はじめに
今や大インターネット時代。
誰もがスマートフォン(スマホ)やパソコン(PC)を持っています。
それに伴ってSNSも発達し、誰もが簡単にネットを通じて全世界に発信することが可能です。
ただ、悲しいことに、ポジティブな発信だけではなく、誰かを傷つけてしまうようなネガティブな発信が多いことも事実です。
人間同士が集まってコミュニティを形成して生きていく以上、誹謗中傷はなくなりません。
一説によると、人間だけでなく野生の動物もいじめ等をしていることが確認されているそうで、動物の本能的なものなのかもしれません。
なくなるのが理想ではあるものの、とはいえ、簡単にはなくならないのが誹謗中傷です。
今回は誹謗中傷に遭った際の法的手続について解説いたします。
誹謗中傷とは
分かりやすさのために誹謗中傷という言葉を使用していましたが、これは、厳密には法律用語ではありません。
法律上、法的手続の対象となるのは、他人の権利等を侵害する行為です。
この点についての詳細な記事はまた別の機会に執筆しますが、例えば、ある人が「この投稿は私に対する誹謗中傷(権利侵害)だ!」と思っても、法的には「権利等を侵害しているとはいえない」と判断されるケースもあります。
投稿を削除する
自身の権利を侵害するような投稿がなされた場合、これを放置すると被害が拡大するケースがあります。
これに対処するための方法が、投稿の削除です。
投稿を削除する方法は、大きく分けると任意での削除と、裁判手続による削除の2パターンがあります。
任意での削除は、投稿がなされたSNSを運営している事業者に対して、電話やメール、FAXその他の方法を通じてSNS運営事業者に当該投稿を削除してもらうという方法です。
ほとんどのSNSではこういった請求に対する窓口のようなものを設けていますから、そこから削除請求をするのが一般的です。
なお、2025年4月には情報プラットフォーム対処法が施行され、大規模特定電気通信役務提供者に指定された業者は、削除のための窓口を設けることが義務付けられました。
詳細はこちらでご確認ください。
裁判手続による削除は、仮処分と言われる簡易迅速な手続か、通常訴訟で行われます。
裁判手続の場合、どちらの手続にも共通する事項として、裁判官が判断するということが挙げられます。
そのため、きちんとした証拠があり、かつ、自身の権利が侵害されているということが認められなければなりません。
また、仮処分手続の場合には、(SNSにもよるのですが)簡易迅速な手続であることから、担保金の供託を命じられます。
一方で、通常訴訟はそのような担保金がありませんが、裁判所の判断までに1年近くかかることも多いです(仮処分だと1,2か月程度)。
投稿者を特定する(発信者情報開示手続)
上記の削除手続では、投稿を削除してもまた同じような投稿を繰り返されてしまう可能性があります。
また、投稿を削除するだけでは被害は回復しきっておらず、投稿者に損害賠償請求その他の対応をしたいという場面もあるでしょう。
そのような場合にするのが、投稿者の特定(発信者情報開示手続)です。
最近は単語としてもメジャーになってきた発信者情報開示ですが、手続は複雑です。
ものすごく簡略化したプロセス(流れ)は以下のとおりです。
1.SNS等のウェブサイト運営者・管理者に対して投稿者の情報(IPアドレス等)を開示してもらう
2.インターネット接続サービスを提供する事業者に対して、投稿者の情報を開示してもらう
発信者情報開示をする場合、特に上記プロセス2で、事業者が投稿者のログ情報を保有していることが3か月から6か月程度であることが多いため、投稿を見つけたらすぐに動き出さなければ間に合いません。
事業者によってはログを長期間保有している(あるいは、消さないことにしている)ということもあるのですが、投稿を見た段階では、投稿者がどこのインターネットサービスを利用しているのかわからないことがほとんどのため、とりあえず急ぐに越したことはありません。
投稿者を特定するまで、2022年10月に法律が改正され、手続が多少早くはなったのですが、それでも半年ぐらいはかかることが多いと思われます。
投稿者を特定したその後
晴れて投稿者を特定できた場合、その後にやる事として多いのは、損害賠償請求(慰謝料請求)かと思います。
損害賠償請求も、訴訟外で交渉をしてまとまるケースもあれば、まとまらずに訴訟をするケース、いきなり訴訟をするケースなど様々です。
次に、割合としては決して多くありませんが、損害賠償請求の他に被害回復措置を請求することもあります。
よくあるのが、謝罪文や謝罪広告を掲載してもらうなどです。
示談交渉の際に、謝罪文を出すことを条件に示談が成立することもありますし、(かなり数は少ないですが)裁判所に命じてもらうこともあります。
その他に、問題となる投稿が刑法等の刑事罰が定められている行為にも該当する場合、刑事告訴をすることも考えられます。
例えば、名誉毀損罪や侮辱罪、著作権侵害などがあります。
侮辱罪などは、2022年7月に法定刑が引き上げられた(罪が重くなった)ことから、知っている方も多いと思います。
最後に
個人的な見解ですが、誹謗中傷を完全になくすことは、人間には不可能ではないかと考えています。
だからといって、誹謗中傷が容認されるべきとも考えていません。
未然に完全に防ぐことは不可能であるとして、事後的に救済される、行為の責任を負うというシステムをきちんと構築することが必要だと考えています。
誹謗中傷に対する適切な対応はケースによっても様々です。
ご相談いただいた内容によっては、「もう見ないようにして放置した方が良い」と回答することもあります。
ただ、きちんと対応するとなった場合、投稿者の特定などは複雑な手続を要します。
AIの発達によって、一般の方でも専門的な知識を身に着けることが容易になってはいますが、それでも実際に手続を進めるのは(少なくとも執筆時点では)困難なように思います。
被害に遭われた場合、今後どのような対応をしていくのか弁護士にご相談されることをおすすめします。