年収2000万円を超える場合の養育費・婚姻費用の算定方法|高収入者の計算と実務

目次

【この記事の結論・要約】

  1. 年収2000万円超の場合、算定表の上限で「頭打ち」にするか、収入に応じて「増額」するかで判断が分かれます。
  2. 養育費は「頭打ち」とされる傾向がある一方、婚姻費用は「増額(貯蓄率等を控除して計算)」される傾向にあります。
  3. 高額所得者の場合、基礎収入割合の修正など専門的な計算が必要になるため、弁護士への相談が不可欠です。

はじめに

離婚協議や別居中の生活費分担において、実務上広く使われているのが「養育費・婚姻費用算定表」です。

しかし、この算定表には「上限」が設定されています。 医師や経営者など、上限を超える高額所得者の場合、表を見るだけでは適正額がわかりません。

「年収3000万円なら、いくら払うべきなのか」 「相手が年収5000万円なのに、20万円しか払わないと言っている」

このようなケースでは、特別な計算式を用いて金額を算出する必要があります。

本稿では、算定表の上限を超える高収入者の養育費・婚姻費用の計算方法について、基礎収入割合の修正貯蓄率の控除といった実務上の考え方を、裁判例の傾向とともに解説します。

1.養育費・婚姻費用の算定表とは

まずは、計算の基礎となる「算定表」の仕組みと、その限界について確認します。

1-1. 標準算定方式と算定表

家庭裁判所の実務では、「標準算定方式」という計算式に基づいて作成された「算定表」が利用されています。

標準算定方式の流れは以下の通りです。

  1. 総収入の確定:源泉徴収票などの額面年収。
  2. 基礎収入の算出:総収入から税金や経費を引き、生活費に回せるお金を出す。
  3. 生活費の配分:親と子の「生活費指数」に応じて分ける。

1-2. 算定表の上限(2000万円・1567万円)について

算定表の年収目盛りは、以下の金額でストップしています。

  • 給与所得者(会社員・医師など):年収2000万円
  • 自営業者(事業所得者):年収1567万円

これを超える収入がある場合、「算定表の枠外」となります。 統計データの不足などが理由とされていますが、枠外だからといって請求できないわけではありません。

この場合、どのように計算するかが大きな争点となります。

2.算定表を超える高収入者の養育費の計算方法

養育費については、親の年収が2000万円を超えた場合、主に2つの考え方が対立しています。

1-1. 【考え方①】上限で頭打ちとする説

一つ目は、「年収がいくら高くても、算定表の上限(2000万円)で計算する」という考え方です。

  • 理由: 子供が自立するために必要な費用には限度があるため。親が超高収入だからといって、子供の生活費が青天井に増えるわけではない、と考えます。
  • 計算結果: 年収5000万円であっても、「年収2000万円」として扱い、算定表の上限額をそのまま適用します。

1-2. 【考え方②】収入に応じて増額する説

二つ目は、「上限で切らず、実際の収入に応じて計算式を延長する」という考え方です。

  • 理由: 親には、自分と同等の生活を子供にさせる「生活保持義務」があるため。親が富裕であれば、子供もその恩恵(高い教育水準など)を受けるべきだと考えます。

1-2-1. 基礎収入割合を修正する方法

ただし、単純に計算式を延長すると金額が高くなりすぎることがあります。年収が上がると、税金の負担が増える一方で、「貯蓄」に回るお金も増えるからです。

そのため、標準的な計算式(基礎収入割合)をそのまま使うのではなく、「割合を修正する(下げる)」調整が行われます。

1-2-1. 貯蓄率を控除する方法

高額所得者の実態に合わせるため、「貯蓄率」を差し引く計算方法も有力です。

  • 計算式のイメージ: 総収入 - 税金等 - 経費 - 【貯蓄分】 = 基礎収入

平均的な貯蓄率を考慮して基礎収入を算出することで、より実態に即した金額を導き出します。

3.算定表を超える高収入者の婚姻費用の計算方法

次に、婚姻費用(別居中の生活費)の場合です。
ここには配偶者(妻・夫)の生活費も含まれるため、養育費とは判断が異なります。

2-1. 養育費との違い

養育費では「子供に贅沢は不要(頭打ち説)」が通じやすいですが、婚姻費用ではそうはいきません。

配偶者には、相手方と「同等の生活レベル」を送る権利があります(生活保持義務)。
夫が年収5000万円の生活をしているのに、妻だけ年収2000万円水準に制限されるのは不公平だからです。

2-2. 婚姻費用は増額される傾向

そのため、婚姻費用の算定においては、「頭打ちにせず、収入に応じて増額する」考え方が採用されやすい傾向にあります。

もちろん、この場合でも単純な延長ではなく、以下の調整を行うのが一般的です。

  • 基礎収入割合の修正
  • 貯蓄率の控除

これにより、上限を超えた部分についても、一定の割合で生活費を分担することになります。

4.実務の傾向

実務では、どのように判断されているのでしょうか。

4-1. 養育費は頭打ちが多数

これまでの傾向として、養育費については「上限で頭打ち」とする判断が多く見られます。
特別な事情がない限り、年収2000万円家庭の水準で十分とされることが多いです。

ただし、以下のような場合は例外的に増額(加算)されることがあります。

  • 医学部への進学:両親が医師である場合など。
  • 私立学校の学費:高額な教育費がかかる場合。
  • 特別な医療費:障害や持病のケアが必要な場合。

4-2. 婚姻費用は計算方法が修正される傾向

一方、婚姻費用については「上限で頭打ちにしない(修正して計算する)」裁判例もあります。

東京高裁などの決定でも、事案に応じて計算方法を修正しつつ支払いを命じた事例があります。

  • 東京高裁平成28年9月14日決定(判タ1436・113) :義務者の給与収入が約3,900万円であり、算定表の上限2,000万円を相当程度上回っていた事案で、「標準算定表の義務者の年収の上限額2000万円を大幅に超えていることに鑑み,抗告人の基礎収入を算定するに当たっては,税金及び社会保険料の実額を控除し,さらに,職業費,特別経費及び貯蓄分を控除すべきである」と判断しました。
  • 東京高裁平成29年12月15日決定(判タ1457・101):義務者の年収が1億5,000万円を超えており、標準算定方式を応用すること自体が困難であるとして、同居中の生活水準および生活費の支出状況別居開始後の権利者(妻)の生活水準および生活費の支出状況別居により家計が二つになることで生じる重複的な支出婚姻費用は生活費であり、同居中の贅沢な生活をそのまま保障するものではないこと、などを総合的に判断しました。

高収入者側は、この傾向を踏まえた資金計画が必要です。

5.【ケース別】年収3000万・4000万の場合の目安

基礎収入割合を修正する方法に基づく目安です。 ※個別の事情により大きく異なります。

5-1. ケースA:夫(会社員)年収3000万円、妻なし、子1人(10歳)

  • 算定表の上限(2000万): 婚姻費用は月38万円〜40万円程度。
  • 実収入ベース(3000万): 調整計算を行うと、月50万円〜60万円程度になる可能性があります。

養育費のみの場合は、頭打ち説により月25万円程度となるか、教育費加算で増額されるかが争点となります。

5-2. ケースB:夫(経営者)年収5000万円、妻なし、子2人(10歳、12歳)

  • 算定表の上限(2000万): 婚姻費用は月42~44万円前後。
  • 実収入ベース(5000万): 再計算すると、月80万円〜90万円以上となる可能性があります。

経営者の場合、役員報酬だけでなく、経費計上している私的支出(社用車など)を収入に加算する「実質的所得」の議論も発生します。

6.高収入者の離婚で弁護士に相談すべき理由

年収2000万円を超えるケースは、専門的な知識がないと適正額の算出が困難です。

6-1. 算定方法で金額が激変する

「頭打ち説」か「増額説(貯蓄率控除)」かによって、月額で数十万円、総額で数千万円の差が出ます。
ご自身の立場(払う側・貰う側)に有利な計算方法を、論理的に主張する必要があります。

6-2. 「総収入」の特定が難しい

経営者や自営業者の場合、確定申告書の数字がそのまま採用されるとは限りません。
節税対策としての経費を収入とみなす主張や、逆に事業に必要な経費であることを立証する作業には、高度な専門知識が求められます。

6-3. 財産分与も複雑化する

高収入者の場合、退職金、株式(自社株評価)、不動産など、財産分与の額も巨額になります。
婚姻費用と財産分与をトータルで考え、税務面も考慮した最適な解決策を提案できるのは、経験豊富な弁護士だけです。

おわりに

年収2000万円(自営業1567万円)を超える高収入者の養育費・婚姻費用には、算定表という「正解」が載っていません。

  • 養育費:頭打ちになる傾向があるが、学費等で増額の余地あり。
  • 婚姻費用:実収入に応じて増額される傾向が強い。

安易に相手の提示額で合意してしまうと、将来的に大きな不利益を被るリスクがあります。
適正な金額を知り、納得のいく解決を図るために、まずは弁護士にご相談ください。

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この記事を書いた人

髙田法律事務所の弁護士。東京弁護士会所属 登録番号60427
インターネットの誹謗中傷や離婚、債権回収、刑事事件やその他、様々な事件の解決に携わっている。
最新のビジネスや法改正等についても日々研究を重ねている。

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