【弁護士が解説】離婚時の「親権」はどう決まる?親権獲得に有利な5つのポイント

目次

はじめに

夫婦が離婚を決意したとき、未成年の子どもがいる場合、ほぼ例外なく直面するのが「親権」をどちらが持つかという問題です。
親権は、子どもの将来の人生設計や福祉に直結する問題であるため、当事者間の話し合いで円満に決まることもあれば、互いに譲れず、感情的な対立が最も先鋭化する争点ともなり得ます。

「子どもと離れたくない」「自分が育てた方が子どものためになる」という親としての切実な思いがある一方で、「収入が少ないと不利になるのではないか」「不貞行為(不倫)をした側は親権者になれないのか」といった法的な不安や疑問を抱えている方も少なくありません。

本稿では、離婚における親権の決め方について、法的な基本ルールから、調停や裁判になった場合に裁判所が重視する具体的なポイント、そして近年議論されている「共同親権」の動向まで、解説いたします。

「親権」とは何か?~監護権との違い~

まず、法律用語としての「親権」が何を意味するのかについて解説します。

1-1. 親権の法的な定義と2つの側面

親権は、未成年の子どもが心身ともに健全に成長するために、親に認められた権利であり、同時に課された義務でもあります。
民法は、親権の内容を大きく以下の2つの側面に分けて規定しています。

  1. 身上監護権 これは、子どもの身の回りの世話や教育を行う権利・義務です(民法第820条など)。
    • 監護・教育: 子どもと同居し、食事や着替えなどの日常的な世話をし、しつけや教育を行うこと。
    • 居所指定: 子どもの住む場所を指定すること。
    • 職業許可: 子どもが職業に就く際に許可を与えること。
  2. 財産管理権 これは、子どもが自分名義で所有する財産を管理し、法律行為を代理する権利・義務です(民法第824条など)。
    • 財産管理: 子ども名義の預金通帳の管理、相続した遺産の管理など。
    • 法律行為の代理: 子どもが契約(例:携帯電話の契約)などを行う際に、法定代理人として署名・捺印すること。

「親権者」とは、原則としてこれら両方の権利・義務を持つ者を指します。

1-2. 「親権」と「監護権」の分離

実務上、「親権者」と「監護権者(監護者)」をあえて分離するケースも、数は少ないながら存在します。

  • 親権者: 財産管理権と、対外的な法定代理人としての地位を持つ(例:戸籍上の親権者はこちら)。
  • 監護権者: 身上監護権のみを持ち、実際に子どもと同居して日常の世話を行う。

これは、例えば「父親が親権者となるが、実際の子育てはこれまで通り母親が行う」といった場合に、双方の合意に基づいて定められることがあります。
しかし、子どもの生活において混乱が生じる可能性もあるため、裁判所が積極的にこの分離を命じることは少なく、あくまで当事者間の協議が前提となることがほとんどです。
本稿では、特に断りのない限り、「親権者=監護権者」として解説を進めます。

現在の日本の法制度:「単独親権」の原則

親権の決め方を解説する上で、大前提となるのが日本の法制度です。

2-1. 婚姻中は「共同親権」

婚姻している間、父母は共同して親権を行います(民法第818条第3項)。
これを「共同親権」といいます。

2-2. 離婚後は「単独親権」

しかし、離婚する場合には、父母のどちらか一方を親権者として定めなければなりません(民法第819条)。
これを「単独親権」といいます。
現在の日本の法律では、離婚後の共同親権は認められていません。
したがって、離婚届には、必ず父または母のどちらか一方を親権者として記載する必要があり、この欄が空欄のままでは離婚届は受理されません。

2-3. 「共同親権」導入を巡る法改正の動向

近年、この単独親権の原則に対し、離婚後も父母双方が子育てに関与すべきであるという観点から、離婚後の共同親権を選択的に導入するための法改正の議論が活発に行われてきました。
2024年5月には、離婚後の共同親権の導入を盛り込んだ改正民法案が国会で可決・成立しました。

ただし、この改正法は公布から2年以内に施行される予定であり、本稿執筆時点では、まだ施行されていません。
したがって、現時点での離婚手続きにおいては、これまで通り「単独親権」の原則に基づき、父母のどちらか一方を親権者として定める必要があります。

親権者の決め方の3つの流れ

親権者を決めるプロセスは、離婚の方法(協議・調停・裁判)によって異なります。

3-1. 協議離婚の場合:夫婦間の「協議」

日本における離婚の約9割を占める協議離婚では、夫婦間の話し合い(協議)によって親権者を決定します(民法第819条第1項)。
前述の通り、親権者が決まらなければ離婚届は受理されないため、親権は離婚の前提条件となります。
この協議がまとまらない限り、協議離婚はできません。
合意した内容は、後のトラブルを防ぐためにも、離婚協議書や公正証書といった書面に残しておくことが強く推奨されます。

3-2. 調停離婚の場合:裁判所での「話し合い」

夫婦間の協議で親権者が決まらない、あるいは他の条件(財産分与や養育費)と併せて合意ができない場合は、家庭裁判所に「夫婦関係調整調停(離婚調停)」を申し立てます。
調停は、裁判官と民間の有識者(調停委員)が間に入り、あくまで話し合いによる合意を目指す手続きです。
調停の過程で、裁判所は家庭裁判所調査官による調査を行うことがあります。
調査官は、心理学や教育学などの専門知識を持つ裁判所職員であり、以下のような調査を行います。

  • 父母双方からの事情聴取: 監護状況、経済状況、子育ての方針、離婚後の生活設計などを詳しく聴取します。
  • 子どもの意向調査: 子どもと面談し、どちらの親と暮らしたいか、現在の生活についてどう思っているかなど、子どもの本心や意向を聴取します。
  • 家庭訪問・学校訪問: 実際に子どもが生活している環境を確認したり、学校での様子を教師から聞いたりすることもあります。

調停委員会は、この調査官による調査報告書も参考にしながら、どちらの親を親権者とすることが子どもの利益に最も適うかを考慮し、当事者双方に助言や説得を行い、合意形成を促します。

3-3. 裁判離婚(訴訟)の場合:裁判官による「判決」

調停でも話し合いがまとまらず、調停が「不成立」となった場合、離婚を望む側は、家庭裁判所に「離婚訴訟(裁判)」を提起することになります。
裁判離婚では、もはや話し合いではなく、当事者双方が法的な主張と証拠(育児日記、連絡帳、写真、収入資料など)を提出し合い、最終的に裁判官が「判決」によって親権者を指定します(民法第819条第2項)
この際、裁判官が判断の基準とするのが、次章で解説する「子の福祉」です。

裁判所が親権者を判断する基準:「子の福祉」

調停や裁判において、裁判所が親権者を判断する基準は、法律上「子の利益(子の福祉)」(民法第819条第6項など)です。

「親が子どもを育てたい」という親の希望や都合、「相手は不倫したから親失格だ」といった親同士の感情的な対立は、それ自体は判断基準にはなりません。
裁判所は、あくまで「父母のどちらを親権者と定めることが、子どもの健全な心身の成長と幸福にとって最も望ましいか」という、子どもを中心とした視点から、あらゆる事情を総合的に考慮して判断します。

親権獲得に「有利」となる5つのポイント

では、裁判所は「子の福祉」を判断するために、具体的にどのような事情を重視するのでしょうか。
実務上、特に重要とされる5つのポイントを解説します。

5-1.【重要】これまでの監護実績(主たる監護者)

裁判所が最も重視するのが、「これまで主にどちらの親が子どもの世話(監護)をしてきたか」という実績です。
これは「主たる監護者」の認定と呼ばれます。

  • 重視される理由(継続性の原則): 子どもは、日常的に自分の世話をしてくれる親に対し、強い愛着と信頼関係を築いています。裁判所は、その関係性を維持することが、子どもの精神的な安定にとって最も重要であると考えます(継続性の原則)。 そのため、これまでの育児において中心的な役割を担ってきた親が、離婚後も引き続き親権者として監護することが「子の福祉」にかなうと判断されやすいのです。
  • 具体的な監護実績とは: 食事の準備、入浴、着替え、寝かしつけ、通園・通学の送迎、学校行事への参加、PTA活動、宿題の確認、予防接種の管理、病気の際の看病や通院など、日常のあらゆる場面での具体的な関与が評価されます。
  • 「母親が有利」の誤解: 統計上、親権者の多くが母親となっているのは事実ですが、それは法律が母親を優遇しているからではありません。現実の社会において、これらの日常的な監護実績を主に担っているのが母親であるケースが多いため、結果として母親が「主たる監護者」と認定されやすい、という実態があるに過ぎません。もし父親が育児休業を取得し、日常の家事育児を主体的に行ってきた実績があれば、父親が「主たる監護者」として親権者に指定される可能性は十分にあります。

5-2. 子どもの現在の監護状況(現状維持の原則)

既に夫婦が別居している場合、「現在、子どもがどちらの親の下で、精神的に安定して平穏に生活しているか」という現状も強く考慮されます。
裁判所は、子どもの生活環境を不必要に変化させることは、子どもに新たな精神的負担を強いることになると考え、現状の監護体制に特段の問題がない限り、それを維持しようとする傾向があります(現状維持の原則)。

  • 注意点:「連れ去り別居」のリスク この現状維持の原則を逆手に取り、相手の同意なく一方的に子どもを連れて別居する「連れ去り別居」は、法的に大きなリスクを伴います。もちろん、DVや虐待から逃れるための緊急避難的な別居は正当化されます。しかし、そのような緊急性がなく、もう一方の親との関係を不当に断絶させる目的で違法に子どもを連れ去ったと評価された場合、その行為自体が「監護者としての適格性を欠く」と判断され、親権者指定において極めて不利な事情となる可能性があります。

5-3. 子どもの年齢と意向の尊重

子どもの年齢に応じて、その意思がどの程度尊重されるかが変わってきます。

  • 乳幼児(0歳~5歳程度): この年齢の子どもは、自分の意思を明確に言語化することが困難です。また、一般的に日常の世話における母親(または主たる監護者)への依存度が高い時期であるため、特段の事情がない限り、母親(主たる監護者)が優先される傾向があります(母性優先の原則)。
  • 学童期(6歳~10歳程度): 家庭裁判所調査官が、子どもの発達段階に応じて、遊びや絵画などを通じて本心を把握しようと努めます。
  • 高学年~中学生(10歳~14歳程度): 子どもの意思がかなり明確になってくる時期です。家庭裁判所調査官や裁判官が直接子どもと面談し、その意向を慎重に聴取し、判断の重要な資料とします。
  • 15歳以上: 家庭裁判所は、15歳以上の子どもについては、その陳述を聴かなければならないと法律で定められています(人事訴訟法第32条第4項)。この年齢になれば、子の意思が尊重され、本人の希望に反した親権者の指定がなされることは、よほどのことがない限りありません。

5-4. 監護能力と監護環境

親権者として、子どもを健全に養育していくための能力や環境が整っているかも審査されます。

  • 心身の健康: 親自身が、心身ともに健康な状態であること。重い病気や、監護に支障をきたすほどの精神疾患、あるいは依存症(アルコール、薬物、ギャンブル)などがないか。
  • 監護に割ける時間: 勤務形態(長時間労働、出張、夜勤など)が、子どもの監護に支障をきたさないか。
  • 経済力: 収入が安定しているか。ただし、この点は養育費によって補完できると考えられています。したがって、収入が少ないこと(例えば専業主婦であったこと)が、直ちに親権者として不利になるわけではありません。
  • 監護補助者: 祖父母(子どもの両親)が同居または近居しており、子育てのサポート(送迎、病気の際の世話など)を期待できるか。

5-5. 相手方(非監護親)への「寛容性」

これは非常に重要なポイントでありながら、感情的な対立の中で見落とされがちな点です。
裁判所は、「子の福祉」のためには、離婚後も両親が子どもの成長に関わることが重要であり、非監護親との定期的な面会交流は、子どもの健全な成長に不可欠な権利であると考えています。

  • フレンドリーペアレント・ルール: 裁判所は、親権者を指定するにあたり、「どちらの親が、離婚後、非監護親となる相手方と子どもとの面会交流に対して、より協力的・寛容的な姿勢であるか」を重視します。 例えば、別居中から相手と子どもの面会を不当に拒絶したり、子どもに相手の悪口を吹き込んだりする親は、親権者としての適格性に疑問符が付きます。 逆に、自らが親権者となった場合でも、「子どもと相手方を積極的に会わせるつもりがある」という柔軟な姿勢(寛容性の原則、またはフレンドリーペアレント・ルール)を示すことは、親権獲得において有利な事情として考慮されます。

親権獲得に「不利」となる事情

上記5つのポイントの裏返しとして、「子の福祉」の観点から、親権者として不適格と判断されやすい事情が存在します。

  • 子どもへの虐待・ネグレクト(育児放棄): 言うまでもなく、最も不利となる事情です。身体的虐待、精神的虐待、育児放棄の事実が認定されれば、親権者として指定されることは極めて困難です。
  • 監護能力の著しい欠如: 親自身が重篤な精神疾患や依存症(アルコール、薬物など)を抱えており、安定した子育てが期待できないと判断された場合。
  • 違法な「連れ去り」: DVなどの緊急避難の必要性がないにもかかわらず、相手を欺いたり、暴力を用いたりして、一方的に子どもを連れ去り、相手方との面会を不当に拒絶し続ける行為。
  • 子どもの意向に反する主張: 子ども(特に高年齢の子)が明確に相手方との生活を望んでいるにもかかわらず、それに反して親権を主張し続けること。
  • 不貞行為(不倫)は親権にどう影響するか? 「不貞行為をした親は、親権者になれない」というのは法的には誤解です。不貞行為は、あくまで「夫婦間の問題(貞操義務違反)」であり、「親として適格か(子の福祉)」とは、原則として別問題として扱われます。したがって、不貞行為をしたという事実だけをもって、直ちに親権が取れなくなるわけではありません。ただし、以下のような例外的な場合には、不利な事情として考慮されます。
    • 不貞相手との関係に没頭するあまり、子どもの育児を放棄していた(ネグレクト)。
    • 子どもを不貞相手と頻繁に会わせるなど、子どもの心情に配慮しない行動をとっていた。
    • 不貞相手が、子どもに対して暴力を振るうなどしていた。 これらは全て、「子の福祉」の観点から監護者として不適格と判断される事情となります。

おわりに

離婚時における親権者の決定は、親の感情や希望、あるいは有責性(不倫をしたか否か)によって決まるものではなく、「子の福祉」という基準によって判断されます。

裁判所が重視するのは、「これまでの監護実績」という過去の事実と、「今後の監護環境や面会交流への寛容性」といった未来への計画性・協調性です。
「母親だから」「収入が多いから」といった単純な理由で決まるものではなく、日々の育児にどれだけ具体的に関与してきたかが問われます。

親権を巡る争いは、当事者間の感情的な対立が最も激しくなる領域です。
しかし、最も守られるべきは子どもの利益です。
ご自身の主張を法的に整理し、子の福祉の観点から何が最善かを冷静に主張・立証するためには、弁護士のサポートが不可欠です。
親権について相手方との協議が難航している場合、あるいは調停・裁判に臨むにあたっては、できるだけ早い段階で、離婚と親権の問題に精通した弁護士にご相談ください。

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この記事を書いた人

髙田法律事務所の弁護士。
インターネットの誹謗中傷や離婚、債権回収、刑事事件やその他、様々な事件の解決に携わっている。
最新のビジネスや法改正等についても日々研究を重ねている。

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