はじめに
近年、SNSやマッチングアプリなどのプラットフォーム上で、「パパ活」と称して経済的な援助をしてくれる相手を募集する投稿がよく見られます。
インターネットでの募集ではありませんが、大久保公園などでの「立ちんぼ」などが問題になったことも記憶に新しいところです。
当事者間では、金銭的なサポートを伴う交際関係という認識であったとしても、その募集態様や投稿内容、そして背景にある目的によっては、日本の法律に抵触し、違法となる(犯罪が成立する)可能性があります。
特に、投稿が不特定多数の目に触れるインターネット上で行われること、そして金銭の授受が関係していることから、「売春防止法」などに違反するリスクを内包しています。
さらに、投稿者が18歳未満であった場合には、「児童買春・児童ポルノ禁止法」や「児童福祉法」といった、より厳しい法律の規制対象となり、極めて深刻な事態に発展します。
本稿では、インターネット上で「パパ活募集」を行った場合に、具体的にどのような犯罪が成立しうるのか、科される刑罰はどの程度か、そして募集に応じた男性側が負うリスクについて解説します。
売春防止法違反
「パパ活」の募集が、金銭を対価とする性的な関係を求めるものであった場合、まず問題となるのが売春防止法違反です。
1-1. 処罰の対象となる行為:「勧誘」
売春防止法では、売春行為(対価を受け取って性交すること)の準備段階にあたる「勧誘」行為を処罰の対象としています。
売春防止法 第5条(勧誘等)
売春をする目的で、次の各号のいずれかに該当する行為をした者は、六月以下の拘禁刑又は二万円以下の罰金に処する。
一 公衆の目に触れるような方法で、人を売春の相手方となるように勧誘すること。
二 売春の相手方となるように勧誘するため、道路その他公共の場所で、人の身辺に立ちふさがり、又はつきまとうこと。
三 公衆の目に触れるような方法で客待ちをし、又は広告その他これに類似する方法により人を売春の相手方となるように誘引すること。
SNSなどインターネット上での募集行為は、このうち第5条第1号の「公衆の目に触れるような方法で、人を売春の相手方となるように勧誘すること」に該当する可能性があります。
1-2. 成立要件(構成要件)の具体的な検討
- ① 「公衆の目にふれるような方法」 これは、不特定または多数の人が認識できる方法を指します。鍵をかけていないSNSアカウントでの投稿、誰でも閲覧できるインターネット掲示板への書き込み、マッチングアプリのプロフィール欄への記載などは、この「公衆の目に触れるような方法」に該当する可能性があります。
- ② 「売春の相手方となるように」 「売春」の定義は、同法第2条に定められており、「売春とは、対償を受け、又は受ける約束で、不特定の相手方と性交すること」とされています。したがって、「金銭(対償)を受け取る約束で、不特定の相手と性交する」ことを目的としている必要があります。ここでいう「不特定の相手方」とは、募集の段階で相手が特定されておらず、広く一般から相手を探している状態を指すため、SNS上での募集はこれに合致する可能性が高いです。
- ③ 「勧誘する」 勧誘とは、相手方に働きかけて、売春の相手方となるよう誘う行為です。 SNS上の投稿では、「セックス」や「売春」といった直接的な言葉が使われることは稀です。しかし、「お手当」「サポート」「援助」といった金銭の授受を示唆する言葉と、「大人の関係」「体の関係」「割り切ったお付き合い」といった性的な関係を示唆する言葉が組み合わせて用いられている場合、社会通念上、それは金銭を対価とする性交の相手方を求める意思表示であると解釈され、「勧誘」行為と認定される可能性は十分にあります。また、仮に「勧誘」とまではいえないと判断されるような場合でも、「客待ち」「誘引」をしていると判断される場合、売春防止法第5条第3号に該当する可能性があります。
1-3. 刑罰
上記の要件を満たすと判断された場合、売春防止法第5条に基づき、6月以下の拘禁刑または2万円以下の罰金が科されることになります。
たとえ実際に誰かと会ったり、金銭を受け取ったりしていなくても、募集投稿を行った時点で犯罪が成立しうるという点に、注意が必要です。
投稿者が18歳未満の場合に成立する犯罪
本題からは少しずれますが、投稿者が18歳未満の児童であった場合、勧誘に応じた側に重い刑罰が適用される可能性があります。
これは、児童を性的な搾取から保護するという、児童買春、児童ポルノに係る行為等の規制及び処罰並びに児童の保護等に関する法律(通称:児童買春・児童ポルノ禁止法)に基づくものです。
2-1. 児童買春・児童ポルノ禁止法違反
売春防止法では、売買春を禁止しつつも罰則は定められていません。
しかし、児童買春・児童ポルノ禁止法では、児童買春そのものについても罰則が定められています。
児童買春・児童ポルノ禁止法第5条
児童買春をした者は、五年以下の拘禁刑又は三百万円以下の罰金に処する。
そのため、募集に応じて児童買春をした場合、5年以下の拘禁刑または300万円以下の罰金という重い刑罰を科される可能性があります。
2-2. 児童福祉法違反
児童福祉法は、児童の健全な育成を目的とする法律であり、児童の心身に有害な影響を与える行為を禁止しています。
児童福祉法 第34条第1項
何人も、次に掲げる行為をしてはならない。
(中略) 六 児童に淫行をさせる行為 (以下略)
児童福祉法 第60条第1項
第三十四条第一項第六号の規定に違反したときは、当該違反行為をした者は、十年以下の拘禁刑若しくは三百万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する。
「淫行」とは、児童の心身の健全な育成を阻害するおそれがあると認められる性交又はこれに準ずる性交類似行為をいい、「させる行為」とは、直接たると間接たるとを問わず児童に対して事実上の影響力を及ぼして児童が淫行をなすことを助長し促進する行為を指します(最決平成28年6月21日)。
そして、これは、パパ活募集に応じて児童に自身を相手に性交させることで成立する可能性があるため、児童と淫行をしたと判断された場合、10年以下の拘禁刑もしくは300万円以下の罰金という重い刑罰を科されることになります。
おわりに
売春防止法で禁止されている「勧誘」等は、たとえ性的な行為が実際に行われなかったとしても、「募集投稿」という行為そのものが犯罪を構成しうるという点が、重要なポイントです。
もし、ご自身が過去にこのような投稿をしてしまい、法的な責任を問われるのではないかと不安に感じている場合、あるいはご家族が警察から連絡を受けるなどして事態が発覚した場合には、一人で抱え込まず、速やかに刑事事件に精通した弁護士に相談することが不可欠です。
早期の対応が、その後の処分の内容を大きく左右する可能性があります。
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