発信者情報開示請求における違法性阻却事由の立証責任等について

目次

はじめに

X(旧Twitter)で、「開示請求で、裁判官から『ないことの証明』を求められている」という趣旨の投稿を見ました。
おそらくですが、名誉毀損等における「違法性阻却事由がないこと」の疎明を求められている場面かと思います。

名誉毀損が成立するためには、いくつかの要件があります。
その要件の一部について、発信者情報開示請求の場面では、通常の訴訟の場合と比べて、「その要件について誰が立証する必要があるか」が逆転します。

本稿では、この「発信者情報開示請求における違法性阻却事由の立証責任」について解説していきます。
なお、本稿は、士業向けの内容となっておりますので、一般の方は理解が難しい場面も多々あるかと思いますがご容赦ください。

第1章 名誉毀損が成立するための要件

発信者情報開示といっても、開示の理由となる権利侵害には様々なものがあります。
その中でも多いものの一つが、「名誉毀損(名誉権侵害)」です。

名誉毀損が成立するためには、大きく分けると、以下の要件を満たす必要があります。

  • ①公然性
  • ②事実を摘示して社会的評価を低下させること

ただし、以下の要件を満たす場合には、違法性が阻却される(違法性がなくなる)として、名誉毀損の成立が否定されます。

  • ③公共の利害に関する事実であること(公共性)
  • ④投稿の目的が専ら公益を図ることにあること(公益性)
  • ⑤摘示された事実が真実であること(真実性)

通常の訴訟、すなわち、名誉毀損による損害賠償請求をするような訴訟では、これらの要件のうち、①と②は、名誉毀損の成立を主張する側(損害賠償請求をする側、原告側)が立証する必要があり、③から⑤までは、損害賠償を請求される側(被告側)が立証する必要があります

第2章 発信者情報開示が認められる要件と違法性阻却事由の扱い

ところが、発信者情報開示の場面では事情が変わります。
まず、発信者情報開示が認められるための要件について確認します。

なお、ここでは、本稿に必要な範囲のみ解説します。

特定電気通信による情報の流通によって発生する権利侵害等への対処に関する法律

(発信者情報の開示請求)
第五条

特定電気通信による情報の流通によって自己の権利を侵害されたとする者は、当該特定電気通信の用に供される特定電気通信設備を用いる特定電気通信役務提供者に対し、当該特定電気通信役務提供者が保有する当該権利の侵害に係る発信者情報のうち、特定発信者情報(発信者情報であって専ら侵害関連通信に係るものとして総務省令で定めるものをいう。以下この項及び第十五条第二項において同じ。)以外の発信者情報については第一号及び第二号のいずれにも該当するとき、特定発信者情報については次の各号のいずれにも該当するときは、それぞれその開示を請求することができる。
一 当該開示の請求に係る侵害情報の流通によって当該開示の請求をする者の権利が侵害されたことが明らかであるとき
二 当該発信者情報が当該開示の請求をする者の損害賠償請求権の行使のために必要である場合その他当該発信者情報の開示を受けるべき正当な理由があるとき。
三 次のイからハまでのいずれかに該当するとき。
イ 当該特定電気通信役務提供者が当該権利の侵害に係る特定発信者情報以外の発信者情報を保有していないと認めるとき。
ロ 当該特定電気通信役務提供者が保有する当該権利の侵害に係る特定発信者情報以外の発信者情報が次に掲げる発信者情報以外の発信者情報であって総務省令で定めるもののみであると認めるとき。
(1) 当該開示の請求に係る侵害情報の発信者の氏名及び住所
(2) 当該権利の侵害に係る他の開示関係役務提供者を特定するために用いることができる発信者情報
ハ 当該開示の請求をする者がこの項の規定により開示を受けた発信者情報(特定発信者情報を除く。)によっては当該開示の請求に係る侵害情報の発信者を特定することができないと認めるとき。

情報流通プラットフォーム対処法(旧:プロバイダ責任制限法)の第5条第1項柱書では、「特定電気通信による情報の流通によって自己の権利を侵害されたとする者」は、特定発信者情報以外の情報については第一号と第二号のいずれにも該当するとき、特定発信者情報については、第一号から第三号までのいずれにも該当するときに開示請求ができると定められています。
つまり、どのような場合でもあっても、第一号の要件は満たす必要があります。

情プラ法第5条第1項第1号では、「当該開示の請求に係る侵害情報の流通によって当該開示の請求をする者の権利が侵害されたことが明らかであるとき」と定めています。
ここでいう権利が侵害されたことが「明らか」であるときとは、「権利の侵害がなされたことが明白であるという趣旨であり、不法行為等の成立を阻却する事由の存在をうかがわせるような事情が存在しないことまでを意味する」とされています1(ただし、発信者の主観までは必要ありません)。

ここでいう「不法行為等の成立を阻却する事由」とは、名誉毀損でいうところの違法性阻却事由であり、要件③から⑤に当たります
そして、発信者情報開示請求では、この「要件③から⑤までの存在をうかがわせるような事情が存在しないこと」も主張・立証しなければなりません。
なお、名誉毀損の違法性阻却事由は、要件③から⑤までの全てを満たす必要がありますから、裏を返すと、発信者情報開示請求の場面では、「要件③から⑤のうちどれか1つでも要件を欠くことが明らか」ということが証明できれば良いということになります。
もっとも、要件③と④の公共性・公益性は比較的認められやすいことから、実務上は、要件⑤の真実性が主戦場となることが多いと言えます。

以上からわかるように、通常の損害賠償請求訴訟では請求をする側は要件①と要件②を立証すれば良いのに対し、発信者情報開示請求では、要件①と②の立証に加え、「要件③~⑤が満たされないことが明白であること」も立証しなければなりません
そのため、まだ投稿者を特定する段階に過ぎないのにもかかわらず、損害賠償よりも重い要件を課されている上に、「ないことの証明」を求められるという非常にアンバランスな状況となっています。

第3章 違法性阻却事由の不存在の明白性に関する実務上の対応

3-1. 実務での開示請求の流れ

実務上は、発信者情報開示請求の申し立て(仮処分や開示命令)をする際に、「違法性阻却事由をうかがわせる事情がないこと(不存在)」についてもあらかじめ主張をします。
その際、客観的な証拠を提出できる場合には当該証拠を提出しますし、そのようなものがない場合には、当事者の陳述書などで立証を試みます。

開示請求の申し立てをすると、相手方となるプロバイダは、発信者(投稿者)に対して意見照会を行います。
この際、発信者(投稿者)が意見照会に対して回答をした場合には、相手方プロバイダは、その内容を元に違法性阻却事由の存在についても主張します。

これに対し、申立人(被害者)側は、回答書などで主張された内容について、反論をしていきます。

その上で、最終的には裁判官が開示請求が認められるかについて判断するということになります。

3-2. 違法性阻却事由の判断

裁判官は、申立人(被害者)の主張や提出する証拠、発信者(投稿者)の主張や提出する証拠などによって、違法性阻却事由があるのかどうかについて判断します。
もっとも、実務上は、発信者が詳細な主張やしっかりとした証拠を提出することは多くなく、違法性阻却事由を争うような内容のものであっても「この投稿内容は真実です」とのみ記載していることや、そもそも意見照会に回答しないことがほとんどです。

このような状況で、違法性阻却事由の不存在についてどのように判断するかは、個々のケースにも寄りますし、個々の裁判官次第ではあるのですが、発信者(投稿者)側がきちんと対応しない場合、とりあえずは「違法性阻却事由がない」と判断していることが多いように思います。

一方で、裁判官の中には、この条文に忠実に、「違法性阻却事由がないと確信できない以上、開示請求を認めることはできない」と判断する人もいます。

第4章 違法性阻却事由の不存在の明白性に関する裁判例や議論

発信者情報開示請求における違法性阻却事由の不存在の判断について、参考となる裁判例があります。

なお、この裁判例は旧プロバイダ責任制限法に基づいて判断されているため、現在の情報流通プラットフォーム対処法の条文番号と少しずれています。

4-1. 東京高判令和2年11月11日判タ1481号64頁

これは、転職会議というサイトの口コミ掲示板にて、請求会社に対する誹謗中傷を投稿した者の発信者情報の開示を請求した事案です。
この事案では、「役員に意見すると、やっていないことをでっち上げられて辞めさせられる」、「理不尽なことで社員全員の前で叱り飛ばされ謝罪させられる」、「朝礼で辞めた社員の悪口を言われる」、「社長の入店イベントに事実上強制的に出勤させられ、商品を買わされる」、「参加しないと呼び出されて叱責される」というような内容の投稿がなされました。

この手続きでは、発信者側は、「自分の体験である」と主張していましたが、日時や人物の特定を欠く抽象的な内容にとどまっていました。

これに対して、裁判所は、以下のように判示して、開示を否定した第一審を取り消し、開示を認めました。

法4条(情プラ法では5条)において,権利侵害された者と発信者間の訴訟においては,本来,違法性阻却事由として発信者が主張・立証しなければならないものを,発信者情報開示請求訴訟においては,請求原因として権利侵害された者の主張立証責任であると定めたのは,発信者情報が発信者のプライバシーに関する事柄であって,発信者の匿名性を維持しつつ,発信者自身の手続参加を予定していない訴訟構造の中で発信者のプライバシー及び表現の自由の利益と権利侵害された者の権利回復を図る必要性との調和を図るための措置であると解される。したがって,法4条の「権利侵害が明らか」についての解釈においても,権利侵害された者が権利回復を図ることができないような解釈運用がされるべきでないことが前提となっているというべきである。

(中略)

被控訴人提出の上記回答書に表れた発信者の記載内容は自己の体験を述べた形式で一応の具体性はあるものの,抽象的な事実にとどまり,日時や人物の特定もないことから,控訴人において反論をすることができる内容となっていない。法4条1項が,発信者の匿名性を維持し,発信者自身の手続参加が認められていない手続法の枠組みの中で,発信者の有するプライバシー権や表現の自由等の権利ないし利益と権利を侵害されたとする者の権利回復の利益をどのように調整するかという観点から,前記のとおり権利侵害の明白性の要件が設けられ,違法性阻却事由の存在をうかがわせる事情がないことが必要であるとされていることからすれば,上記の回答書(乙1,2)の提出があったことをもって,本件投稿に摘示された事実が真実であることをうかがわせるような事情があるということはできない。立証責任を転換したことによって,上記回答書に応じて事実の不存在まで厳密な立証を求めると,本来,被害者と発信者との間で争われるべき事項について,発信者からの日時,場所等の特定がなく,抽象的な事実に止まる,中途半端な上記回答書に対して,およそそのような事実はないという不可能に近い立証を強いることになり,相当でないからである。そうすると,発信者情報開示請求訴訟においては,上記控訴人提出の各陳述書によって,控訴人は「権利侵害の明白性」の立証が一応できていると認定・解釈されるべきと考えられる。

まず、裁判所は、一般論において、「「権利侵害が明らか」についての解釈においても,権利侵害された者が権利回復を図ることができないような解釈運用がされるべきでないことが前提となっている」と述べ、立証責任がアンバランスになっていることについて配慮すべきであることを示しています。

その上で、「発信者の記載内容は自己の体験を述べた形式で一応の具体性はあるものの,抽象的な事実にとどまり,日時や人物の特定もないことから,控訴人において反論をすることができる内容となっていない」と指摘し、このような状況にまで厳密な立証を求めることは、「不可能に近い立証を強いることになり,相当でない」と述べています。

以上からすると、投稿者側がきちんと反論できないような抽象的な主張があるに過ぎない場合には、開示を認めるべきだということになります。

4-2. 東京高判令和2年12月9日判タ1481号64頁

これは、外壁塗装業を営む企業が、オンライン地図サービス「△△」(おそらくGoogleマップと推察されます)の口コミ欄に投稿された3件の記事によって名誉を毀損されたとして、サービス運営会社に対し、投稿者の情報開示と記事の送信差止め(削除)を求めた事案です。
投稿のうちの1つは、被害者からの電話勧誘をしつこいと感じた旨を述べ、断った後も再度電話があったとして、法令(特定商取引法)を遵守しない会社であると批判する内容でした。

裁判所は、以下のように判示し、開示を認めなかった第一審を一部取り消して、開示を認めました(ただし、3件の記事のうち1件だけ)。

権利侵害された者と発信者間の訴訟においては,本来,違法性阻却事由として発信者が主張・立証しなければならないものを,プロバイダ法4条により,発信者情報開示請求訴訟においては,請求原因として権利侵害された者の主張立証責任であると定めたのは,発信者情報が発信者のプライバシーに関する事柄であって,発信者の匿名性を維持しつつ,発信者自身の手続参加を予定していない訴訟構造の中で発信者のプライバシー及び表現の自由の利益と権利侵害された者の権利回復を図る必要性との調和を図るための措置であると解される。したがって,プロバイダ法4条の「権利侵害が明らか」についての解釈においても,権利侵害された者が権利回復を図ることができないような解釈運用がされるべきでないことが前提となっているというべきである。

(中略)

プロバイダ法4条1項が,発信者の匿名性を維持し,発信者自身の手続参加が認められていない手続法の枠組みの中で,発信者の有するプライバシー権や表現の自由等の権利ないし利益と権利を侵害されたとする者の権利回復の利益をどのように調整するかという観点から,前記のとおり権利侵害の明白性の要件が設けられ,違法性阻却事由の存在をうかがわせる事情がないこと,すなわち,違法性阻却事由の不存在が必要であるとされているとしても,この立証責任の転換によって,被害者である控訴人におよそ再度の電話勧誘をすることはなかったという不可能に近い立証まで強いることは相当でない。その意味で,プロバイダ法4条1項で定める「権利侵害が明らか」という要件について,権利侵害された被害者が発信者に対して損害賠償請求をする訴訟における違法性阻却事由の判断と完全に重なるものではないと解され,再勧誘の可能性が全くないことまで請求原因として立証することを要しないというべきである。本件投稿記事1においては,控訴人が再勧誘した可能性がないとはいえないものの,発信者が誰であり,再勧誘がいつあったと主張するのか不明であるプロバイダ法4条1項に係る本件訴訟においては,控訴人は一応再勧誘がなかったことを立証したというべきである

この裁判例でも、前の裁判例と同様に、「「権利侵害が明らか」についての解釈においても,権利侵害された者が権利回復を図ることができないような解釈運用がされるべきでないことが前提となっている」という一般論を述べたうえで、ないことの証明という「不可能に近い立証」を強いることは相当ではないと述べています。

4-3. 旧プロ責法の現状と課題に関する議論

旧プロバイダ責任制限法についての平成22年頃当時の現状と課題について議論がなされた総務省主催のプロバイダ責任制限法検証WGの第8回2では、「あくまでプロバイダに対する発信者情報開示請求において要件とされているのは権利侵害の明白性であるから、言い換えると違法性阻却事由の不存在の明白性ということになる。これに対して、発信者と被害者との間で仮に不法行為の訴訟が起きた場合に主張される対象となるのは権利侵害あるいは違法性阻却事由の不存在そのものであって、この立証責任は発信者の側で負うことになっており、要件が違法性阻却事由の不存在と違法性阻却事由の不存在の明白性で違っているわけである。」、「情報開示を求める側は一応違法性阻却事由があるとは言えないだろうということが、ある程度確からしいところまで言えば良いわけであって、違法性阻却事由不存在そのものを立証する必要はない」との意見が述べられています。

第5章 どのように対応すべきか

これらの裁判例や議論は旧プロ責法を元になされているものですが、現在の情報流通プラットフォーム対処法でもこの要件は存在しています。
そのため、これらの裁判例や議論を踏まえて、どのように対応すべきかですが、基本的には、申立人側としては、客観的証拠などを提出できるのであれば、これを事前に準備して出し惜しみをせずに提出するということになるかと思います。
もっとも、誹謗中傷の内容が抽象的で、日時や場所などが特定できず反論ができない場合には、その旨主張していくということになるでしょう。

一方で、発信者側としては、意見照会書が届いた段階で、具体的な事実を元に反論をし、可能な限り客観的な証拠もつけるという対応になります。
もっとも、発信者側からすれば、後の損害賠償請求訴訟で争う道も残されているわけですから、そちらで本格的に争うために証拠等を準備しておく、というのも選択肢にはなるかと思います。

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脚注

  1. 総務省総合通信基盤局消費者行政第二課「第3版 プロバイダ責任制限法」104頁 ↩︎
  2. https://www.soumu.go.jp/main_content/000117155.pdf ↩︎
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この記事を書いた人

髙田法律事務所の弁護士。東京弁護士会所属 登録番号60427
インターネットの誹謗中傷や離婚、債権回収、刑事事件やその他、様々な事件の解決に携わっている。
最新のビジネスや法改正等についても日々研究を重ねている。

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