を低下させるものとして、名誉権侵害(名誉毀損)に該当する可能性があります 。

この場合、当該表示の削除を請求することが考えられます 。
プラットフォームの技術的な仕様上、この表示のみを削除することが困難であり、表示を削除するためにはアカウント凍結自体を解除せざるを得ない、というケースも想定されます 。
また、仮に表示のみ削除できても、「アカウントが凍結されている」という事実自体が、利用規約違反を想起させるため、権利侵害状態の解消(名誉の回復)のためには凍結解除が必要である、という主張も考えられます 。

なお、この構成による場合、国際裁判管轄は、不法行為地(権利侵害の結果発生地)が日本国内であるとして、日本の裁判所に認められやすいと考えられます

3.名誉感情侵害に基づく請求

第三者には見えない形で、利用者本人に対してのみメール等で「規約違反があった」旨が通知される場合、名誉毀損の構成は困難です

このようなケースでは、根拠なく規約違反者として扱われたことが、個人の主観的な自尊心(名誉感情)を侵害したと主張することが考えられます 。
ただし、第三者への社会的評価の低下を伴わない名誉感情侵害のみを理由として、凍結解除という措置を裁判所に認めさせるハードルは、名誉毀損の場合よりも高くなる可能性があります 。

迅速な解決を目指す「民事保全手続(仮処分)」

アカウント凍結解除を求める裁判手続きには、「通常訴訟」と「民事保全手続(仮処分)」の2種類があります。

1.通常訴訟の問題点

通常訴訟は、最終的な判決を得るために、場合によっては1年近い期間を要することもあります 。
その間、アカウントが利用できない状態が続くと、SNS上で築いてきた人間関係が断絶されたり、事業者が事業機会を喪失したりするなど、回復困難な損害が生じるおそれがあります 。

2.仮処分の有効性

そこで、より迅速な解決を図るための手段として、民事保全手続(仮処分)の申立てが有力な選択肢となります 。
仮処分は、本格的な訴訟の前に、裁判所が暫定的な権利保護を命じる手続きで、通常は数週間から数か月程度で裁判所の判断が示されます。

仮処分が認められるためには、「被保全権利」(凍結解除を求める実体的な権利)と「保全の必要性」(仮処分でなければ回復困難な損害が生じること)の両方を、裁判所に対して主張・疎明(一応の確からしさを示すこと)する必要があります

3.仮処分における主張・立証のポイント

  • 被保全権利の主張・疎明: 法的構成(契約に基づく権利、名誉権など)が存在することを、証拠に基づいて主張します。例えば、名誉権侵害を主張する場合、「アカウントIDから本人を特定できること(同定可能性)」や、「『規約違反で凍結』という表示が社会的評価を低下させること」などを具体的に説明する必要があります 。実名で利用しているアカウントであれば同定可能性は認められやすいですが、匿名アカウントの場合は、そのアカウントが現実の本人とどのように結びついているかを詳細に主張する必要があります 。
  • 保全の必要性の主張・疎明: 凍結状態が続くことによって、申立人にどのような「著しい損害又は急迫の危険」が生じるかを具体的に主張します 。個人の場合はコミュニティからの孤立や精神的苦痛、事業者の場合は信用の低下や経済的損失などがこれに該当します 。

これらの主張・疎明が認められれば、裁判所は運営会社に対して、アカウント凍結を暫定的に解除するよう命じる決定(仮処分命令)を下す可能性があります。

結論

SNSアカウントが不当に凍結された場合、利用者は、プラットフォームが用意した異議申し立て制度のほか、契約上の権利や名誉権などを根拠として、裁判手続きを通じてその解除を求めることが可能です。
特に、長期間の不利益を避けるためには、民事保全手続(仮処分)の利用が有効な手段となり得ます。

ただし、国際裁判管轄の問題や、各法的構成における主張・立証の難易度など、専門的な判断を要する点が多く含まれます 。
また、弁護士資格を持たないにもかかわらず、報酬を得る目的で凍結解除の代行を謳う非弁行為を行う業者も存在するため、注意が必要です 。
アカウント凍結に関して法的な対応を検討する際は、この種の問題に精通した弁護士に相談することが推奨されます 。

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この記事を書いた人

髙田法律事務所の弁護士。
インターネットの誹謗中傷や離婚、債権回収、刑事事件やその他、様々な事件の解決に携わっている。
最新のビジネスや法改正等についても日々研究を重ねている。

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