はじめに
ある日突然、警察から「ご家族の〇〇さんを逮捕しました」という一本の電話が入る、あるいは、家族が帰宅せず、後に逮捕されていたことが判明する──。
このような事態は、残された家族にとって、まさに青天の霹靂であり、何をどうすればよいのか分からず、不安に陥るのが通常です。
逮捕直後の対応は、その後の刑事手続きの展開や、逮捕されたご本人の処遇に極めて大きな影響を及ぼす可能性があります。
しかし、刑事手続きの仕組みは複雑で、一般の方がその全体像を即座に理解することは困難です。
本稿では、ご家族が逮捕されるという緊急事態に直面した方のために、まず何から手をつけるべきか、逮捕された本人と連絡を取ることはできるのか、そしてどのようなサポートができるのかについて解説します。
逮捕直後に行うべき最優先事項
家族の逮捕という知らせを受けたら、以下の2つの行動を可及的速やかに起こすことが重要です。
1-1. 弁護士への相談・依頼
逮捕後、被疑者(逮捕された人)は社会から隔離され、厳しい取調べを受けることになります。
この状況下で、被疑者の正当な権利を守り、不利益な状況に陥ることを防ぐために活動できるのが弁護士です。
- 弁護士の役割と権利:
- 接見交通権: 弁護士は、逮捕直後から、警察官の立会いなく、時間制限も設けられずに被疑者と面会(接見)する権利を有しています。これにより、被疑者は外部と遮断された中で、唯一の味方から法的な助言を得ることができます。
- 取調べへの助言: 弁護士は、被疑者に対して、黙秘権や供述調書への署名押印を拒否する権利など、法律で保障された権利について説明し、今後の取調べにどう対応すべきかを具体的に助言します。これにより、捜査官の誘導に乗ってしまい、事実に反する不利な供述調書が作成されることを防ぎます。
- 早期の身柄解放活動: 弁護士は、検察官や裁判官に対し、逮捕やその後の勾留が不要であることを主張し、早期の身柄解放に向けた活動を行います。
1-2. 逮捕後の手続きの流れを理解する
次に、逮捕されたご本人が、今後どのような手続きの中に置かれるのか、その時間的な流れを把握することが重要です。
- 警察段階(逮捕後最大48時間): 逮捕後、警察は48時間以内に、被疑者の身柄と事件の書類を検察官に送致(送検)しなければなりません。
- 検察官段階(送検後最大24時間): 送検を受けた検察官は、24時間以内に、被疑者の身柄を引き続き拘束する必要があるかを判断し、必要と認めれば裁判官に「勾留請求」を行います。
- 勾留期間(勾留決定後最大20日間): 裁判官が勾留を決定すると、まず10日間、身体拘束が続きます。さらに捜査が必要と判断されれば、最大10日間の延長が認められることがあります。
- 最終処分: 検察官は、この最大20日間の勾留期間内に、被疑者を起訴(刑事裁判にかける)するか、不起訴(釈放し、前科もつかない)にするかを最終的に決定します。
つまり、逮捕されてから起訴・不起訴が決まるまで、最大で23日間、身体拘束が続く可能性があります。この期間は、その後の人生を左右する極めて重要な期間となります。
※事案次第では、再逮捕・再勾留などで身体拘束の期間が長引くこともあります。
逮捕された家族との面会(接見)について
家族として最も気になるのが、逮捕された本人と直接会って話ができるか、という点でしょう。
面会には、一般の方が行う「一般面会」と、弁護士が行う「弁護士接見」があり、その内容は大きく異なります。
2-1. 一般面会(家族など弁護士以外の方の面会)
- 面会が可能になる時期: 原則として、上記の勾留が決定された後から可能になります。つまり、逮捕されてから検察官が勾留請求し、裁判官が勾留を決定するまでの最大72時間は、原則として家族であっても面会することはできません。ただし、身体拘束されている場所によっては、面会できる運用になっていることもあるようです。
- 厳しい制限: 一般面会には、以下のような厳しい制限が課せられています。
- 時間: 1回あたり15分から20分程度に制限されます。
- 回数: 1日に1回のみです。複数の家族が面会に行っても、会えるのはそのうちの1組だけです。
- 立会い: 必ず警察官が立ち会います。会話内容は全て警察官に聞かれ、メモを取られます。事件に関する話(口裏合わせや証拠隠滅と疑われる内容)をしようとすると、面会が中止されることがあります。
- 言語: 原則として日本語での会話のみ許可されます。
- 受付時間: 平日の日中(午前9時~午後5時頃まで、昼休みを除く)に限定されています。
2-2. 接見禁止決定が出された場合
事件によっては、裁判所が「接見禁止決定」を出すことがあります。
これは、「被疑者が弁護士以外の者と面会すると、証拠を隠滅したり、共犯者と口裏合わせをしたりするおそれがある」と判断された場合に下される処分です。
接見禁止決定が出されると、家族は一切の面会ができなくなり、手紙のやり取りも禁止されます。
組織的な犯罪や、否認している事件、共犯者がいる事件などで出されることが多いです。
この場合でも、弁護士だけは、原則として自由に接見することが可能です。
弁護士は、家族からの伝言を本人に伝えたり、本人の様子を家族に報告したりする、唯一の連絡役となります。
2-3. 弁護士接見
弁護士が行う接見は、一般面会とは全く異なり、被疑者の防御権を保障するための極めて重要な権利です。
- 時期: 逮捕直後から、いつでも可能です。
- 制限: 警察官の立会いはなく、秘密が完全に守られます。時間や回数の制限もありません。
- 内容: 事件に関する具体的な打ち合わせや、今後の見通し、取調べへの対応など、あらゆる内容について自由に話すことができます。
差し入れと宅下げの方法
面会が制限される中で、家族が本人をサポートするための重要な手段が「差し入れ」と「宅下げ」です。
3-1. 差し入れ(本人へ物を届ける)
差し入れとは、留置施設で生活する本人に必要な物品を外部から届けることです。
- 差し入れできる物: 留置施設によってルールは異なりますが、一般的に以下の物が許可されています。
- 現金: 留置施設内で、食事(自弁)や日用品などを購入するために使用します。
- 衣類: スウェット、Tシャツ、下着、靴下など。自殺や他害のおそれがあるため、フードの紐やベルト、金具などが付いているものは許可されません。
- 書籍: 小説、雑誌、漫画など。ただし、事件に関連する内容や、逃亡を助長するような内容は禁止されます。
- 便箋、封筒、切手: 外部(家族や弁護士)との手紙のやり取りのために必要です(接見禁止の場合は不可)。
- 眼鏡、コンタクトレンズ: 生活に不可欠なものとして許可されます。
- 写真: 家族の写真などは、精神的な支えとなるため許可されることが多いです。
- 差し入れできない物:
- 食料品、タバコ、医薬品、シャンプー、化粧品など(これらは通常、留置施設内で購入します)。
- 紐や金属、鋭利な部分がある物。
- 差し入れの方法:
- 警察署の窓口へ持参: 留置管理課の窓口で、所定の用紙に記入して差し入れます。受付時間は平日の日中に限られます。
- 郵送: 郵送での差し入れを受け付けている警察署もありますが、事前に電話で確認が必要です。
- 弁護士による差し入れ: 弁護士は、接見の際に本人に必要な物を直接手渡すことができます(ただし、内容物は警察のチェックを受けます)。
3-2. 宅下げ(本人から物を受け取る)
宅下げとは、本人が留置施設に持ち込んだが不要になった物や、逮捕時に着ていた衣類(証拠品となる場合を除く)などを、家族が受け取ることです。
本人が宅下げを希望する旨の書類を作成し、警察署の窓口で受け取ります。
これにより、例えば本人が署名・捺印すべき重要な契約書などを、弁護士の助言のもとで外部とやり取りすることも可能となります。
おわりに
家族が逮捕されたという突然の事態に直面したとき、残された家族が冷静さを保つことは容易ではありません。
しかし、その後の刑事手続きは、法律の定めに従って刻一刻と進んでいきます。
この状況を乗り切るために、家族が取るべき行動は、まず「弁護士に依頼し、法的な防御の体制を整えること」、そして「刑事手続きの流れを理解し、面会や差し入れといった許された範囲内で本人を支えること」に集約されます。
特に、逮捕直後の72時間は、その後の身体拘束の期間を左右する極めて重要な時間です。
弁護士は、この初期段階から本人と接見し、適切な助言を与えることができます。
一人で悩み、貴重な時間を失う前に、まずは速やかに専門家の助力を求めることが、ご本人とご家族の未来を守るための最善の選択です。
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