闇バイト「採用面接」で自宅動画を送ってしまったら?脅迫の手口について

目次

はじめに

「高額バイトに応募したら、採用面接だと言われて自宅の中を撮影した動画を送らされた」 「辞めたいと言ったら、『実家に行くぞ』と動画のスクショとともに脅されている」 「家族に危害が及ぶのが怖くて、犯罪だと分かりながら指示に従ってしまっている」

連日報道されている「闇バイト(トクリュウ:匿名・流動型犯罪グループ)」による強盗・詐欺事件。
その手口は日々巧妙化・凶悪化しており、最近の捜査関係者への取材や押収資料からは、「採用面接」と称して応募者に自宅や実家の内部を撮影した動画を送らせるという、悪質な手口が明らかになっています。

これは単なる本人確認ではありません。応募者を「逃げられない状態(心理的拘束)」にするための、計画的な「人質」確保行為です。

一度この罠にかかると、「辞めたら家に行く」「家族を殺す」と脅され、強盗や詐欺の実行役(捨て駒)として使い捨てにされてしまいます。
しかし、どれだけ脅されていたとしても、犯罪を実行すればあなた自身が逮捕され、実刑判決を受けるリスクがあります。

この記事では、刑事事件に精通した弁護士が、最新の闇バイト採用の手口、動画を送ってしまった場合の初期対応、警察への自首・相談の法的メリット等について解説します。

なお、闇バイトについては、以下のコラムもご確認ください。

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第1章:「自宅動画」を送らせる採用手口と目的

まずは、報道や供述から判明している最新の手口について解説します。

1-1. 「ホワイト案件」を装った入り口

入り口はX(旧Twitter)やInstagramなどのSNS、あるいは一般的な求人サイトです。
「荷運び」「書類回収」「高額即日払い」といった言葉で募集されています。
応募すると、Telegram(テレグラム)やSignal(シグナル)などの一定期間が経過するとメッセージが消える秘匿性の高い通信アプリに誘導されます。

ここで「採用面接」「身元確認」と称して、以下の情報の提出を求められます。

  1. 身分証の画像(免許証・マイナンバーカード)を顔の横で持って撮影(自画撮り)
  2. 実家の住所、家族構成、親の勤務先
  3. 自宅の玄関から部屋の中までを映した動画

1-2. なぜ「自宅動画」を撮影させるのか

従来の「身分証」だけでは、住所変更などで逃げられる可能性がありました。
しかし、「部屋の中の動画」や「最寄駅から自宅までのルート動画」を送らせることで、犯罪組織は以下の効果を狙っています。

  • 「本当にそこに住んでいる」という確証を得る: 確実に報復に行ける場所を把握する。
  • 心理的な支配(恐怖の植え付け): 「玄関の鍵の形状」「部屋の間取り」「家族の声」などが犯罪組織に渡ることで、応募者は「生活のすべてを握られた」という強烈な恐怖を感じます。
  • 強盗の下見情報の収集: 応募者自身がターゲットになるケースだけでなく、その実家が資産家である場合、そこを強盗のターゲットにするための情報収集として使われる可能性もあります。

1-3. 「断ると家に行く」という脅迫

動画を送った直後から、態度は急変します。
「仕事」の内容が強盗や詐欺であることを明かされ、拒否しようとすると、送った動画のスクリーンショットと共に「家は分かっている」「今から行くぞ」「家族をさらう」といった脅迫メッセージが届きます。
これが、普通の若者が凶悪犯罪の実行役に変貌させられる仕組みです。

第2章:動画を送ってしまった直後の対処法

もし、あなたやご家族が「動画を送ってしまった」段階で、まだ犯罪を実行していない(あるいは指示待ちの)状態であれば、一刻も早い対処が必要です。

2-1. 絶対にやってはいけないこと

  1. 指示に従って犯罪に加担すること: 「一回だけやれば解放する」は嘘です。一度でも加担すれば「共犯者」となり、さらに強い脅しの材料にされます。
  2. 独断での着信拒否・ブロック(状況による): 何も対策せずにいきなりブロックすると、相手が逆上して本当に嫌がらせ(大量のデリバリー注文や近隣への誹謗中傷など)を行うリスクがあります。警察や弁護士と連携し、保護体制を整えてから遮断するのが鉄則です。
  3. SNSで相談すること: 「助けてください」とSNSに投稿すると、別の犯罪グループや詐欺師が「助けてあげる」と接近してくる(二次被害)恐れがあります。

2-2. Step1:警察への相談(緊急時は110番)

「まだ何もしていないのに警察に行っていいのか?」と迷う必要はありません。
「犯罪に巻き込まれそうになっている」「脅迫されている」という被害者として、最寄りの警察署、または警察相談専用電話「#9110」に相談してください。

  • 警察の対応: 事情聴取の上、自宅周辺のパトロール強化や、相手からの連絡を遮断するための具体的な指示をしてくれます。警察が介入した案件に対して、犯罪グループがリスクを冒して報復に来る可能性は低くなります(彼らにとって逮捕リスクが高いため)。

2-3. Step2:物理的な避難(シェルター・転居)

自宅動画を送ってしまった以上、その場所は安全とはいえません。
一時的に実家を出る、ホテルに泊まる、親戚の家に身を寄せるなど、「物理的にそこにいない」状態を作ることが、安全確保に有効です。

2-4. Step3:弁護士への相談(交渉の窓口化)

「警察に行くのが怖い」「自分が逮捕されるのではないか不安」という場合は、まず弁護士に相談してください。
弁護士は守秘義務があるため、相談内容を勝手に警察に通報することはありません。
弁護士が介入し、警察への同行や、今後の生活再建に向けた法的アドバイスを行うことで、逮捕リスクを最小限に抑えながら組織から抜けるサポートを行います。

第3章:すでに犯罪に加担してしまった場合の対応

もし、脅迫に屈して「受け子」「出し子」「強盗の運転手」「見張り」などを一度でもやってしまった場合、あなたは法的には「被疑者」の立場になります。
しかし、そこで諦めてはいけません。逮捕される前に動くことで、未来が変わる可能性があります。

3-1. 自首(じしゅ)の重要性と法的効果

警察に発覚する前、あるいは指名手配される前に、自ら警察に出頭して罪を申告することを「自首」といいます。

【刑法 第42条1項】
罪を犯した者が捜査機関に発覚する前に自首したときは、その刑を減軽することができる。

自首には以下のメリットがあります。

  1. 刑の減軽: 裁判で刑が軽くなる可能性が高まります(執行猶予が付く可能性など)。
  2. 逮捕の回避: 逃亡の恐れがないと判断されれば、逮捕されずに在宅捜査(普段通りの生活をしながら取り調べを受ける)となる可能性があります。
  3. 組織からの離脱: 警察に保護されることで、物理的に組織との関係を断ち切ることができます。

3-2. 弁護士同行による自首(自首同行)

一人で警察に行くのが怖い場合、弁護士が同行することができます。
弁護士が同行することで、以下のサポートが可能です。

  • 「上申書」の作成: 脅迫されていた経緯や、反省の意、組織の情報などをまとめた書面を提出し、警察に事情を正しく理解させます。
  • 不当な取り調べの防止: 脅されてやったという事情を無視され、主犯格のように扱われることを防ぎます。
  • 身柄解放活動: 逮捕された場合でも、早期の釈放を働きかけます。

3-3. 逮捕・勾留の流れ

自首しなかった場合、あるいは現場で現行犯逮捕された場合、以下の流れで手続きが進みます。

  1. 逮捕(最大72時間): 警察署の留置場に入れられます。多くの場合で接見禁止が付き、外部との連絡は取れません。
  2. 勾留(最大20日間): 検察官の請求により、さらに長期間拘束されます。
  3. 起訴・不起訴の決定: 裁判にかけるかどうかが決まります。起訴されれば「被告人」となります。

第4章:トクリュウ(匿名・流動型犯罪グループ)対策と家族の役割

今回のテーマである「自宅動画」を送らせる手口は、トクリュウ特有のものです。
家族や周囲の人間ができることについて解説します。

5-1. 家族が異変に気づいたら

子どもや配偶者が以下のような様子を見せたら要注意です。

  • 急に高級な服やバッグを持っている。
  • スマホを隠すように使う、常に誰かと連絡を取っている。
  • 「実家に変な電話や訪問はないか?」と気にする。
  • 突然「引越したい」「しばらく帰らない」と言い出す。

この場合、問い詰めるのではなく、「何か脅されているなら、一緒に警察や弁護士に行こう」と安全地帯があることを伝えてください。
本人は「話したら家族が殺される」と信じ込まされている可能性があります。

5-2. 弁護士への相談

もし家族が逮捕されてしまった場合、早急に弁護士へご相談ください。
弁護士ができる最も重要な活動の一つが「被害者との示談」です。
詐欺や強盗の被害者に謝罪し、被害金を弁償することで、「許し(宥恕)」を得られれば、裁判での量刑が大幅に軽くなる可能性があります。

おわりに

犯罪組織は、以上のような手口を使い、あなたやご家族を犯罪に引き込みます。
世の中には、簡単に大金が手に入るような話などはありません。
少しでも怪しいと思ったら、家族や警察、弁護士にご相談ください。

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この記事を書いた人

髙田法律事務所の弁護士。東京弁護士会所属 登録番号60427
インターネットの誹謗中傷や離婚、債権回収、刑事事件やその他、様々な事件の解決に携わっている。
最新のビジネスや法改正等についても日々研究を重ねている。

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