【この記事の結論・要約】
- モラハラ(モラルハラスメント)は、「婚姻を継続し難い重大な事由」として、法的な離婚原因および慰謝料請求の対象になる可能性があります。
- 慰謝料の相場は50万〜300万円程度ですが、被害の期間や内容、証拠の有無によって金額は大きく変動します。
- 裁判や交渉で勝つためには、録音・日記・LINE・診断書など、「継続的かつ客観的な嫌がらせ」を証明する証拠を揃えることが不可欠です。
はじめに
「お前は何もできない」「誰のおかげで生活できていると思っているんだ」といった言葉の暴力、無視、あるいは過度な束縛。
これらは「モラルハラスメント(モラハラ)」に該当する可能性があります。
物理的な暴力(DV)と異なり、モラハラは外傷が残らないため、周囲に理解されにくく、被害者自身も「自分が悪いのではないか」と思い悩んでしまうケースが少なくありません。
しかし、法的にはモラハラは立派な不法行為です。
本記事では、モラハラを理由に離婚・慰謝料請求を行うための条件や、実務において最も重要となる証拠の集め方について解説します。
第1章:モラハラで離婚・慰謝料請求はできるのか?
1-1. 法定離婚事由としてのモラハラ
相手が離婚に同意しない場合、裁判で離婚を認めてもらうには「法定離婚事由」が必要です。
モラハラそのものは条文に直接書かれていませんが、民法第770条1項5号の「婚姻を継続し難い重大な事由」に含まれると解釈されます。
(裁判上の離婚)
第七百七十条 夫婦の一方は、次に掲げる場合に限り、離婚の訴えを提起することができる。
一 配偶者に不貞な行為があったとき。
二 配偶者から悪意で遺棄されたとき。
三 配偶者の生死が三年以上明らかでないとき。
四 配偶者が強度の精神病にかかり、回復の見込みがないとき。
五 その他婚姻を継続し難い重大な事由があるとき。
単なる「性格の不一致」を超え、相手の言動によって精神の安寧が破壊され、夫婦関係が修復不可能なほど破綻していると判断されれば、法的に離婚が認められます。
例として、「お前に稼げるのか。稼いでもいないくせに。どうせできないだろう。俺は平均以上稼いでいるんだ。」といった発言をしたり、妻の作る食事への不満をカレンダーに書き込んだりするなどのモラハラ的言動が別居に至る経緯として認定され、婚姻関係の破綻が認められた事案などがあります(東京高裁平成29年6月28日判決)。
1-2. 慰謝料が認められるための条件
離婚ができることと、慰謝料が取れることは別問題です。
慰謝料を請求するには、相手の言動が「不法行為」であると認められなければなりません。
以下の要素が揃っている場合、慰謝料請求が認められやすくなります。
- 継続性: 一過性の暴言ではなく、数ヶ月〜数年にわたって繰り返されている。
- 執拗性: 執拗に人格を否定したり、生活を制限したりしている。
- 結果の重大性: 被害者が精神疾患(うつ病など)を患う、あるいは家出・別居に追い込まれている。
第2章:モラハラ慰謝料の相場と金額を左右する要因
2-1. 一般的な慰謝料相場
モラハラによる慰謝料の相場は、一般的に50万円〜300万円となります。
| 被害の程度 | 慰謝料の目安 | 主な状況 |
| 軽度〜中程度 | 50万〜150万円 | 数年間の無視や暴言。精神的な苦痛はあるが通院はしていない。 |
| 重度 | 150万〜300万円 | 長期間の支配、うつ病の発症、生活費を渡さないなどの経済的虐待。 |
2-2. 金額が増額されるポイント
以下のような事情がある場合、相場の上限に近い金額、あるいは相場を超える金額が認められることがあります。
- 被害期間が長い: 10年、20年と耐え続けてきた場合。
- 子供への影響: 子供の前で罵倒する(目前DV)など、育児環境を悪化させている場合。
- 相手の収入が高い: 相手に支払い能力があり、社会的地位に比して悪質な場合。
- 不貞行為の併発: モラハラに加え、相手が「プラトニック不倫」などを含む浮気をしている場合。
第3章:「証拠」の集め方
モラハラ事案において、勝敗を分けるのが「証拠の有無」です。
モラハラがあったという事実について争われるような事件の場合、「そんなことは言っていない」「教育のつもりだった」という反論がなされることもあります。
3-1. 録音・録画
相手の暴言をICレコーダーやスマホの録音アプリで記録することは、極めて有効です。
- 録音のコツ: 相手が激昂している場面だけでなく、自分が冷静に受け答えしている様子も録音してください。あなたが誘発したものではないことを証明するためです。
3-2. 日記・メモ(継続性の証明)
録音がない場合でも、詳細な日記が重要な証拠となる場合もあります。
- 書くべき内容: 「いつ」「どこで」「どのような文脈で」「何を言われたか」を具体的に。
- 感情の記録: その時どう感じ、体にどのような異変(動悸、涙が止まらない等)が出たかも併記してください。
- 形式: 手書きのノートが望ましいですが、改ざんが疑われにくいSNSの非公開アカウントや、自分宛のメールも有効です。
3-3. LINE・メール・SMSの履歴
相手から送られてくる執拗なメッセージはすべて保存してください。
「何時に帰ってくるんだ」「お前はゴミだ」といったメッセージの頻度と時間帯が、支配的な関係を証明する証拠となる可能性があります。
3-4. 医師の診断書と通院記録
モラハラが原因で心療内科や精神科を受診した場合、必ず診断書を書いてもらいましょう。
- ポイント: 医師には「夫(妻)の言動が原因で眠れない、不安だ」と正直に伝えてください。カルテにその旨が記載されることで、「症状とモラハラの因果関係」が認められる可能性が高まります。
第4章:モラハラが認められないケースと注意点
すべての「嫌な言動」が法的なモラハラになるわけではありません。
ここでは認められないリスクが高いケースを紹介します。
4-1. 単なる「夫婦喧嘩」の範疇
お互いに言い合いになり、その中でつい口が滑ってしまったという程度では、裁判所は「どっちもどっち(性格の不一致)」と判断します。
一方的な攻撃であること、および上下関係(支配・被支配)が存在することが重要です。
4-2. 証拠が「自分の日記」のみで、内容が抽象的
「今日、ひどいことを言われた。悲しい」といった抽象的な記述だけでは、証拠としての価値が低くなります。
「〇時〇分、キッチンにて、『お前は専業主婦のくせに飯もまともに作れないのか。死ね』と言われた」といった具体性が必要です。
4-3. 自身もやり返している場合
相手の暴言に対し、自分も同程度の暴言や暴力を振るっている場合、慰謝料請求は困難になります。
あるいは、相殺されて大幅に減額される可能性があります。
第5章:弁護士に依頼するメリットと解決の流れ
モラハラ加害者は、往々にして「自分は正しい」と確信しているケースが多いです。
そのため、当事者同士の話し合いは平行線をたどるか、さらに被害が激化する危険があります。
5-1. 直接交渉を遮断できる
弁護士が代理人となることで、相手からの連絡窓口をすべて弁護士に一本化できます。
これにより、相手の恐怖から解放され、冷静に離婚条件を検討できるようになります。
5-2. 適切な証拠の精査と戦略
「どの証拠をどのタイミングで出すか」は、高度な戦略的判断を要します。
例えば、交渉の早い段階ですべての録音を出してしまうと、相手が言い逃れを準備するということもあります。
一方で、早い段階で証拠を共有することで、早期に解決できることもあります。
決して正解があるわけではありませんが、証拠をどのように出すことで、どのように交渉が進むことが想定されるかなどについて、戦略を立てることができます。
5-3. 解決までのステップ
- 法律相談・受任: 被害状況のヒアリングと証拠の確認。
- 協議(交渉): 弁護士が相手方に通知を送り、離婚条件を交渉。
- 離婚調停: 話し合いがまとまらない場合、裁判所の調停委員を介して協議。
- 離婚訴訟(裁判): 調停不成立の場合、証拠に基づき裁判官が判決を下す。
おわりに
モラハラは、夫婦間の問題の中でも、非常に難しい問題です。
「私がもっと頑張れば」「相手にもいいところがある」と自分を納得させている方も多いと思います。
モラハラでお悩みの方は、まずは弁護士にご相談されることをお勧めいたします。
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