はじめに
今回は裁判員について解説します。
といっても、他のコラムのように法的に詳しく解説するというよりも、私自身が裁判員に選ばれた時の経験談を軽く書いてみます。
裁判員制度の概要
1.裁判員制度とは
とはいえ、どのような制度なのかについて、最低限の解説はしてみます。
裁判員制度は、「裁判員の参加する刑事裁判に関する法律」に基づき、2009年5月21日から開始された制度です。
国民が刑事裁判に参加し、裁判官と共に審理に立ち会うことで、裁判に国民の持つ健全な社会常識や感覚を反映させるとともに、司法に対する国民の理解と信頼を深めることを目的としています。
対象となる事件:原則として、殺人罪、強盗致傷罪、傷害致死罪、危険運転致死罪、身代金目的誘拐罪など、社会的に関心の高い重大な刑事事件が対象となります。
裁判体の構成:裁判員が参加する裁判は、原則として裁判官3名と、国民から選ばれた裁判員6名の合計9名で構成されます。
2. 裁判員に選ばれるまでの流れと確率
裁判員は、多段階の無作為な抽選を経て選ばれます。
ステップ1:裁判員候補者名簿への登録 毎年秋頃、各地域の選挙管理委員会が保管する選挙人名簿から、翌年の裁判員候補者となる人がくじで無作為に選ばれます。選ばれた人には、11月頃に地方裁判所から「裁判員候補者名簿への登録通知」が送付されます。
ステップ2:選任手続期日の通知 対象となる事件が発生すると、その都度、候補者名簿の中からさらにくじで、その事件の裁判員候補者が選ばれます。選ばれた人には、裁判所に来てもらう日時(選任手続期日)を記載した通知と、辞退希望の有無などを確認するための質問票が、期日の数週間前までに送付されます。
ステップ3:選任手続と最終的な選任 選任手続期日に裁判所へ行くと、候補者は裁判官との面接などを受けます。この手続きでは、事件との関わりや不公平な判断をするおそれの有無などが確認されます。検察官や弁護人は、理由を示して特定の候補者を不選任とするよう求めることもできます。これらの手続きを経て、最終的に残った候補者の中から、くじで裁判員6名(および補充裁判員)が選ばれます。
選ばれる確率:最高裁判所の発表によると、近年の統計では、最終的に裁判員として選任される確率はおよそ1万6000人に1人程度とされています。なお、最初の段階である裁判員候補者名簿に登録される確率(通知が届く確率)は、2024年のデータで約500人に1人となっているようです。
辞退について:質問票の送付を受けた段階、あるいは選任手続期日の当日に、法律で定められた正当な理由があれば辞退を申し出ることができます。主な辞退理由としては、以下のようなものがあります。
- 年齢が70歳以上である
- 学生、生徒である
- 重い病気やけがを負っている
- 同居の親族の介護や養育が必要で、他に代わる人がいない
- 仕事上、自身が処理しなければ著しい損害が生じるおそれがある
- 過去5年以内に裁判員・補充裁判員を務めた経験がある など
私は当時学生だったのですが、法学部生で司法試験の受験も考えていたため、経験になると思い辞退しませんでした。
私の知人の自営業者(美容師)の方は、仕事に支障が大きいとして辞退を申し出て認められていたようです。
欠格事由・就職禁止事由について:以下のような人は裁判員になれません。
欠格事由
- 国家公務員法38条の規定に該当する人(国家公務員になる資格のない人)
- 義務教育を終了していない人(義務教育を終了した人と同等以上の学識を有する人は除く)
- 禁錮以上の刑に処せられた人
- 心身の故障のため裁判員の職務の遂行に著しい支障のある人
就職禁止事由
- 国会議員、国務大臣、国の行政機関の幹部職員
- 司法関係者(裁判官、検察官、弁護士など)
- 大学の法律学の教授、准教授
- 都道府県知事及び市町村長(特別区長を含む)
- 自衛官
- 禁錮以上の刑に当たる罪につき起訴され、その被告事件の終結に至らない人
- 逮捕又は勾留されている人
また、審理する事件の被告人又は被害者本人、その親族、同居人、証人又は鑑定人になった人、被告人の代理人、弁護人等、検察官又は司法警察職員として職務を行った人も裁判員になることはできません。
裁判の中立公正性を欠くからですね。
私は現在弁護士のため、就職禁止事由があるとして裁判員になることはできません。
これも、当時、私が裁判員をやろうと思った理由の一つです。
3. 裁判員に選ばれた後の流れ
裁判員として選任された後は、裁判官と共に刑事裁判のプロセスに参加します。
① 宣誓 まず法廷で、法律と良心に従って公平に職務を行うことを誓う「宣誓」を行います。
② 公判への立ち会い 裁判官と同じ席に座り、公開の法廷で行われる公判に立ち会います。
- 冒頭手続: 検察官が起訴状を朗読し、被告人がそれに対して意見を述べます。
- 証拠調べ: 検察官、弁護人双方が提出する証拠(証言、書面、物証など)を取り調べます。裁判員は、証人や被告人に対して、裁判長を通じて質問することもできます。
- 論告・弁論: 検察官が事件に対する意見と求める刑罰(論告)を述べ、続いて弁護人が被告人に有利な事情などを主張(弁論)します。
③ 評議 全ての審理が終わると、裁判官3名と裁判員6名が非公開の協議室に入り、「評議」を行います。評議では、以下の点について全員で議論します。
- 事実認定: 証拠に基づき、被告人が犯罪を行ったかどうか(有罪か無罪か)を判断します。
- 法令の適用: 認定した事実にどの法律を適用するかを判断します。
- 量刑: 有罪の場合、どのくらいの刑罰(懲役、罰金など)が妥当かを決定します。
評議では、裁判員と裁判官は対等な立場で意見を述べ、一人一票の議決権を持ちます。
評決は多数決で決まりますが、被告人に不利な判断(有罪や重い刑)を下すためには、裁判官と裁判員双方からそれぞれ1名以上が賛成している必要があります(特別多数決)。
④ 判決 評議で決まった内容に基づき、法廷で裁判長が判決を言い渡します。判決の言い渡しをもって、その事件に関する裁判員の職務は終了となります。
4. 裁判員の主な権利と義務
不利益な取扱いの禁止: 裁判員として休暇を取得したことを理由に、勤務先が解雇などの不利益な取り扱いをすることは法律で禁じられています。
守秘義務: 評議の経過や、他の裁判官・裁判員が述べた意見、評決の際の各人の投票数など、評議の秘密にあたる事項を外部に漏らしてはなりません。この義務は裁判員としての職務が終わった後も、生涯にわたって続きます。違反した場合は、法律で罰せられる可能性があります。なお、公判で見聞きした内容(公開の法廷で行われたこと)については、守秘義務の対象外です。
日当・旅費の支給: 裁判員および候補者として裁判所に出頭した日数に応じて、日当(1日あたり1万円以内)と交通費が支給されます。
当時学生だったので、「結構もらえるじゃん」とか思ってたのですが、1日拘束されるうえに、(場合によってはショッキングな証拠を見て)重い判断をしなければならないことを考えると、あまり妥当な金額とは言えないかもしれません。
私自身の経験
※全体的に結構うろ覚えです。
候補者名簿の登録と、選任手続の通知
私自身は、(うろ覚えですが)大学2年時の秋に裁判員候補者名簿への登録の通知が届き、翌年の大学3年時の春頃?に選任手続期日の通知が来ました。
私は、当時法学部の学生で、その時期から一応司法試験を受験することを考えていました。
そのため、「弁護士になったらもう裁判員になれないしな」「なんか役に立つかもな」ぐらいの思いで辞退せずに選任手続に行きました。
多分、法学部じゃなかったり司法試験に一切興味がなかったら辞退してたと思います。面倒くさがりだし。
当時のゼミの先生にも相談したところ、「ええやん、是非行ってきなさい」と言ってもらえたため、ゼミを欠席していくことになりました。
でも、欠席届はちゃんと書かされました。書面で書いて封筒に入れて出しました。いいじゃん、それぐらい適当でも。
選任手続当日
具体的な日付は忘れましたが、春頃だった気がします。
選任期日として指定された日に裁判所に行き、選任手続を行いました。
ここでくじが引かれて実際に裁判員となる人が決められます。
ちなみに、(当然ですが)外れてもこの日に出頭した分の日当は出ます。
最初に、事件の簡単な概要や当事者名が書かれた紙が配られて、事件との関連性がないかを確認されます。
その後、実際にくじが行われます。
くじと言っても、候補者が引くのではなく、裁判所の方でくじを引いて、選ばれた人が別室に呼び出されるという形式でした。
私以外にも選任手続に来ている候補者が30~40人ぐらいいたので、「あ、こりゃ外れて帰ることになりそう」と思っていたら選任されて呼び出されました。
この日に、裁判員6名と、補充裁判員(裁判員に欠員が生じた場合に代わりに裁判員を担当する人)2名が選任されました。
ちなみに、候補者として呼び出されたにもかかわらず、正当な理由なく出頭しない場合、10万円以下の過料に処せられることになります(法112条)。
この部分について、「実際に請求するかといえばね~」とか何とか裁判所の職員の方が何か言っていましたが、聞かなかったことにします。
日程の確認や宣誓等
私が裁判員として選任された事件は、強姦致傷(現在の不同意性交致傷)、窃盗未遂(未遂だった気がするけど既遂だったかも。)というものでした。
先述したように、裁判員裁判の対象となるのは重大な事件ですので、ある程度覚悟はしていましたが、実際にこれから自分がその事件の判断をするのかと思うと、普通に「あ、やるんじゃなかったかも」などと思いました。
選任後は、実際の公判の日程確認等をして、宣誓を行った覚えがあります。
そして、「公判が行われる日の○○時に来てください」と指示があり、帰宅しました。
第1回公判期日
通常の刑事裁判は、1か月に1回ぐらいのペースで期日が入ります。
しかし、裁判員裁判の場合、数日間連続で期日が入るなど、集中的に期日が入れられることになります。
実際にどれぐらいの日数が入るのかは、公判前整理手続きで事件の内容等から個別具体的に決められることになるのですが、私の場合は4日連続(ただし土日を挟む)で期日を開いた覚えがあります。
公判当日は、集合してから、手続の流れの解説と裁判官の自己紹介などがありました。
この際、裁判官は自分の名前や簡単な経歴、趣味などについて述べていたのですが、裁判員は名前などを名乗らないようにしていました。
裁判員はみんな、「裁判員1番さん」みたいな感じで番号で呼ばれます、確か。
これは、裁判員の氏名等の情報を秘匿する必要があるためです(法101条)。
ちなみに、その当時の担当裁判官の顔は何となく覚えているのですが、名前はみんな忘れてしまいました。
顔合わせや手続の説明が終了し、公判直前になると、法廷裏の別室に移動します。
そして、実際に法廷に入るときの流れ(誰々が最初に入って~とか、どこそこで一礼して~など。)を説明されます。
このあたりの流れは裁判所にもよるかもしれません。
第1回公判では、冒頭手続きが行われた後、証拠調べ手続の一部が行われました。
1日目は、客観的な証拠の取調べの他、被害者の尋問も行われたと思います。
実行行為を撮影した防犯カメラ等がなかったため、被害者の供述が重要な事案でした。
性犯罪ということもあり、被害者の尋問は、被害者が傍聴席や被告人からは見えないように遮へい措置が採られました
※一応、公開の法廷で行われた裁判手続ですが、性犯罪ということもあり、詳細は控えます。
お昼休憩時には、裁判所のお弁当を注文することもできます。
でもタダではないです。ちゃんとお金を払う必要があります(うろ覚えなため、違ったら修正します。)。
なお、帰りは、関係者に遭遇しないように、裁判所の裏口から帰るように誘導されました。ただ、登庁する際には何か特別な指示があったわけではないため、翌日の登庁時に担当検事とエレベーターが同じになりました。別に何も問題なかったけど。
第2回、第3回公判
正直詳細はあまり覚えてないです。もしかしたら被害者の尋問は2日目からだったかも…。
手続的な話で言うと、この2日間で被害者の尋問や被告人質問等を終えた覚えがあります。
休憩時に待機室に戻った際に、裁判官や他の裁判員の方と、事件のことやそれ以外のことについて軽く話をした覚えがあります。
第4回公判
(おそらく)第4回が最終日だったと思います。
この日の午前中に論告・求刑と弁論があり、その後、審理をして午後のどこかで判決とかだったと思います(もしかしたら前日までに弁論終結してたかも)。
審理では、裁判官と裁判員が、そもそもどのような刑になるのか(あるいは無罪となるのか)、何らかの刑に該当するとして罪の重さはどうするのかなどについて話し合います。
※審理の内容については守秘義務があるためお話しできません。
審理中に、なんか学生なのかそうじゃないのかよく分からない謎の集団が入ってきて、裁判所の職員の人が「修習生の研修のために見学をさせてもらいます」と案内をしてきました。
これは、司法修習生(司法試験に合格して実務に出るために研修をしている人)の裁判所での研修の一つです。
後に自分が修習生になってわかったのですが、修習生は、裁判員裁判の審理を見学する際に、「石になれ」と指示されます。
これは、例えば、裁判員の人が意見を言った際に、「うんうん」と頷いたり、あるいは、「う~ん」といった顔をしてしまうことで、心理に影響を与えることを防ぐためです。
私は何ともなかったのですが、これ、苦手な人には結構辛いらしいです。
もし司法試験の合格を目指している方がいましたら、覚悟をしておいた方がいいかもしれません。もっと他に覚悟をするべきことが山ほどありますが。
ちなみに、審理中に寝てたか何かで怒られた人もいます。馬鹿野郎。
審理が終わると、裁判官が判決文の準備などをして、判決になります。
手続のその後
裁判手続が終わった後、証明書の発行手続き等をして解散したと思います。
案外あっさり解散したなという印象でした。
この時も、いつもと同じように裏口からの解散でした。
あと、記念品?か何かとして裁判員バッジをもらいました。多分まだ家のどこかにあると思います、どこかに。
この記事を書いてる際に調べたのですが、今はもう廃止されている裁判所もあるようでした。
あと、メルカリで売られていました。倫理観とかないんか?
おわりに
いかがだったでしょうか。
なんとなく、「裁判員ってこんな感じなんだ」というのが伝われば幸いです。
裁判員に選任された方は不安だと思います。
ですが、裁判官や裁判所の職員は、裁判員の方にかなり気を使って接しておられるので、基本的には指示に従いつつ、審理の際は自分の意見も大事にしていけば良いと思います。
法律知識なども、特に事前に勉強する必要はないと思います。
裁判時に必要な知識については、裁判官や職員が説明してくれるはずです。