離婚における父親の親権獲得について|判断基準となる「子の福祉」と監護実績の重要性

目次

はじめに

離婚に際して未成年の子どもがいる場合、父母のどちらを親権者とするかは、子どもの将来に関わる極めて重要な取り決めです。

一般的に、離婚調停や裁判においては母親が親権者に指定されるケースが多いという実情があります。
そのため、親権を希望する父親の中には、「父親が親権を獲得するのは制度上難しいのではないか」という不安を抱かれる方も少なくありません。

しかし、家庭裁判所が親権者を決定する際の基準は、性別そのものではありません。
あくまで「子どもの利益(福祉)にとって、どちらの親が育てるのが適しているか」という観点から判断されます。
そのため、これまでの育児への関わり方や今後の養育環境によっては、父親が親権者に指定されるケースも十分にあり得ます。

本稿では、裁判所が親権者を決定する際の法的な判断基準、父親が親権を獲得するために重視されるポイント、そして調停等に向けて準備すべき事項について、解説します。

親権者はどのように決定されるのか

親権者の決定において、裁判所が最も重視する基準は「子の福祉」です。
これは、子どもの心身の健全な成長と幸福を最優先するという考え方です。
この「子の福祉」を具体的に判断するために、実務上、主に以下の4つの原則が用いられています。

1-1. 継続性の原則

これまで誰が中心となって子どもの世話(監護)をしてきたかという実績を重視する原則です。
子どもの生活環境が急激に変化することは、精神的な安定を損なうおそれがあります。
そのため、これまで主たる監護を行ってきた親との生活を継続させることが、子どもの利益にかなうと考えられています。
一般的に母親が親権者になりやすいとされる主な理由は、多くの家庭において、母親が食事や入浴、送迎といった日常的な世話を主に行っているケースが多いため、この「継続性の原則」に基づき評価される結果と言えます。

1-2. 母性優先の原則

乳幼児(特に授乳が必要な時期など)においては、母親的な関わりが子どもの成育に不可欠であるとする考え方です。
ただし、子どもの年齢が上がるにつれて、この原則が適用される重要度は相対的に低くなり、父親であっても適切な監護が可能であれば親権者として認められる余地が広がります。

1-3. 子の意思の尊重

子どもがある程度の年齢に達している場合、子ども自身の「どちらの親と暮らしたいか」という意向が尊重されます。
概ね10歳前後からは子どもの意思確認が行われることが多く、15歳以上の場合は、法律上、裁判所は子どもの陳述を聴かなければならないと定められています。

1-4. 兄弟姉妹不分離の原則

兄弟姉妹は一緒に育てることが望ましいとする原則です。
年齢差やこれまでの養育状況によっては別々に暮らすことが認められる場合もありますが、基本的には分離しない方向で検討されます。

父親が親権を獲得するために必要な要素

父親が親権を獲得するためには、前述の判断基準を踏まえ、自身が親権者として適格であることを具体的に示す必要があります。
特に以下の点が重視されます。

2-1. 主たる監護者としての実績

最も重要なのは、「これまで実際にどれだけ子どもの世話をしてきたか」という実績です。
単に休日遊ぶだけでなく、平日の食事の準備、入浴、寝かしつけ、保育園や学校の準備・送迎、病気の際の看病など、生活全般にわたる育児を行ってきた実績があるかどうかが問われます。
もし現在同居中であれば、これらの育児を主体的に担うことが求められます。

2-2. 安定した養育環境と監護補助者

離婚後、仕事と育児をどのように両立させるかという具体的な計画が必要です。
フルタイムで勤務している場合、残業や急な呼び出しへの対応が課題となります。
自身で時間の調整が可能であることに加え、実家の両親(祖父母)などの「監護補助者」の協力が得られるかどうかが大きなポイントとなります。
祖父母などが送迎や病児保育をサポートできる体制が整っていることは、親権判断においてプラスの要素となります。

2-3. 子どもとの情緒的結びつき

子どもが父親に対して安心感を抱き、良好な関係が築けていることも必要です。
日頃のコミュニケーションを通じて、子どもとの信頼関係を維持することが大切です。

2-4. 面会交流への寛容性

自分が親権者となった場合、子どもが母親(非監護親)と会うこと(面会交流)に対して協力的であるかどうかも評価されます。
相手方の悪口を子どもに吹き込んだり、面会を不当に拒絶したりする態度は、子どもの福祉に反するとみなされます。
相手方との交流を尊重する姿勢(フレンドリーペアレント・ルール)を示すことが重要です。

母親側の事情による判断への影響

母親が親権を希望していても、以下のような事情がある場合には、父親が親権者として指定される可能性が高まります。

3-1. 育児放棄(ネグレクト)や虐待

母親が食事を与えない、入浴させない、長時間放置する、あるいは暴力を振るうといった虐待行為がある場合、子どもの安全を守るために父親が親権者となるべきと判断されます。

3-2. 子どもを残しての別居

母親が子どもを自宅に置いたまま家を出て別居を開始した場合です。
この場合、その後父親が子どもと同居し、世話を継続することになります。
裁判所は現状の生活環境を維持することを重視するため、別居期間が長くなるほど、「父親との生活が定着している」と判断され、父親が有利になる傾向があります。

3-3. 重篤な健康上の問題

母親が重い病気や精神疾患を抱えており、子どもの世話をすることが客観的に困難であると判断される場合です。

3-4. 不貞行為(不倫)の扱い

配偶者の不貞行為は離婚原因となりますが、親権の判断とは切り離して考えられるのが原則です。
「妻として不貞をしたこと」と「母として子育てができるか」は別の問題とされるため、不貞行為があったという事実だけで直ちに親権が取れなくなるわけではありません。
ただし、不貞相手との交際を優先して育児を放棄していたり、生活環境を著しく不安定にさせていたりする場合は、監護能力に問題があると判断され、考慮される要素となります。

親権獲得に向けた準備と対策

調停や裁判において、自身の主張を認めてもらうためには、客観的な資料の準備が不可欠です。

4-1. 育児日記の作成

自身が子育てに関わっていることを証明するために、「育児日記」をつけることが有効です。
日々、何時に起きて何を食べさせたか、保育園での様子、健康状態などを具体的に記録します。
継続的な記録は、監護実績を示す有力な資料となります。

4-2. 陳述書の作成

これまでの育児の経緯、現在の生活状況、離婚後の養育計画などをまとめた陳述書を作成します。
監護補助者(祖父母など)がいる場合は、その方にも協力の意思や具体的なサポート内容について陳述書を作成してもらうと良いでしょう。

4-3. 別居時の対応

親権を争う場合、別居の際の対応は極めて重要です。
もし、子どもを連れて別居を開始する場合、その経緯や方法によっては「違法な連れ去り」とみなされるリスクがあります。
違法と判断されると、親権者としての適格性を疑われることになりかねません。
一方で、子どもを置いて家を出てしまうと、相手方による監護の実績が積み重なることになります。
別居を検討する際は、事前に専門家に相談し、慎重に対応する必要があります。

家庭裁判所調査官による調査

親権について対立がある場合、家庭裁判所調査官による調査が行われることが一般的です。

5-1. 調査官の役割

家庭裁判所調査官は、心理学や教育学などの専門知識を持つ職員です。
父母双方や子どもと面談し、家庭訪問や学校照会などを通じて、どちらが親権者として適しているかを調査し、裁判官に報告します。

5-2. 調査への対応

調査官との面談では、自身の育児実績や計画を具体的に説明するとともに、子どもの利益を第一に考えている姿勢を示すことが重要です。
相手方を感情的に非難するのではなく、事実に基づいて客観的に状況を説明する必要があります。

おわりに

離婚における親権者の決定は、性別によって自動的に決まるものではなく、「子の福祉」の観点から、これまでの監護実績や今後の養育環境などを総合的に考慮して判断されます。

父親であっても、主体的に育児に関わってきた実績があり、離婚後も安定して子どもを育てられる環境を整えることができれば、親権を獲得できる可能性はあります。
そのためには、感情的な対立にとらわれることなく、客観的な事実を積み重ね、子どもの利益を最優先に考えた主張を行うことが重要です。

親権の問題は、子どもの将来に直結する重要な事項です。
不安や疑問がある場合は、離婚問題に詳しい弁護士に相談し、適切なアドバイスを受けることをお勧めします。

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この記事を書いた人

髙田法律事務所の弁護士。
インターネットの誹謗中傷や離婚、債権回収、刑事事件やその他、様々な事件の解決に携わっている。
最新のビジネスや法改正等についても日々研究を重ねている。

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