【この記事の結論・要約】
- 爆サイの削除依頼は、まず専用フォームから行いますが、法的な権利侵害の疎明が必要です。
- 削除されない場合や投稿者を特定したい場合は、裁判所を通じた「発信者情報開示請求」を行います。
- 特定後は、投稿者に対して慰謝料や調査費用の損害賠償請求、および刑事告訴が可能です。
はじめに
「爆サイ(爆サイ.com)」は、日本最大級の地域密着型掲示板として知られています。
地域別、ジャンル別に細分化されたスレッド(掲示板)が存在し、特定の地域や店舗、個人に関するローカルな情報交換が活発に行われています。
その一方で、その地域密着性ゆえに、特定の個人や店舗をターゲットにした誹謗中傷、プライバシーの暴露、風俗店キャストやホストへの悪質な書き込みなどが集中しやすく、被害者が特定されやすいという特徴があります。
「〇〇市の〇〇という店」「〇〇学校の〇〇さん」といった具体的な書き込みは、狭いコミュニティ内での噂を一気に拡散させ、被害者の社会生活に甚大な悪影響を及ぼします。
本稿では、爆サイでの誹謗中傷被害に遭われた方に向けて、まずはご自身で行える削除依頼フォームからの申請方法、それでも削除されない場合の弁護士による削除請求、そして投稿者を特定して法的責任(損害賠償・刑事罰)を追及するための発信者情報開示請求の手順について、実務的な観点から解説します。
1.爆サイとは?
1-1. 地域密着型掲示板の特性
爆サイは、「北海道版」「関東版」「九州版」といったエリア区分の中に、さらに都道府県、市区町村ごとの細かいカテゴリが設けられています。
2ちゃんねる(5ちゃんねる)等の全国規模の掲示板と比較して、閲覧者は「その地域に住んでいる人」や「その業界に関心がある人」に限定される傾向があります。
そのため、「身近な人間による書き込み」である可能性が高く、かつ「リアルの人間関係に直接的なダメージを与えやすい」という特徴があります。
1-2. 誹謗中傷の傾向
爆サイで多く見られる被害には以下の傾向があります。
- 飲食店・企業への悪評: 「〇〇店はボッタクリ」「賞味期限切れを出している」といった営業妨害。
- 風俗店・水商売関連: キャスト(女性・男性)に対する「枕営業している」「性病を持っている」といった名誉毀損や、本名・住所の晒し行為。
- 個人への私怨: 学校や職場でのトラブルを背景とした、個人名を出しての誹謗中傷やプライバシー侵害。
これらの書き込みは、たとえ匿名であっても法的に許容されるものではありません。
2.爆サイでの書き込みが「権利侵害」となる法的基準
削除依頼や開示請求を行うためには、対象の書き込みが単に「気に入らない」というだけでなく、法律上の「権利侵害」に該当する必要があります。
主な権利侵害の類型は以下の通りです。
2-1. 名誉毀損(めいよきそん)
不特定多数が閲覧できる状態で、具体的な事実を挙げ、社会的評価を低下させる行為です。
- 例: 「Aさんは会社の金を横領している」「B店は産地偽装をしている」
- 要件: 「公然性」「事実の摘示」「社会的評価の低下」が必要です。ただし、その内容が真実であり、公益目的がある場合は違法性が阻却されることがあります。
2-2. 侮辱
具体的な事実を挙げずに、公然と人を侮辱し、社会的評価を低下させる行為です。
- 例: 「バカ」「死ね」「ブス」「ゴミ」などの罵詈雑言。
- 基準: 社会通念上許容される限度を超えた悪質な表現であるかどうかが問われます。
2-3. プライバシー侵害
私生活上の事実や、一般に知られていない情報を、本人の承諾なくみだりに公開する行為です。
- 例: 本名、住所、電話番号、勤務先、前科・前歴、病歴などの公開。
- 爆サイにおける特徴: 源氏名で活動しているキャストの本名を晒す行為や、自宅付近の写真をアップロードする行為などが該当します。
2-4. 業務妨害・信用毀損
虚偽の風説を流布し、業務を妨害したり、経済的な信用を毀損したりする行為です。
- 例: 「この店に行くと食中毒になる」「近々倒産するらしい」といった虚偽の書き込み。
3.自分でできる「削除依頼フォーム」からの削除申請方法
爆サイには、被害者自身が削除を依頼するための公式フォームが用意されています。
まずはこの方法を試みます。
3-1. 削除依頼の手順
爆サイの公式フォームから削除依頼する場合、会員登録をする必要があります。
- 対象スレッドの特定: 削除したい書き込みがあるスレッドを開きます。
- 削除依頼フォームへのアクセス: スレッド下部にある「削除依頼」のリンクをクリックします。
- 必要事項の入力:
- スレッドNo・レスNo: 削除対象の番号を正確に入力します。
- 通報区分: 「個人情報の記載」など適切なものを選択します。
- 削除依頼理由: ここが最も重要です。「不快だから消してほしい」といった感情的な理由ではなく、「〇〇という記載は事実無根であり、私の名誉を毀損している」といった法的な理由を簡潔かつ具体的に記述します。
- 送信: 内容を確認し、送信します。
3-2. 削除依頼の注意点
- 「72時間ルール」: 爆サイのガイドラインには、原則として72時間以内に対応可否を判断する旨の記載がありますが、必ずしも削除されるわけではありません。
- 理由の記述: 爆サイの運営側は、膨大な数の依頼を処理しています。どの規約に違反し、どの権利を侵害しているかが一目でわかるように記述する必要があります。
- 削除されない場合: 申請から1週間以上経過しても削除されない場合は、運営側が「削除相当ではない」と判断した可能性が高いです。理由を追記して改めて対応を求めるか、次の法的手段へ移行すべきです。
4.削除されない場合は「弁護士による削除請求」へ
フォームからの依頼で削除されなかった場合、弁護士に依頼し、法的な手続きを通じて削除を求めます。
4-1. 送信防止措置請求(プロバイダ責任制限法)
弁護士名義で、爆サイの運営者に対し、「プロバイダ責任制限法」に基づく「送信防止措置依頼書」を郵送等の方法で送付します。
法的根拠を明記した書面を送ることで、運営側が違法性を再考し、任意での削除に応じるケースがあります。
4-2. 裁判所を通じた「削除仮処分」
任意の請求でも応じない場合、裁判所に対して「削除仮処分命令」を申し立てます。
これは通常の訴訟よりも迅速な手続きで、裁判官が「権利侵害がある」と認めれば、運営者に対して削除を命じる決定を出します。
爆サイの運営者は、裁判所の決定には原則として従う傾向にあります。
- 期間: 申立てから削除まで、早ければ1〜2ヶ月程度です。
- 管轄: 運営会社の実体や所在地を調査し、適切な裁判所に申し立てる必要があります。
5.投稿者を特定する「発信者情報開示請求」の手順
「削除だけでは気が済まない」「損害賠償を請求したい」「二度と書き込まないよう誓約させたい」という場合は、削除と並行して、投稿者を特定する「発信者情報開示請求」を行います。
特定手続きは、大きく分けて2つの段階を踏みます。
5-1. ステップ1:爆サイへのIPアドレス開示請求
まず、爆サイの運営者に対し、対象の書き込みがなされた際の「IPアドレス」と「タイムスタンプ(投稿日時)」の開示を求めます。
爆サイは、ユーザーの氏名や住所などの個人情報を保有していません。
保有しているのは通信の記録(ログ)のみであるため、まずはこれを取得します。
まずは、爆サイの運営者に対してテレサ書式(情報流通プラットフォーム対処法ガイドライン等検討協議会の公開する書式)等で開示請求を行うことが多いです。
それでも開示されない場合、「IPアドレス開示仮処分」を申し立てます。
5-2. ステップ2:アクセスプロバイダ(ISP)の特定
開示されたIPアドレスを調査すると、投稿者が利用したインターネット接続業者(アクセスプロバイダ)が判明します。
- 例:NTTドコモ、KDDI(au)、ソフトバンク、J:COM、So-netなど。
5-3. ステップ3:プロバイダへの契約者情報開示請求
次に、特定したプロバイダに対して、「その日時に、そのIPアドレスを使っていた契約者の氏名・住所・電話番号・メールアドレスを開示せよ」と求めます。
これには原則として「発信者情報開示請求訴訟」(あるいは発信者情報開示命令)という裁判手続きが必要です。
裁判所が「権利侵害が明白である」と認めれば、プロバイダに対して情報の開示を命じる判決が出されます。
【重要:ログ保存期間の壁】 プロバイダが通信ログ(誰がいつどのIPを使ったかの記録)を保存している期間は、一般的に携帯キャリアで約3ヶ月、固定回線で約6ヶ月〜1年程度と非常に短いです。この期間を過ぎるとログが消去され、技術的に特定が不可能になります。そのため、被害に気づいたら直ちに行動を起こす必要があります。弁護士は、訴訟の前にプロバイダに対して「ログを消さないでほしい」という要請(ログ保存要請)を行い、証拠の保全を図ります。
6.投稿者特定後の法的責任追及(損害賠償・刑事告訴)
無事に投稿者の身元(氏名・住所)が特定された後は、以下の法的措置をとることができます。
6-1. 民事上の責任追及(損害賠償請求)
特定した投稿者に対し、不法行為に基づく損害賠償を請求します。 請求内容は主に以下の通りです。
- 慰謝料: 精神的苦痛に対する賠償。
- 個人の名誉毀損:10万〜50万円程度(場合により100万円以上)
- プライバシー侵害・侮辱:数万〜数十万円程度
- 事業者の信用毀損:営業損害の実額(立証が必要)
- 調査費用: 投稿者を特定するために要した弁護士費用。
- 裁判実務上、全額が認められることは稀で、かかった費用の数割程度が損害として認められるケースが一般的です。
まずは弁護士名義で内容証明郵便を送付し、示談交渉を行います。
相手が支払いに応じない、あるいは誠意ある対応が見られない場合は、民事訴訟(裁判)を提起します。
6-2. 刑事上の責任追及(刑事告訴)
投稿内容が悪質な場合、警察に対して刑事告訴を行い、処罰を求めることも検討します。
- 名誉毀損罪(刑法230条): 3年以下の拘禁刑(懲役若しくは禁錮)又は50万円以下の罰金。
- 侮辱罪(刑法231条): 1年以下の拘禁刑(懲役若しくは禁錮)若しくは30万円以下の罰金又は拘留若しくは科料。(※2022年の厳罰化により法定刑が引き上げられました)
- 信用毀損罪・偽計業務妨害罪(刑法233条): 3年以下の拘禁刑(懲役)又は50万円以下の罰金。
- 脅迫罪(刑法222条): 生命、身体、自由、名誉又は財産に対し害を加える旨を告知して人を脅迫した場合。
名誉毀損罪や侮辱罪は「親告罪」であり、犯人を知った日から6ヶ月以内に告訴する必要があります。
7.弁護士に依頼するメリット
爆サイの誹謗中傷対策は、ご自身で行うには限界があります。
弁護士に依頼することで、以下のメリットが得られます。
7-1. 法的構成の的確な判断
どの書き込みが、どの権利を侵害しているかを法的に構成することは、専門知識がなければ困難です。
弁護士は、過去の裁判例に基づき、認められやすい主張を組み立てます。
7-2. スピード対応によるログ消失の防止
前述の通り、プロバイダのログ保存期間は短く、時間との勝負です。
弁護士はタイムリミットを想定して、適切なスケジュールで手続きを進め、ログ保存要請などの保全措置を迅速に行います。
7-3. 加害者との直接交渉の回避
特定後の示談交渉において、被害者本人が加害者と連絡を取ることは精神的に大きな負担であり、トラブルの元です。
弁護士が代理人となることで、相手と直接関わることなく、冷静かつ適切な条件(慰謝料額、再発防止の誓約など)での解決を目指すことができます。
おわりに
爆サイにおける誹謗中傷は、地域や業界といった狭いコミュニティ内で拡散するため、被害者の生活に直接的なダメージを与えます。
「匿名だからバレないだろう」という投稿者の認識は誤りです。
法的な手続きを踏めば、投稿者を特定し、相応の責任を取らせることは十分に可能です。
重要なのは「早期の対応」です。
悩んでいる間にログが消えてしまえば、特定が困難になってしまいます。
誹謗中傷の書き込みを見つけたら、まずはURLやスクリーンショットなどの証拠を保存し、速やかに弁護士にご相談ください。
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