無料求人広告に関するトラブル

はじめに

近年、中小企業の経営者や人事の担当者の方から、「無料だと言われて求人広告の契約をしたら、後から高額な掲載料を請求された」というご相談が増加しています。
よくあるのが、ハローワークに求人募集の掲載をしていたら「無料で求人広告を掲載しないか」と営業電話がかかってきたというパターンです。
今回は、このような「無料」を謳い文句にした求人広告の契約トラブルについて、その手口と法的な解決策を解説します。

増加する「無料」求人広告の手口

典型的な手口は、広告業者から「無料で求人広告を掲載しませんか?」「今ならキャンペーンで初期費用は一切かかりません」といった内容の電話やメールによる勧誘から始まります。
人手不足に悩む中小企業にとって、無料で求人活動ができるというのは非常に魅力的な提案です。
担当者は「無料なら」と気軽に承諾し、言われるがままに簡単な申込書にサインをしたり、ウェブ上のフォームに入力したりしてしまいます。
ところが、契約書の隅に小さな文字で、「無料期間は最初の2週間のみとし、その後は自動的に有料プラン(月額数万円~)に移行する」「解約の申し出がない限り、契約は自動更新される」といった条項が記載されているのです。
その結果、無料期間が過ぎた頃に突然、業者から高額な広告掲載料が請求され、トラブルに発展するケースが後を絶ちません。
なお、実際に広告掲載はされるようなのですが、広告サイトとしての価値は低く、「応募の問い合わせが1件もなかった」というのもよく聞く話です。

このようなトラブルに巻き込まれてしまった場合、どのように対処すればよいのか。
法的な観点から、いくつかの対抗策が考えられます。

契約の「錯誤取消し」を主張する

まず考えられるのは、民法95条に基づく「錯誤による取消し」の主張です。

錯誤とは、簡単に言えば「勘違い」のことです。
契約の重要な部分について、事実と異なる認識(この場合は「完全に無料だと思っていた」)に基づき契約をしてしまった場合、その契約を取り消すことができる可能性があります。

業者側が「有料であること」や「自動更新されること」について十分に説明せず、意図的に誤解を招くような勧誘を行っていた場合、この錯誤取消しの主張が認められる可能性は高まります。

もっとも、契約書には、自動的に有料プランへ移行する旨の記載があるため、この主張が認められるにはそれなりのハードルがあります。

詐欺取消しを主張する

次に考えられるのは、民法96条1項による詐欺取消しの主張です。

一定期間後に有料プランへ自動移行してしまうことを説明せずに、あるいは嘘の説明をして、あたかも費用をかけずに広告を出せると勘違いさせて契約させる場合、この民法上の詐欺に該当する可能性があります。

公序良俗違反による無効を主張する

ちゃんとした効果のある求人広告ではなく、一定期間無料であることを餌に、企業が契約解除を申し出るのを失念することを目的として契約をさせて高額な掲載料を取る場合、公序良俗に反する契約であると判断される可能性があります。
そのような場合、公序良俗に反するとして民法90条により無効であると主張することが考えられます。

トラブルに遭ってしまった場合の具体的な解決策

まずは、まだ契約をしていない場合、そもそも契約をしない方が良いです。タダほど高いものはないと言いますし。
どのような場合でもそうですが、費用がかからないという場合、その業者はどこで利益を上げているのかについて考えてみた方が良いです。
あとは、営業電話を録音しておくこと、きちんと契約書(申込書)を確認することも重要です。

うっかり契約をしてしまった場合、まだ無料掲載期間である場合には、すぐに契約解除の連絡をする方が良いです。
中には、電話やFAXを受け付けないようにして無料掲載期間が過ぎるのを狙う業者もあるようです。
それはそれで、悪徳であることを裏付ける事情にはなるのですが、とはいえ、契約解除できるに越したことはありませんから、内容証明郵便を送付するなども視野に入れたほうが良いでしょう。

実際に高額な請求書が届いてしまったら、以下の手順で冷静に対処しましょう。

STEP1:契約書・申込書の再確認
まずは手元にある契約書や申込書を隅々まで確認し、有料プランへの移行条件、料金、解約方法に関する条項を正確に把握します。

STEP2:書面による意思表示
電話で抗議するだけでなく、必ず書面で意思表示を行うことが重要です。
具体的には、「有料の契約であるとは認識しておらず、錯誤に基づいて契約を取り消す」といった内容を記載した通知書を、証拠が残る「内容証明郵便」で業者に送付します。
これにより、こちらの主張を明確に伝え、後の紛争に備えることができます。

STEP3:安易に支払わない
一度でも請求に応じて支払ってしまうと、契約内容を承認した(追認した)とみなされ、その後の交渉が不利になる可能性があります。
納得できない請求に対しては、安易に支払いに応じず、まずは支払いを拒否する姿勢を明確にしましょう。

おわりに

もし、このような求人広告に関するトラブルでお困りの際は、できるだけ早い段階で弁護士に相談した方が良いと思います。

余談ですが、有料掲載の金額は、私が経験したものだと20~40万円が多かったです。
予想でしかありませんが、弁護士を入れると赤字になるような微妙なところを狙っているものと思われます(とはいえ、書面で拒絶するだけなら弁護士費用はこれよりもう少し安くなる可能性はあります。)。
あと、複数の案件を担当していると、会社名は違うのに住所地は同じということもありました。
会社を複数立ち上げて、同時並行で色々なところに営業をかけているのでしょうね。

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