はじめに
元交際相手との関係が悪化した腹いせや、場の雰囲気に流されての悪ふざけなど、様々な動機から、相手の私的な性的画像や動画をインターネット上に公開してしまう、いわゆる「リベンジポルノ」行為。
その一時の感情や軽率な行動は、被害者に深刻で回復困難な被害を与えるだけでなく、行為者自身にも極めて重い法的責任と社会的制裁をもたらします。
2014年に施行された「私事性的画像記録の提供等による被害の防止に関する法律」(通称:リベンジポルノ防止法)により、このような行為は明確な犯罪として処罰の対象とされています。
本稿では、リベンジポルノ行為をしてしまい、法的な責任を問われる可能性に直面している方のために、成立しうる犯罪と科される刑罰、捜査から起訴に至る刑事手続きの流れ、そして自らの法的責任を軽減するために取りうる具体的な対応について解説します。
成立する犯罪と科される刑罰
リベンジポルノ行為は、主にリベンジポルノ防止法違反罪に該当しますが、その態様によっては、他の刑法犯にも同時に該当する可能性があります。
1-1. 私事性的画像記録提供等(リベンジポルノ防止法違反)
これがリベンジポルノ行為を直接処罰する中核的な犯罪です。
- 構成要件(リベンジポルノ法3条):
- 第三者が撮影対象者を特定できる形で、
- 人の私事性的画像記録(性的な部位や行為が写っており、本人が撮影を承諾していない、または公表を承諾していない画像・動画)を、
- 電気通信回線を通じて不特定または多数の者に対し、インターネットなどを通じて提供する行為。
- 刑罰: 3年以下の拘禁刑または50万円以下の罰金
また、リベンジポルノ防止法で問題となる私事性的画像記録とは、以下に該当する画像をいいます。
- 性交又は性交類似行為に係る人の姿態
- 他人が人の性器等(性器、肛門、乳首)を触る行為又は人が他人の性器等を触る行為に係る人の姿態であって性欲を興奮させ又は刺激するもの
- 衣服の全部又は一部を着けない人の姿態であって、殊更に人の性的な部位(性器等若しくはその周辺部、臀部又は胸部)が露出され又は強調されているものであり、かつ、性欲を興奮させ又は刺激するもの
- 撮影された人が、第三者が閲覧することを認識した上で、任意に撮影を承諾し又は撮影をしたものでないこと
「相手も同意の上で撮影した」という弁解だけでは、犯罪の成立を妨げません。
撮影に同意があったとしても、その公表に同意がなければ、この犯罪は成立します。
また、リベンジポルノと呼ばれることが多いですが、元交際相手への復讐目的の有無などは成立要件とは無関係であることにも注意が必要です。
1-2. 同時に成立しうる他の犯罪
- リベンジポルノ法違反(3条3項):上に挙げた行為以外にも他人に公表等をさせる目的で、電気通信回線を通じて私事性的画像記録を提供し、又は私事性的画像記録物を提供した場合、1年以下の拘禁刑又は30万円以下の罰金が科されます。
- 名誉毀損罪(刑法第230条): 画像が公開されたことにより、被害者の社会的評価が低下した場合に成立します。リベンジポルノ行為は、多くの場合、被害者の名誉を毀損するものであるため、同時に成立することが多いです。
- 刑罰: 3年以下の拘禁刑もしくは禁錮または50万円以下の罰金
- 脅迫罪(刑法第222条): 画像を公開する前に、「言うことを聞かないと画像をばらまくぞ」などと相手に告知し、怖がらせた場合には、画像の公開行為とは別に脅迫罪が成立します。
- 刑罰: 2年以下の拘禁刑または30万円以下の罰金
- 児童ポルノ禁止法違反: 万が一、画像の被写体が18歳未満の児童であった場合、リベンジポルノ防止法よりもさらに重い「児童買春・児童ポルノに係る行為等の規制及び処罰並びに児童の保護等に関する法律」(児童ポルノ禁止法)が適用されます。児童ポルノを提供した場合の刑罰は格段に重く、5年以下の拘禁刑または500万円以下の罰金が科されます。
捜査の開始から最終処分までの刑事手続き
被害者が警察に相談・告訴した場合、以下のような刑事手続きが進められます。
2-1. 捜査の開始
捜査は、被害者による被害届の提出や告訴状の受理によって本格的に開始されます。
加害者が匿名のインターネットユーザーである場合、警察は、プラットフォームの運営者に対して捜査関係事項照会書による照会を行ったり、裁判所の許可を得て令状に基づいて捜査を行い、投稿者の身元を特定します。
2-2. 警察による捜査と逮捕の可能性
投稿者の身元が特定されると、警察は加害者に対して連絡を取り、任意の事情聴取への出頭を求めることがあります。
この段階ではまだ逮捕ではありません。
しかし、以下の要件を満たすと判断された場合、裁判官の発付する令状に基づき、逮捕される可能性があります。
- 逮捕の理由: 犯罪を犯したことを疑うに足りる相当な理由があること。
- 逮捕の必要性: 逃亡のおそれまたは罪証隠滅のおそれがあること。
リベンジポルノ事案では、加害者が被害者と接触して脅迫や口裏合わせを行うといった「罪証隠滅のおそれ」や、社会的非難を恐れて「逃亡のおそれ」があると判断されやすく、いきなり逮捕される可能性も十分にあります。
逮捕された場合、最長で23日間にわたり警察署の留置施設等で身体拘束が続く可能性があります。
2-3. 検察官による最終処分
警察での捜査が終わると、事件は検察官に送致されます。
検察官は、警察の捜査結果と、自ら被疑者を取り調べた内容を踏まえ、最終的に被疑者を起訴するか否かを判断します。
- 起訴処分: 検察官が、裁判で有罪判決を得られるだけの十分な証拠があり、処罰の必要性が高いと判断した場合、起訴(公訴提起)します。起訴されると、被疑者は「被告人」となり、刑事裁判を受けることになります。有罪判決となれば、刑罰が科され、「前科」がつくことになります。
- 不起訴処分: 検察官が、様々な事情を考慮した結果、起訴しないと判断した場合、不起訴処分となります。不起訴となれば、刑事裁判は開かれず、前科もつきません。不起訴処分には、嫌疑が不十分であった場合の「嫌疑不十分」のほか、犯罪の嫌疑は認められるものの、諸般の事情を考慮して起訴を見送る「起訴猶予」があります。
対応方法等
リベンジポルノ行為をしてしまった場合、その後の対応次第で、最終的な刑事処分が大きく変わる可能性があります。処分の軽減、特に不起訴処分(起訴猶予)を目指すためには、真摯な反省に基づいた迅速な行動が不可欠です。
3-1. 被害者との示談交渉
刑事処分を決定する上で、検察官が最も重視する要素の一つが被害者の処罰感情です。
被害者との間で示談を成立させ、被害の回復を図るとともに、宥恕(ゆうじょ)、すなわち「加害者を許し、処罰を求めない」という意思表示を得ることができれば、不起訴処分(起訴猶予)となる可能性が格段に高まります。
- 示談交渉の方法: 加害者が被害者と直接接触することは、被害者にさらなる恐怖を与えるだけであり、絶対に避けるべきです。示談交渉は、弁護士を代理人として行うことが望ましいです。
- 示談の内容: 示談では、加害者からの真摯な謝罪の意を伝えた上で、被害者が受けた精神的苦痛に対する慰謝料を含む示談金を支払うことになります。示談金の額は、事案の悪質性や被害の程度に応じて変動しますが、数十万円から百万円を超えることもあります。
3-2. 弁護士を通じた自首
まだ捜査機関が事件を認知していない、あるいは加害者を特定していない段階であれば、弁護士に相談の上、警察署に出頭して自らの罪を申告する「自首」も有効な選択肢です。
自首が成立すれば、刑が任意的に減軽される可能性があるほか、逮捕されずに在宅のまま捜査が進む「任意捜査」となる可能性も高まります。
「前科」の社会生活への影響
万が一、起訴され、罰金刑であっても有罪判決が確定すれば、それは「前科」として記録されます。
前科がつくことによる社会生活上の不利益は、決して軽視できません。
- 職業上の制限: 医師、教員、弁護士、公務員など、一部の職業や資格では、禁錮刑以上の前科が欠格事由とされており、その職に就けなくなる、あるいは失職する可能性があります。
- 海外渡航の制限: 一部の国では、ビザの申請時に犯罪歴の申告が義務付けられており、前科があることを理由に入国が拒否されることがあります。
- 社会的な信用の失墜: 直接的な法的不利益ではなくとも、前科の事実が周囲に知られれば、社会的な信用を失い、人間関係や就職活動において大きな障害となる可能性があります。
おわりに
リベンジポルノ行為は、被害者の尊厳を深く傷つけるだけでなく、加害者自身の未来にも深刻な影響を及ぼす重大な犯罪です。
もし、ご自身がこのような行為に関与してしまった場合、事態が悪化する前に、できるだけ早く弁護士に相談すべきでしょう。
弁護士は、あなたの代理人として、被害者との示談交渉を進め、捜査機関に対してあなたの反省の意を伝えるなどの弁護活動を行います。
早期の相談と、誠実な対応こそが、被害者への謝罪の第一歩であり、あなた自身の人生を再建するための唯一の道です。
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