日本の離婚手続きについて:協議・調停・裁判それぞれの流れと要点

目次

はじめに

夫婦関係を解消する「離婚」は、当事者にとって極めて重大な身分上の法律行為です。
日本の法制度では、離婚に至る手続きとして、主に「協議離婚」「調停離婚」「裁判離婚」という3つの方法があります。
これらの手続きは、当事者間の合意形成の度合いによって選択され、それぞれに要する時間、費用、そして法的な効力が大きく異なります。

統計上、日本の離婚の約9割は当事者間の話し合いによる協議離婚ですが、条件がまとまらない場合や感情的な対立がある場合には、裁判所が関与する調停離婚や裁判離婚といった手続きに移行します。

本稿では、これから離婚を考えている方、あるいは既に相手方と話し合いを進めている方のために、これら3つの離婚手続きがそれぞれどのような流れで進むのか、各段階で何を決めるべきか、そしてどのような点に注意すべきかについて、法的な観点から解説します。

協議離婚 ~当事者間の話し合いによる解決~

協議離婚は、夫婦間の話し合いによって離婚そのものと、それに伴う各種条件について合意し、市区町村役場に離婚届を提出することで成立する、最も簡易で一般的な離婚方法です。
裁判所が一切関与しない点が最大の特徴です。

協議離婚における話し合いの要点

協議離婚を選択する場合、離婚届を提出する前に、夫婦間で以下の重要な法律事項について明確に合意しておく必要があります。
これらの取り決めが曖昧なまま離婚すると、後々深刻なトラブルに発展する可能性があります。

離婚そのものへの合意:まず、大前提として、夫婦双方が離婚すること自体に合意している必要があります。

未成年の子に関する事項:未成年の子どもがいる場合、以下の事項は法律上、離婚届を提出する際に必ず定めなければならないとされています(民法第819条、第766条)。

第七百六十六条 父母が協議上の離婚をするときは、子の監護をすべき者、父又は母と子との面会及びその他の交流、子の監護に要する費用の分担その他の子の監護について必要な事項は、その協議で定める。この場合においては、子の利益を最も優先して考慮しなければならない。
2 前項の協議が調わないとき、又は協議をすることができないときは、家庭裁判所が、同項の事項を定める。
3 家庭裁判所は、必要があると認めるときは、前二項の規定による定めを変更し、その他子の監護について相当な処分を命ずることができる。
4 前三項の規定によっては、監護の範囲外では、父母の権利義務に変更を生じない。

第八百十九条 父母が協議上の離婚をするときは、その協議で、その一方を親権者と定めなければならない。
2 裁判上の離婚の場合には、裁判所は、父母の一方を親権者と定める。
3 子の出生前に父母が離婚した場合には、親権は、母が行う。ただし、子の出生後に、父母の協議で、父を親権者と定めることができる。
4 父が認知した子に対する親権は、父母の協議で父を親権者と定めたときに限り、父が行う。
5 第一項、第三項又は前項の協議が調わないとき、又は協議をすることができないときは、家庭裁判所は、父又は母の請求によって、協議に代わる審判をすることができる。
6 子の利益のため必要があると認めるときは、家庭裁判所は、子の親族の請求によって、親権者を他の一方に変更することができる。

  • 親権者: 現在の日本の法律では、離婚後の共同親権は認められていないため、必ず父または母のどちらか一方を親権者として定め、離婚届に記載する必要があります。親権者が決まっていなければ、離婚届は受理されません。
  • 養育費: 子どもの監護や教育のために必要な費用です。金額、支払期間(通常は子どもが成人するまで、または大学卒業まで)、支払方法(毎月の振込など)を具体的に定めます。金額の算定にあたっては、裁判所が公表している「養育費算定表」を参考に、双方の収入に応じて公平に分担するのが一般的です。
  • 面会交流: 子どもと離れて暮らす親(非監護親)と子どもが、定期的に会って交流する方法です。面会交流の頻度(月1回、2ヶ月に1回など)、時間、場所、子の受け渡し方法などを、子どもの年齢や福祉を最優先に考慮して具体的に定めます。

財産に関する事項: 離婚に伴う財産の清算についても、明確な合意が必要です。

  • 財産分与: 婚姻期間中に夫婦が協力して築いた財産(共有財産)を、離婚に際して公平に分配することです。共有財産には、預貯金、不動産、自動車、有価証券、保険解約返戻金などが含まれます。どちらの名義であるかは問われず、原則として貢献度に応じて2分の1の割合で分与します。退職金や年金も、婚姻期間に対応する部分は財産分与の対象となります。
  • 慰謝料: 離婚の原因が、一方の当事者の有責行為(不貞行為、DVなど)にある場合に、それによって受けた精神的苦痛に対して支払われる損害賠償金です。慰謝料は、有責行為の存在と、それが原因で婚姻関係が破綻したことが認められる場合に請求できます。金額は、行為の悪質性や期間、婚姻期間などを考慮して算定されます。
  • 年金分割: 婚姻期間中の厚生年金や共済年金の保険料納付実績を、当事者間の合意または裁判所の決定に基づき分割する制度です。合意する場合、按分割合(上限は2分の1)を定めます。

離婚協議書の作成と公正証書化

上記の事項について合意が形成された場合、その内容を「離婚協議書」という書面に残すことが極めて重要です。
口約束だけでは、後になって「そんな約束はしていない」といった紛争が生じる原因となります。

さらに、特に養育費や慰謝料など、将来にわたる金銭の支払いに関する合意については、この離婚協議書を公証役場で「公正証書」にしておくことを強く推奨します。

  • 公正証書とは: 公証人という法律の専門家が、当事者間の合意内容を確認した上で作成する公文書です。高い証明力を持ち、文書の紛失や偽造のリスクがありません。
  • 「強制執行認諾文言」: 公正証書を作成する際に「債務者は、本証書記載の金銭債務を履行しないときは、直ちに強制執行に服する旨陳述した」という内容の「強制執行認諾文言」を入れておくことで、公正証書は裁判の確定判決と同じ「債務名義」としての効力を持ちます。 これにより、万が一、相手方が養育費や慰謝料の支払いを怠った場合に、改めて裁判を起こすことなく、公正証書に基づいて直ちに相手の給与や預貯金などを差し押さえる「強制執行」の手続きが可能となります。

離婚届の提出

全ての条件について合意し、離婚協議書(できれば公正証書)の作成が完了したら、市区町村役場に離婚届を提出します。
離婚届には、夫婦双方および成人の証人2名の署名・押印が必要です。 離婚届が受理された日をもって、法的に協議離婚が成立します。

調停離婚 ~家庭裁判所での話し合いによる解決~

夫婦間での直接の話し合いでは離婚の合意ができない、あるいは財産分与や親権などの条件面で意見が対立して協議がまとまらない場合には、家庭裁判所に「夫婦関係調整調停(離婚)」を申し立て、調停による解決を目指すことになります。

第1章:調停離婚の概要と「調停前置主義」

  • 調停離婚とは: 家庭裁判所において、裁判官1名と、民間から選ばれた有識者2名(男女各1名が通常)で構成される「調停委員会」を介して、離婚に向けた話し合いを進める手続きです。調停は、あくまで当事者双方の合意形成を目指す話し合いの場であり、裁判のように一方が他方を論破する場ではありません。
  • 調停前置主義: 日本の法律では、離婚に関して訴訟(裁判)を提起する前に、まず家庭裁判所に調停を申し立てなければならないと定められています(家事事件手続法第257条第1項)。これを「調停前置主義」といいます。これは、家庭内の紛争は、できる限り当事者間の話し合いによって自主的かつ円満に解決することが望ましいという考え方に基づくものです。

調停離婚の手続きの流れ

家庭裁判所への申立て

  • 申立人: 夫または妻のどちらからでも申し立てることができます。
  • 申立先: 原則として、相手方の住所地を管轄する家庭裁判所、または当事者が合意で定める家庭裁判所です。
  • 必要書類: 申立書のほか、夫婦の戸籍謄本、収入に関する資料(源泉徴収票、課税証明書など)などを提出します。
  • 費用: 収入印紙代(1,200円)と、連絡用の郵便切手代(数千円程度)であり、訴訟に比べて低額です。

調停期日の指定と進行:申立てが受理されると、約1ヶ月から1ヶ月半後に第1回の調停期日が指定され、裁判所から双方に呼出状が送付されます。

  • 当事者分離の原則: 調停は、原則として夫婦が別々の待合室で待機し、交互に調停室に呼ばれて、調停委員にそれぞれの主張を伝える、という形式で進められます。これにより、顔を合わせることなく、冷静に話し合いを進めることができます。
  • 調停委員の役割: 調停委員は、中立的な立場で双方の言い分を整理し、法律的な観点からの助言や、解決案の提示などを行い、合意形成をサポートします。必要に応じて、裁判官も調停に同席し、法的な見解を示すことがあります。
  • 期日の回数: 調停は1回で終了することは稀で、通常は月1回程度のペースで期日を重ねます。解決までの期間は事案によりますが、概ね半年から1年程度かかることが一般的です。

調停の終了:調停の終わり方には、主に以下の3つのパターンがあります。

  • ① 調停成立: 離婚そのものと、親権、養育費、財産分与などの全ての条件について双方が合意に至った場合、調停は成立します。合意内容は「調停調書」という公文書に記載されます。 この調停調書は、裁判の確定判決と同一の効力を持ちます。したがって、調停で定められた養育費や慰謝料の支払いが滞った場合には、調停調書に基づいて強制執行の手続きをとることが可能です。 調停成立後、申立人は10日以内に、調停調書の謄本と離婚届を市区町村役場に提出することで、法的に離婚が成立します。
  • ② 調停不成立: 話し合いを重ねても、離婚そのものや、主要な条件について合意に至る見込みがないと調停委員会が判断した場合、調停は「不成立」として終了します。この場合、離婚を望む当事者は、次に解説する「裁判離婚」の手続きに進むことになります。
  • ③ 調停の取下げ: 申立人が、相手方の同意を得ずに、いつでも調停を取り下げることができます。ただし、一度取り下げて再度同じ内容で調停を申し立てることは、信義則上問題となる可能性があります。

裁判離婚 ~裁判所の判決による最終解決~

調停が不成立となった場合に、それでも離婚を求める当事者が選択する最終的な法的手段が、「離婚訴訟(裁判)」です。

裁判離婚の概要

裁判離婚は、家庭裁判所(人事訴訟)において、当事者双方が法的な主張と証拠を提出し合い、最終的に裁判官が、法律に基づき、離婚を認めるか否か、および離婚条件について判決という形で強制的な判断を下す手続きです。

裁判離婚が認められるための法的要件「離婚原因」

協議離婚や調停離婚が当事者の合意を基礎とするのに対し、裁判離婚では、離婚を請求する側(原告)が、民法第770条第1項に定められた法定の「離婚原因」が存在することを、証拠に基づいて主張・立証しなければなりません。
離婚原因が認められなければ、原則として離婚請求は棄却されます。

【法定の離婚原因】(民法770条1項)

第七百七十条 夫婦の一方は、次に掲げる場合に限り、離婚の訴えを提起することができる。
一 配偶者に不貞な行為があったとき。
二 配偶者から悪意で遺棄されたとき。
三 配偶者の生死が三年以上明らかでないとき。
四 配偶者が強度の精神病にかかり、回復の見込みがないとき。
五 その他婚姻を継続し難い重大な事由があるとき。
2 裁判所は、前項第一号から第四号までに掲げる事由がある場合であっても、一切の事情を考慮して婚姻の継続を相当と認めるときは、離婚の請求を棄却することができる。

  1. 不貞行為があったとき(1号): 配偶者以外の者と自由な意思で肉体関係を持つこと。
  2. 悪意で遺棄されたとき(2号): 正当な理由なく、夫婦の同居・協力・扶助義務を履行しないこと。例えば、一方的に家を出て生活費を全く送らない、などが該当します。
  3. 配偶者の生死が3年以上明らかでないとき(3号)
  4. 配偶者が強度の精神病にかかり、回復の見込みがないとき(4号): 単に精神病であるだけでは足りず、夫婦としての協力義務が果たせないほど重度であり、かつ回復の見込みがないことが専門医の鑑定などによって認められる必要があります。
  5. その他婚姻を継続し難い重大な事由があるとき(5号): 上記1~4に該当しないものの、客観的に見て夫婦関係が破綻し、回復の見込みがない状態を指します。性格の不一致、長期間の別居、DV(身体的・精神的暴力)、モラルハラスメント、親族との不和、過度の宗教活動などが、その程度や経緯によってこれに該当する可能性があります。実務上、離婚訴訟で最も多く主張される離婚原因です。

裁判離婚の手続きの流れ

家庭裁判所への訴訟提起

  • 提訴する者: 離婚を求める原告。
  • 提訴先: 原告または被告の住所地を管轄する家庭裁判所。
  • 必要書類: 訴状、戸籍謄本、調停不成立証明書など。

口頭弁論期日:訴訟が提起されると、約1ヶ月から1ヶ月半後に第1回の口頭弁論期日が開かれます。その後は、月1回程度のペースで期日を重ね、当事者双方が「準備書面」という書面で主張を述べ、それを裏付ける「証拠」(メール、写真、診断書、陳述書など)を提出し合います。

尋問手続:書面での主張・立証がある程度尽くされると、当事者本人や証人を法廷に呼び、直接話を聞く「尋問」の手続きが行われます。原告・被告双方が、相手方当事者や証人に対して、反対尋問などを行います。尋問は、裁判官が判決を下す上で、当事者の言い分の信用性を判断するための重要な手続きです。

和解勧告:裁判所は、審理の途中で、いつでも当事者に対して和解を勧告することができます。裁判官が、それまでの審理を踏まえた心証(判決の見通し)を示した上で、具体的な解決案を提示することが多く、多くの離婚訴訟は、判決に至る前にこの「和解」によって終結します。和解が成立した場合、その内容は判決と同様の効力を持つ「和解調書」に記載されます。

判決:和解が成立しない場合、裁判所は最終的な「判決」を下します。判決では、離婚請求を認めるか否か(認容・棄却)、そして離婚を認める場合には、親権、養育費、財産分与、慰謝料などの離婚条件についても、裁判官が法的な判断を示します。判決に不服がある当事者は、判決書の送達から2週間以内に高等裁判所に控訴することができます。

離婚の成立:判決が確定(または和解が成立)した後、原告は10日以内に、判決書(または和解調書)の謄本と離婚届を市区町村役場に提出することで、法的に離婚が成立します。

おわりに

日本の離婚手続きは、当事者間の合意を基本とする「協議離婚」、裁判所が話し合いを仲介する「調停離婚」、そして裁判所が最終的な法的判断を下す「裁判離婚」という、段階的な構造になっています。

それぞれの方法は、精神的・時間的・経済的な負担が大きく異なります。
可能な限り、当事者間の冷静な話し合いによる協議離婚で解決することが望ましいのは言うまでもありません。
しかし、それが困難な場合には、調停や訴訟といった法的手続きをする必要があります。

どの手続きを選択するにせよ、親権、養育費、財産分与など、決めなければならない法的問題は複雑かつ多岐にわたります。
離婚という人生の大きな岐路において、後悔のない適切な判断を下すためには、早い段階で弁護士などの法律専門家に相談し、客観的な助言を得ることが重要です。

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この記事を書いた人

髙田法律事務所の弁護士。
インターネットの誹謗中傷や離婚、債権回収、刑事事件やその他、様々な事件の解決に携わっている。
最新のビジネスや法改正等についても日々研究を重ねている。

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