家族が逮捕された方へ|保釈は認められる?弁護士が保釈の要件(権利保釈・裁量保釈)を解説

目次

はじめに

刑事事件で起訴された後、被告人が裁判所の許可を得て、一定の条件下で一時的に身体拘束から解放される制度が「保釈」です。
逮捕・勾留によって長期間身柄を拘束されることは、被告人本人だけでなく、その家族の社会生活にも多大な影響を及ぼします。
そのため、裁判を受ける権利を実質的に保障し、防御活動を十分に行うためにも、保釈制度は極めて重要な意味を持ちます。

しかし、保釈は常に認められるわけではありません。
日本の刑事訴訟法は、保釈を認めるための要件や、逆に保釈が認められない場合の条件を具体的に定めています。
「どのような場合に保釈が認められるのか」「保釈が却下されるのはどのような事情があるときか」を理解することは、被告人やその家族が今後の手続きの見通しを立てる上で不可欠です。

本稿では、保釈が認められるための法的な要件、特に「権利保釈(必要的保釈)」とその除外事由、そして「裁量保釈」について、刑事訴訟法の規定と実務的な運用を踏まえ、解説します。

保釈制度の基本原則と種類

1-1. 保釈の目的

保釈制度の主な目的は、以下の二つの要請を調和させる点にあります。

  1. 被告人の権利保護:
    • 無罪推定の原則: 刑事裁判で有罪判決が確定するまで、被告人は無罪と推定されます。この原則に基づき、不必要な身体拘束は避けるべきとされています。
    • 防御権の保障: 身体拘束下では、弁護人との十分な打ち合わせや証拠収集活動が困難になることがあります。保釈によって社会生活に戻ることで、被告人は裁判に向けた防御準備をより効果的に行うことができます。
    • 社会生活の維持: 長期間の身体拘束は、失職や家庭関係の破綻など、被告人の社会生活に回復困難な損害を与える可能性があります。保釈は、こうした不利益を最小限に抑える役割も担います。
  2. 刑事手続きの適正な進行の確保:
    • 出頭の確保: 被告人が裁判所の公判期日に必ず出頭することを担保する必要があります。
    • 証拠隠滅の防止: 被告人が証拠を隠したり、関係者を脅迫したりすることを防ぐ必要があります。

保釈の許否や条件(特に保釈保証金の額)は、これら被告人の権利保護と刑事手続きの適正な進行という二つの要請のバランスを考慮して決定されます。

1-2. 保釈の種類

日本の刑事訴訟法では、保釈は主に3つの種類に分類されます。

  • ① 権利保釈(必要的保釈): 法律が定める一定の例外(除外事由)に該当しない限り、裁判所が原則として許可しなければならない保釈です(刑事訴訟法第89条)。被告人の権利としての側面が最も強い保釈類型です。
  • ② 裁量保釈: 権利保釈の除外事由に該当するために権利保釈が認められない場合でも、裁判所が諸般の事情を考慮して「保釈することが適当である」と裁量で判断した場合に許可される保釈です(刑事訴訟法第90条)。実務上、多くの事案はこの裁量保釈によって許可されています。
  • ③ 義務的保釈: 勾留による拘禁が不当に長くなった場合に、裁判所が必ず許可しなければならない保釈です(刑事訴訟法第91条)。実務上、この規定によって保釈が認められるケースは稀です。

以下では、実務上最も重要な「権利保釈」と「裁量保釈」の要件について詳しく見ていきます。

権利保釈(必要的保釈)の要件とその除外事由

権利保釈は、被告人からの保釈請求があった場合、裁判所が原則として許可しなければならない保釈です。
ただし、刑事訴訟法第89条は、権利保釈を認めない「除外事由」を6つ定めており、これらのいずれかに該当すると裁判所が判断した場合には、権利保釈は認められません。

刑事訴訟法 第89条(権利保釈)

保釈の請求があつたときは、次の場合を除いては、これを許さなければならない。
一 被告人が死刑又は無期若しくは短期一年以上の拘禁刑に当たる罪を犯したものであるとき。
二 被告人が前に死刑又は無期若しくは長期十年を超える拘禁刑に当たる罪につき有罪の宣告を受けたことがあるとき。
三 被告人が常習として長期三年以上の拘禁刑に当たる罪を犯したものであるとき。
四 被告人が罪証を隠滅すると疑うに足りる相当な理由があるとき。
五 被告人が、被害者その他事件の審判に必要な知識を有すると認められる者若しくはその親族の身体若しくは財産に害を加え又はこれらの者を畏怖させる行為をすると疑うに足りる相当な理由があるとき。
六 被告人の氏名又は住居が分からないとき。

権利保釈が認められるためには、被告人がこれらの除外事由のいずれにも該当しないことが必要です。
逆に言えば、検察官は、保釈を阻止するために、被告人がこれらのいずれかに該当すると主張します。

以下、各除外事由の内容を具体的に解説します。

2-1. 重大な罪に関するもの(第1号)

一 被告人が死刑又は無期若しくは短期一年以上の拘禁刑に当たる罪を犯したものであるとき。

起訴されている罪(公訴事実)の法定刑が、

  • 死刑
  • 無期懲役・禁錮
  • 短期(下限)が1年以上の拘禁刑

のいずれかに該当する場合です。
法定刑の下限が1年以上と定められている罪は、例えば殺人罪(5年以上)、強盗罪(5年以上)、現住建造物等放火罪(5年以上)などの重大な犯罪です。

2-2. 重大な前科に関するもの(第2号)

二 被告人が前に死刑又は無期若しくは長期十年を超える拘禁刑に当たる罪につき有罪の宣告を受けたことがあるとき。

被告人に、過去に死刑、無期懲役・禁錮、または長期(上限)が10年を超える拘禁刑にあたる罪(例えば殺人罪、強盗罪など)で有罪判決(執行猶予を含む)を受けた前科がある場合です。

2-3. 常習性に関するもの(第3号)

三 被告人が常習として長期三年以上の拘禁刑に当たる罪を犯したものであるとき。

被告人が、常習的に、長期(上限)が3年以上の懲役・禁錮にあたる罪(窃盗罪、傷害罪など多くの犯罪が該当します)を犯した場合です。
「常習として」とは、同種の犯罪を反復継続して行う癖があることを意味し、多数の同種前科がある場合に認定されやすくなります。

2-4. 罪証隠滅のおそれ(第4号)

四 被告人が罪証を隠滅すると疑うに足りる相当な理由があるとき。

これが、実務上、権利保釈が除外される最も一般的な理由です。「罪証隠滅」とは、事件に関する証拠を隠したり、壊したり、偽造・変造したりする行為全般を指します。
重要なのは、単なる抽象的な可能性ではなく「疑うに足りる相当な理由」が必要とされる点です。
裁判所は、以下のような事情を具体的に考慮して、罪証隠滅の現実的な危険性が高いか否かを判断します。

  • 被告人の認否: 容疑を否認している場合は、自身に不利な証拠を隠滅しようとする動機が強いと評価され、この除外事由に該当すると判断されやすくなります。
  • 共犯者の存在: 共犯者がいる場合、保釈されると口裏合わせを行う危険性が高いと判断されます。特に、まだ逮捕されていない共犯者がいる場合は、その者と連絡を取るおそれが強いとされます。
  • 証人の存在と関係性: 事件の目撃者や被害者など、重要な証人が存在する場合、被告人がこれらの人々に接触し、威圧したり懐柔したりして、供述を変えさせようとするおそれがないかが検討されます。被害者との関係が密接(家族、同僚など)な場合、その危険性は高いと判断されやすいです。
  • 証拠の性質: 重要な証拠が、まだ捜査機関によって十分に確保されておらず、被告人の管理下にある場合(例:自宅にある犯行道具、パソコン内のデータなど)、それを隠滅するおそれがあると判断されます。
  • 捜査の進捗状況: 既に主要な証拠が押収され、関係者の供述も固まっているなど、捜査が進展し、隠滅すべき証拠が少なくなっている状況であれば、罪証隠滅のおそれは低いと評価されます。

弁護人は、これらの点について、罪証隠滅の具体的な危険性が低いことを、被告人の供述態度や家族の監督体制などを挙げて主張していくことになります。

2-5. 被害者・証人等への加害・畏怖させる行為のおそれ(第5号)

五 被告人が、被害者その他事件の審判に必要な知識を有すると認められる者若しくはその親族の身体若しくは財産に害を加え又はこれらの者を畏怖させる行為をすると疑うに足りる相当な理由があるとき。

被告人が、被害者、目撃者、あるいはそれらの親族に対して、身体的な危害(暴行など)、財産的な損害(器物損壊など)を加える、または脅迫や嫌がらせによって怖がらせる(畏怖させる)可能性があると疑うに足りる相当な理由がある場合です。
DV事案や、暴力団関係者が関与する事件などで、この除外事由が問題となることがあります。
過去の言動や、当事者間の関係性から、具体的な加害行為や脅迫行為が行われる現実的な危険性が判断されます。

2-6. 氏名・住居不明(第6号)

六 被告人の氏名又は住居が分からないとき。

これは、起訴された被告人の身元が不明であるという例外的なケースです。
通常、起訴段階で被告人の氏名や住居が不明であることは稀です。

裁量保釈の要件

権利保釈の除外事由(第89条各号)のいずれかに該当すると判断され、権利保釈が認められない場合でも、諦める必要はありません。
裁判所は、次に「裁量保釈」の可能性を検討します。

3-1. 刑事訴訟法第90条の規定

裁量保釈は、刑事訴訟法第90条に定められています。

刑事訴訟法 第90条(裁量保釈)

裁判所は、保釈された場合に被告人が逃亡し又は罪証を隠滅するおそれの程度のほか、身体の拘束の継続により被告人が受ける健康上、経済上、社会生活上又は防御の準備上の不利益の程度その他の事情を考慮し、適当と認めるときは、職権で保釈を許すことができる。

この条文は、権利保釈が認められない場合でも、裁判所が諸般の事情を総合的に考慮して、「保釈することが適当である」と判断すれば、その裁量によって保釈を許可できることを定めています。

3-2. 裁量保釈で考慮される事情

裁判所が裁量保釈の可否を判断する際に考慮する主な事情は以下の通りです。

  • ① 逃亡または罪証隠滅のおそれの「程度」: 権利保釈の除外事由として検討された「逃亡のおそれ」や「罪証隠滅のおそれ」が、どの程度高いのかを改めて評価します。権利保釈を除外するほどの「相当な理由」はあるものの、その蓋然性(確からしさ)がそれほど高くない、あるいは保釈条件(住居制限、接触禁止など)を付すことで十分にリスクを低減できると判断されれば、裁量保釈が認められる方向に働きます。
  • ② 身体拘束の継続による被告人の不利益の程度: 身体拘束が続くことによって、被告人が被る具体的な不利益の大きさが考慮されます。
    • 健康上の不利益: 持病の悪化、必要な治療が受けられない、精神的な不調など。
    • 経済上の不利益: 失職、事業の倒産、収入の途絶による家族の困窮など。
    • 社会生活上の不利益: 家庭関係の破綻、就学機会の喪失、社会的信用の失墜など。
    • 防御準備上の不利益: 弁護人との十分な打ち合わせができない、証拠収集が困難など。これらの不利益が大きく、身体拘束を継続することが被告人にとって酷であると認められるほど、裁量保釈は許可されやすくなります。
  • ③ その他の事情:
    • 事件の性質・重大性: 権利保釈の除外事由(第89条1号~3号)に該当するような重大事件や常習犯の場合は、裁量保釈も認められにくい傾向にあります。
    • 被告人の反省の程度: 深く反省し、更生の意欲を示していること。
    • 被害弁償・示談の状況: 被害者への謝罪や金銭的な賠償が進んでいること。
    • 身元引受人の存在: 家族などが身元引受人となり、被告人の監督を誓約していること。
    • 保釈保証金の準備状況: 適切な額の保釈保証金が準備されていること。

3-3. 裁量保釈における裁判所の判断

裁量保釈は、文字通り裁判官の裁量に委ねられていますが、無限定なものではありません。
裁判所は、上記の諸事情を総合的に比較衡量し、身体拘束を継続する必要性(逃亡・罪証隠滅のリスク)と、保釈によって被告人が受ける利益および不利益の回避とを天秤にかけ、後者が優越すると判断した場合に、裁量保釈を許可します。
実務上、権利保釈の除外事由(特に罪証隠滅のおそれ)に該当するとされても、十分な保釈保証金の納付や、厳格な保釈条件(住居制限、関係者との接触禁止など)を付すことを前提に、この裁量保釈が認められるケースは数多く存在します。

保釈許可のための重要な要素

権利保釈であれ、裁量保釈であれ、保釈許可を得るためには、その前提としていくつかの重要な要素が整っている必要があります。

4-1. 保釈保証金(保釈金)の準備

保釈が許可される際には、ほぼ例外なく、保釈保証金(保釈金)の納付が条件となります(刑事訴訟法第93条)。
これは、被告人の出頭を確保するための担保であり、金額は事件の重大性や被告人の資力などを考慮して、裁判官が個別に決定します。
場合によっては、被告人側から、適正だと考える保釈金の金額を提示することもあります。
ただし、裁判所は、その提示額に拘束されるわけではありませんので、提示額よりも高い金額で決定されることもあります。

保釈金の金額については、以下のコラムも参考にしてください。

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4-2. 身元引受人の確保

被告人が保釈中に逃亡したり、証拠隠滅を行ったりしないよう監督し、裁判所への出頭を確保する役割を担う身元引受人の存在は、保釈許可を得る上で非常に重要です。
通常、被告人の親、配偶者、兄弟、雇用主などが身元引受人となり、裁判所に対して被告人の監督を誓約する書面(身元引受書)を提出します。

4-3. 保釈中の住居の確保

保釈後の住居が定まっていることも重要です。
多くの場合、保釈条件として住居が指定され、裁判所の許可なくその場所を離れることが禁止されます。
そのため、身元引受人の自宅などを保釈中の住居として確保しておく必要があります。

外泊にも制限があり、例えば、「海外旅行又は3日以上の旅行をする場合には、前もって、裁判所に申し出て、許可を受けなければならない。」などの条件が付されることもあります。

おわりに

保釈は、起訴後の被告人にとって、身体の自由を取り戻し、社会生活を維持しながら裁判に臨むための重要な権利と機会です。
刑事訴訟法では、まず権利保釈として、一定の除外事由に該当しない限り原則として保釈を認めるとしています。
実務上、争点となりやすいのは「罪証隠滅のおそれ」の有無であり、弁護人はこの点の具体的な危険性が低いことを主張していくことになります。

仮に権利保釈の除外事由に該当すると判断された場合でも、裁量保釈の可能性があります。
裁判所は、逃亡・罪証隠滅のリスクの程度と、身体拘束継続による被告人の不利益の大きさなどを比較衡量し、保釈の可否を判断します。
この段階では、十分な保釈保証金の準備、確実な身元引受人の確保、そして遵守可能な保釈条件の提案などが、許可を得るための重要な要素となります。

保釈請求の手続きや、裁判所に対する説得的な主張・立証活動は、専門的な知識と経験を要します。
ご自身やご家族が起訴され、保釈を希望される場合には、速やかに刑事弁護に精通した弁護士に相談し、適切なサポートを受けながら手続きを進めることが、早期の身柄解放を実現するための鍵となります。

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この記事を書いた人

髙田法律事務所の弁護士。
インターネットの誹謗中傷や離婚、債権回収、刑事事件やその他、様々な事件の解決に携わっている。
最新のビジネスや法改正等についても日々研究を重ねている。

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