インターネット上の誹謗中傷への法的対処法を解説|削除・特定・損害賠償・刑事告訴まで

目次

はじめに

今や大インターネット時代。
誰もがスマートフォン(スマホ)やパソコン(PC)を持っています。
それに伴ってSNSも発達し、誰もが簡単にネットを通じて全世界に発信することが可能です。
ただ、悲しいことに、ポジティブな発信だけではなく、誰かを傷つけてしまうようなネガティブな発信が多いことも事実です。
人間同士が集まってコミュニティを形成して生きていく以上、誹謗中傷はなくなりません。
一説によると、人間だけでなく野生の動物もいじめ等をしていることが確認されているそうで、動物の本能的なものなのかもしれません。
なくなるのが理想ではあるものの、とはいえ、簡単にはなくならないのが誹謗中傷です。
今回は誹謗中傷に遭った際の法的手続について解説いたします。

誹謗中傷の法的定義と権利侵害

「誹謗中傷」という言葉は日常的に使われますが、法律用語ではありません 。
法的な手続きを行うためには、その投稿が具体的にどのような「権利侵害」に該当するかを特定する必要があります。

2-1. 名誉毀損(名誉権侵害)

公然と事実を摘示し、人の社会的評価を低下させる行為です。 (例:「Aさんは不倫をしている」「B社は脱税している」など具体的な事実を含むもの)

2-2. 侮辱(名誉感情侵害)

事実を摘示せずとも、公然と人を侮辱し、社会的評価を低下させる行為です。 (例:「バカ」「死ね」「無能」などの罵詈雑言や抽象的な評価)

2-3. プライバシー侵害

私生活上の事実や、一般に知られていない情報を公開されることによって成立します。 (例:住所、電話番号、病歴、前科などの公開)

2-4. 肖像権侵害

容貌や姿態を無断で撮影・公表されることによる権利侵害です。

2-5. 著作権侵害

他人が作成した文章や画像、動画などを無断で転載・使用する行為です

2-6. 権利侵害が認められないケース

投稿者が「誹謗中傷だ」と感じても、客観的に見て権利侵害(違法性)が認められないケースもあります。
例えば、公共の利害に関する事実であり、公益を図る目的で、かつ真実である(または真実と信じる相当な理由がある)場合には、名誉毀損の違法性が阻却される可能性があります(真実性の抗弁など)。

投稿の削除請求

権利侵害にあたる投稿を放置すると、拡散され被害が拡大する恐れがあります。
そのため、まずは投稿の削除を検討します 。

3-1. 任意削除請求(サイト運営者への通報)

裁判所を通さず、サイト運営者やプロバイダに対して直接削除を求める方法です

3-1-1. 各SNSの通報フォーム・削除依頼窓口

X(旧Twitter)、Instagram、Facebook、YouTube、Googleマップなどの主要なプラットフォームには、専用の通報フォームや削除依頼窓口が設けられています。
利用規約やガイドライン違反を理由に削除を求めます。

3-1-2. 情報流通プラットフォーム対処法(旧:プロバイダ責任制限法)に基づく送信防止措置請求

「情報流通プラットフォーム対処法(特定電気通信による情報の流通によって発生する権利侵害等への対処に関する法律)」に基づき、書面(送信防止措置依頼書)を送付して削除を求める方法です。
プロバイダは発信者(投稿者)に削除の可否を照会し、原則として7日以内に反論がなければ削除を行います。

3-1-3. 情報流通プラットフォーム対処法の施行と影響

2025年4月に施行された「情報流通プラットフォーム対処法」により、大規模なSNS事業者等(大規模特定電気通信役務提供者)に対し、削除申出窓口の設置や、削除基準の公表、申出に対する迅速な対応などが義務付けられました。
これにより、プラットフォーム側の対応がより透明化・迅速化されることが期待されます。

3-2. 裁判所を通じた削除命令申立て(仮処分等)

任意の削除請求に応じてもらえない場合、裁判所の手続きを利用します

3-2-1. 仮処分と通常訴訟の違い

削除請求では、通常の訴訟(判決まで1年程度)ではなく、簡易迅速な「仮処分」手続きが利用されるのが一般的です。
仮処分であれば、申立てから1~2ヶ月程度で削除命令が出されることが多いです 。

3-2-2. 担保金の供託について

仮処分命令を得るためには、申立人(債権者)が法務局に担保金(供託金)を納める必要があります。
金額は事案や裁判所によりますが、30万円~50万円程度が相場です。この担保金は、手続き終了後に所定の手続きを経て取り戻すことができます。

投稿者の特定手続き(発信者情報開示請求)

投稿を削除しても、同一人物による再投稿や、損害賠償請求を行うためには、匿名の投稿者を特定する必要があります。
これを「発信者情報開示請求」といいます 。

4-1. 発信者情報開示請求の仕組みと法改正(情報流通プラットフォーム対処法)

情報流通プラットフォーム対処法(旧:プロバイダ責任制限法)に基づき、投稿者の氏名、住所、電話番号、メールアドレスなどの情報を開示させる手続きです。
2022年10月の改正法施行により、手続きが簡素化・迅速化されました 。

4-2. 具体的な手順(2段階の手続きと新たな非訟手続)

特定に至るまでのプロセスは複雑です

4-2-1. 【第1段階】コンテンツプロバイダ(CP)への開示請求(IPアドレス等)

まず、XやGoogleなどのサイト運営者(コンテンツプロバイダ)に対し、投稿時のIPアドレスとタイムスタンプの開示を求めます

4-2-2. 【第2段階】アクセスプロバイダ(AP)への開示請求(契約者情報)

開示されたIPアドレスから、投稿者が利用した通信事業者(NTT、ドコモ、ソフトバンクなどのアクセスプロバイダ)を特定します。
次に、その通信事業者に対し、契約者の氏名・住所等の開示を求めます 。

4-2-3. 発信者情報開示命令事件(一体的な手続き)

改正により創設された「発信者情報開示命令事件」では、これまで別々に行っていた第1段階と第2段階の手続きを、一つの裁判手続きの中で一体的に行うことが可能となり、特定のスピードアップが図られています。

4-3. ログ保存期間とタイムリミット

通信事業者(AP)が投稿者のアクセスログを保存している期間は、一般的に携帯キャリアで約3ヶ月、固定回線で約6ヶ月~1年程度と非常に短いです。
この期間を過ぎるとログが消去され、特定が不可能になります。
そのため、投稿を発見したら直ちに手続きに着手する必要があります 。

4-4. 開示請求が認められる要件

開示が認められるためには、「権利侵害の明白性」と「開示を受ける正当な理由」が必要です。
単に「気に入らない」「不快だ」という理由だけでは開示されません。

投稿者特定後の法的責任追及

投稿者が特定された後は、民事・刑事の両面から責任を追及することができます

5-1. 民事上の責任追及(損害賠償請求・慰謝料請求)

特定した投稿者に対し、不法行為に基づく損害賠償を請求します

5-1-1. 慰謝料の相場と算定要素

慰謝料の額は、侵害された権利の内容、投稿の悪質性、拡散の程度、被害者の社会的地位などによって異なります。

  • 名誉毀損(個人):10万~50万円程度(場合により100万円以上)
  • 名誉毀損(法人):50万~100万円程度
  • 侮辱・プライバシー侵害:数万~数十万円程度

5-1-2. 調査費用(弁護士費用)の請求

投稿者の特定に要した弁護士費用(調査費用)の一部(または全部)を、損害として請求できる場合があります。

5-1-3. 示談交渉による解決

いきなり訴訟を起こすのではなく、まずは内容証明郵便などで請求を行い、示談交渉(裁判外の和解)を試みるケースも多いです

5-2. 被害回復措置(謝罪文掲載・削除確約など)

金銭賠償だけでなく、謝罪文の掲載や、当該投稿の削除、今後同様の行為を行わない旨の誓約(削除確約)などを求めることもあります。
示談の条件として盛り込まれることが一般的ですが、裁判所に謝罪広告の掲載を命じてもらうことも可能です 。

5-3. 刑事上の責任追及(刑事告訴)

投稿内容が悪質な場合、警察に告訴状を提出し、刑事処罰を求めることができます

5-3-1. 名誉毀損罪・侮辱罪・信用毀損罪・業務妨害罪

  • 名誉毀損罪(刑法230条):3年以下の懲役若しくは禁錮又は50万円以下の罰金
  • 侮辱罪(刑法231条):1年以下の懲役若しくは禁錮若しくは30万円以下の罰金又は拘留若しくは科料
  • 信用毀損罪・業務妨害罪(刑法233条・234条):3年以下の懲役又は50万円以下の罰金

どのような内容でも刑事告訴できるわけではありません。
刑法その他の罪に該当するものでなくてはならないため、プライバシー権侵害や肖像権侵害の場合には刑事告訴はできません。

5-3-2. 侮辱罪の厳罰化と拘留・科料の改正

2022年7月の刑法改正により、侮辱罪の法定刑が引き上げられました(「拘留又は科料」から「1年以下の懲役若しくは禁錮若しくは30万円以下の罰金又は拘留若しくは科料」へ。なお、現在は「懲役」ではなく「拘禁刑」となっています。)。
これにより、公訴時効も1年から3年に延長されました。

5-3-3. 告訴期間(犯人を知った日から6ヶ月)

名誉毀損罪や侮辱罪は親告罪であり、被害者が犯人を知った日から6ヶ月以内に告訴しなければなりません。

弁護士に依頼するメリットと費用

誹謗中傷対策は、高度な法的知識と迅速な対応が求められます。

  • 権利侵害の法的構成(どの権利が侵害されたかの主張)が難しい
  • プロバイダ等の事業者が個人からの請求に応じないことが多い
  • ログ保存期間というタイムリミットがある
  • 複雑な裁判手続き(仮処分、訴訟、非訟手続)が必要になる

弁護士に依頼することで、適切な法的判断に基づき、迅速かつ確実に手続きを進めることが可能になります

7. よくある質問(FAQ)

誹謗中傷されたらまず何をすべきですか?

証拠の保存(URL、スクリーンショット、投稿日時など)を最優先で行ってください。その後、速やかに弁護士等の専門家へ相談することをお勧めします。

相手が特定できなくても損害賠償請求はできますか?

A. 相手が特定できていない段階では、請求先がないため損害賠償請求はできません。まずは発信者情報開示請求を行い、相手を特定する必要があります。

昔の投稿でも削除や特定は可能ですか?

削除については、権利侵害が継続していれば可能な場合があります。特定については、ログ保存期間(3~6ヶ月)を過ぎていると困難な場合が多いです。

最後に

個人的な見解ですが、誹謗中傷を完全になくすことは、人間には不可能ではないかと考えています。
だからといって、誹謗中傷が容認されるべきとも考えていません。
未然に完全に防ぐことは不可能であるとして、事後的に救済される、行為の責任を負うというシステムをきちんと構築することが必要だと考えています。

誹謗中傷に対する適切な対応はケースによっても様々です。
ご相談いただいた内容によっては、「もう見ないようにして放置した方が良い」と回答することもあります。
ただ、きちんと対応するとなった場合、投稿者の特定などは複雑な手続を要します。
AIの発達によって、一般の方でも専門的な知識を身に着けることが容易になってはいますが、それでも実際に手続を進めるのは(少なくとも執筆時点では)困難なように思います。
被害に遭われた場合、今後どのような対応をしていくのか弁護士にご相談されることをおすすめします。

インターネットの誹謗中傷等についてはこちら

弊所の弁護士へのご相談等はこちらから

  • URLをコピーしました!
  • URLをコピーしました!

この記事を書いた人

髙田法律事務所の弁護士。東京弁護士会所属 登録番号60427
インターネットの誹謗中傷や離婚、債権回収、刑事事件やその他、様々な事件の解決に携わっている。
最新のビジネスや法改正等についても日々研究を重ねている。

目次