X(旧Twitter)の誹謗中傷を削除・投稿者を特定する方法|手順と法的措置を弁護士が解説

目次

はじめに

SNSの中でも、X(旧Twitter)は「リツイート(リポスト)」機能による拡散力が極めて高く、一度誹謗中傷が投稿されると、短時間で不特定多数の目に触れるリスクがあります。
匿名性が高いため、過激な発言や個人のプライバシーを晒す行為、なりすましなどが横行しやすい傾向にあります。

被害に遭った場合、「そのうち収まるだろう」と放置することは危険です。
デジタルタトゥーとして半永久的に記録が残り、就職、結婚、ビジネスなど、将来にわたって深刻な悪影響を及ぼす可能性があります。

本記事では、Xでの誹謗中傷に悩む方に向けて、投稿の削除依頼の方法から、発信者情報開示請求による投稿者の特定、そして損害賠償請求や刑事告訴に至るまでの一連の流れを、最新の法制度に基づき専門的な観点から解説します。

Xでの投稿が「権利侵害」となる法的基準

削除や開示請求を行うためには、その投稿(ツイート)が単に「不快である」というだけでなく、法律上の「権利侵害」に該当する必要があります。
Xで問題となりやすい主な権利侵害は以下の通りです。

1. 名誉毀損(名誉権侵害)

名誉毀損とは、公然と事実を摘示し、人の社会的評価を低下させる行為を指します。

  • 具体例: 「A氏は会社の金を横領している」「B店は賞味期限切れの食材を使っている」など。
  • 要件: 「公然性(不特定多数が見られる)」「事実の摘示」「社会的評価の低下」が必要です。ただし、その内容が真実であり、公益目的がある場合は違法性が阻却される(名誉毀損にならない)ことがあります。

2. 侮辱(名誉感情侵害)

事実を摘示せずとも、人を侮辱する行為です。

  • 具体例: 「バカ」「死ね」「ゴミ」「無能」といった罵詈雑言。
  • 名誉毀損との違い: 具体的なエピソード(事実)の有無やその他が異なりますが、どちらも権利侵害として訴えることが可能です。

3. プライバシー権侵害

私生活上の事実や、一般に知られていない情報を、本人の承諾なくみだりに公開する行為です。

  • 具体例: 自宅住所、電話番号、前科・前歴、病歴などの公開。いわゆる「晒し」行為の多くがこれに該当します。

4. 肖像権侵害

本人の承諾なく、容貌や姿態を撮影・公表されることによる権利侵害です。

  • 具体例: 顔写真を無断でアイコンにする、プライベートな写真をツイートに添付する行為。

5. なりすまし(アイデンティティ権の侵害など)

他人の名前や写真を使用し、その人になりすましてアカウントを作成・投稿する行為です。
単になりすましただけでは削除が難しい場合もありますが、なりすましたアカウントで粗暴な発言を繰り返すなどして、本人の社会的評価を低下させた場合は、名誉毀損や肖像権侵害、あるいはアイデンティティ権の侵害として法的措置の対象となります。

X(旧Twitter)への削除依頼(通報・報告)の手順

被害に遭った際、最初に行うべきはX社への削除申請(通報)です。
これは裁判所を通さずに行える手続きです。

1. 違反報告(通報)機能を利用する

各ツイートやアカウントのメニューから、Xの運営に対して違反を報告できます。

  • 手順:
    1. 対象のツイート(ポスト)の右上にある「…(三点リーダー)」をクリック。
    2. 「ポストを報告する」を選択。
    3. 報告の理由を選択する(例:「攻撃的な行為や嫌がらせ」「プライバシー」など)。
    4. 指示に従い、具体的な問題点を報告する。

2. ヘルプセンターからの削除要請

アカウントを持っていない場合や、より詳細に事情を説明したい場合は、Xのヘルプセンターにある専用フォーム(https://help.x.com/ja/forms/japan-report)から申請します。
これは、令和7年4月1日に施行された情報流通プラットフォーム対処法により設置されたものです。

  • 権利侵害の種類(名誉権、著作権、商標権など)によって適切なカテゴリを選択して送信します。

3. セルフ削除依頼の限界と「削除されない」理由

ご自身で通報報告を行っても、削除されないケースは多々あります。その主な理由は以下の通りです。

  • 表現の自由の重視: X社は米国企業であり、表現の自由を強く重視する傾向があります。日本の法律では違法となる可能性があっても、X社の「ポリシー(利用規約)」に違反していないと判断されれば削除されません。
  • 判断の難しさ: 投稿が真実か虚偽か、あるいは正当な批判か誹謗中傷かの判断は、裁判所のような司法機関でなければ困難な場合が多く、プラットフォーム側は慎重な姿勢をとらざるを得ません。

自身での削除依頼が失敗した場合、次は法的な手続き(裁判所)の利用を検討する必要があります。

裁判所を通じた削除命令(仮処分)

X社が任意での削除に応じない場合、日本の裁判所に対して「削除仮処分命令申立」を行います。
これは通常の裁判(訴訟)よりも迅速な手続きです。

1. 仮処分とは

判決を待っていると被害が拡大する恐れがある場合に、裁判所が暫定的な措置として削除を命じる手続きです。
裁判所が「権利侵害が認められる」と判断して決定を出せば、X社は原則としてこれに従い、投稿を削除します。

2. 手続きの流れ

  1. 弁護士へ依頼し、申立書を作成・提出する。
  2. 裁判所にて、債権者(被害者側)と債務者(X社側)の双方の言い分を聞く「審尋」が行われる。
  3. 権利侵害が認められれば、担保金を供託した後、削除命令が発令される。
  4. X社が投稿を削除する。

※この手続きは、日本の弁護士資格を持つ者が代理人となって行うのが一般的です。
X社は海外法人ですが、日本における代表登記がなされているため、日本の裁判所での手続きが可能です。

投稿者を特定する「発信者情報開示請求」の流れ

投稿を削除するだけでなく、「誰が書いたのか身元特定したい」「慰謝料を請求したい」「二度としないよう誓約させたい」と考える場合は、発信者情報開示請求を行う必要があります。

ステップ1:X社に対するIPアドレス等の開示請求

投稿者は通常、匿名で利用しているため、X社は投稿者の氏名や住所を知りません。
X社が保有しているのは、ログイン時の「IPアドレス」と「タイムスタンプ(接続時間)」等のログなどです。
まずは裁判所の手続き(仮処分など)を通じて、X社からこれらの情報の開示を受けます。

ステップ2:アクセスプロバイダの特定

開示されたIPアドレスを調査することで、投稿者が利用したインターネット接続業者(アクセスプロバイダ/経由プロバイダ)が判明します。

  • 例:NTTドコモ、KDDI、ソフトバンク、J:COM、So-netなど。

ステップ3:アクセスプロバイダに対する契約者情報の開示請求

次に、特定したプロバイダに対して、「その時間に、そのIPアドレスを使っていた契約者の氏名・住所・電話番号・メールアドレスを開示せよ」と求めます。
これには原則として通常の「訴訟(裁判)」が必要となりますが、2022年10月の旧プロバイダ責任制限法の改正により、ステップ1とステップ2を合わせて一つの手続きで行える「発信者情報開示命令事件(非訟手続)」という新しい制度も利用可能になりました。
なお、Xでは、投稿者が電話番号等を登録していることもあります。
その場合、仮処分手続きでは電話番号等の情報が開示できなかったのに対し、発信者情報開示命令では電話番号の開示ができるといったメリットもあります。

注意点:ログ保存期間の「タイムリミット」

特定において最も重要なのは「スピード」です。
アクセスプロバイダが通信ログ(誰がいつどのIPを使ったかという記録)を保存している期間は、一般的に3ヶ月~6ヶ月程度と非常に短いです。
この期間を過ぎるとログが消去され、技術的に特定が不可能になります。
そのため、被害に気づいたら直ちに弁護士に相談し、手続きに着手する必要があります。

投稿者特定後の法的措置(民事・刑事)

無事に投稿者の身元特定が完了した後は、以下の法的措置をとることができます。

1. 民事上の責任追及(損害賠償請求)

特定した相手に対し、名誉毀損やプライバシー侵害等に基づく損害賠償慰謝料など)を請求します。

  • 慰謝料: 精神的苦痛に対する賠償。
  • 調査費用: 特定にかかった弁護士費用の一部。まずは内容証明郵便などで示談交渉を行い、相手が応じない場合は民事訴訟(裁判)を提起して訴えることになります。

2. 刑事上の責任追及(刑事告訴)

投稿内容が刑事罰に該当するようなものである場合、警察に刑事告訴を行い、処罰を求めることができます。

  • 名誉毀損罪: 3年以下の拘禁刑若しくは禁錮又は50万円以下の罰金。
  • 侮辱罪: 1年以下の拘禁刑若しくは禁錮若しくは30万円以下の罰金又は拘留若しくは科料。(※2022年の厳罰化により法定刑が引き上げられました)
  • 業務妨害罪: 虚偽の風説を流布し、業務を妨害した場合など。

X(旧Twitter)特有の注意点

Xでの誹謗中傷対策には、このプラットフォーム特有の事情を理解しておく必要があります。

1. 「リツイート(リポスト)」の法的責任

他人の誹謗中傷ツイートを単にリツイート(拡散)しただけでも、法的責任を問われる可能性があります。
最高裁の判例でも、リツイート行為によって元の投稿内容に賛同の意思を示し、他人の名誉を毀損したとして、損害賠償責任が認められたケースがあります。
したがって、元ツイートだけでなく、それを拡散した人物に対しても開示請求や損害賠償請求が可能な場合があります。

2. 「引用リツイート(引用RT)」とコメント

引用RTを用いて、元の投稿に対して批判や中傷を加えるケースも多発しています。
この場合、引用元の投稿とあわせて文脈全体で判断されますが、コメント部分が誹謗中傷に該当すれば、当然法的措置の対象となります。

3. 証拠保全の重要性

投稿者がアカウントを削除したり、ツイートを消したりすると、証拠が失われてしまいます。
被害を発見したら、すぐに以下の情報を保存してください。

  • URL: ツイートごとの固有URL(パーマリンク)。
  • スクリーンショット: 投稿内容、日時、アカウント名、ユーザーID(@から始まる英数字)、プロフィール画面など全体がわかるように撮影・保存します。スマホだけでなくPC画面での保存が推奨されます。

弁護士に依頼するメリット

Xの誹謗中傷対策は、ご自身で行うには限界があります。
弁護士に依頼するメリットは以下の通りです。

1. 複雑な手続きの代行

仮処分、訴訟といった専門的な手続きをすべて任せることができます。
特に、法的な主張構成(どの権利が侵害されたか)の組み立ては、専門家でなければ困難です。

2. スピード対応によるログ消失の防止

前述の通り、プロバイダのログ保存期間は短いです。
弁護士はタイムリミットを意識して手続きを進めます。
また、プロバイダに対して「ログを消さないでほしい」という要請(ログ保存要請)を先行して行うことも可能です。

3. 相手方との交渉

特定後の示談交渉において、弁護士が代理人となることで、被害者本人が加害者と直接関わることなく、適正な慰謝料額での解決を目指せます。

まとめ

X(旧Twitter)での誹謗中傷は、拡散性が高く、被害者の人生に深刻なダメージを与えるものです。
「ネットの喧嘩」と軽視せず、権利侵害には毅然とした対応をとることが、ご自身を守り、さらなる被害を防ぐために不可欠です。

削除や特定の手続きには、「ログ保存期間」という時間的な制約があります。
悩んでいる間に証拠が消えてしまわないよう、被害に遭われた方は、できるだけ早い段階でインターネット問題に詳しい弁護士へ相談することをお勧めします。

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この記事を書いた人

髙田法律事務所の弁護士。
インターネットの誹謗中傷や離婚、債権回収、刑事事件やその他、様々な事件の解決に携わっている。
最新のビジネスや法改正等についても日々研究を重ねている。

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