【この記事の結論・要約】
- 不動産明渡しの強制執行とは、裁判所の判決等に基づき、公権力によって強制的に占有を排除する最終手段です。
- 「鍵を勝手に変える」「荷物を出す」といった自力救済は違法であり、必ず法的手続きを踏む必要があります。
- 解決までには、争いの少ない事案の場合、一般的に6ヶ月程度の期間と、数十万円単位の予納金や運搬費用が必要になります。
はじめに
賃貸経営や不動産管理において、頭を悩ませる問題の一つが「立ち退き」です。
例えば、家賃を滞納している入居者に対し、何度督促しても支払われず、退去の勧告にも応じない場合に、オーナーが自ら鍵を交換したり荷物を処分したりすることは、「自力救済の禁止」のため、逆に損害賠償を請求されるリスクがあります。
法的に正当な形で不動産を取り戻すためには、裁判所を通じた「強制執行」の手続きが不可欠です。
本記事では、強制執行の具体的な流れ、かかる費用、そして手続きをスムーズに進めるためのポイントを徹底解説します。
第1章:不動産明渡しの強制執行とは?
1-1. 強制執行の定義
不動産明渡しの強制執行とは、不動産の所有者(賃貸人など)の権利を実現するために、国家権力(裁判所執行官)が強制的に占有者(賃借人など)を退去させ、建物を空け渡させる手続きを指します。
民事執行法に基づき、判決などの「債務名義」がある場合にのみ実施可能です。
1-2. 自力救済はなぜ厳禁なのか
日本の法律では、たとえ相手が家賃を滞納していても、裁判所を通さずに力ずくで権利を取り戻す行為(自力救済)を認めていません。
- リスク1: 鍵の無断交換や荷物の搬出は、住居侵入罪や窃盗罪に問われる可能性がある。
- リスク2: 入居者から慰謝料請求や損害賠償請求(不法行為責任)を提起される。
そのため、家賃を滞納している入居者を退去させるためには、必ず法に則って手続きを進める必要があります。
第2章:強制執行を行うための前提条件
2-1. 債務名義の取得
強制執行を申し立てるには、まず「債務名義」を手に入れる必要があります。
これには主に以下の3つがあります。
- 確定判決: 建物明渡し請求訴訟を行い、勝訴して確定したもの。
- 和解調書: 裁判上の和解で、相手が「〇月〇日までに退去する」と約束したもの。
- 執行受諾文言付公正証書: 賃貸借契約時に作成された、強制執行を認める内容の公証役場書類(※実務上、明渡しについては判決が必要なケースが多い)。
2-2. 執行文の付与と送達証明
債務名義があるだけでは足りません。
裁判所の書記官から「執行文」を付与してもらい、さらに相手方に判決書が届いたことを証明する「送達証明書」を取得する必要があります。
第3章:強制執行の具体的な流れ・手続き
強制執行は、大きくは、「申立て」「催告」「断行」の3段階で進みます。
3-1. 強制執行の申立て
管轄の裁判所の執行官室に対し、申立てを行います。
この際、裁判所に収める「予納金」が必要です。
予納金の金額は、東京地方裁判所では6万5000円(債務者や物件の数によって加算されます)ですが、裁判所によって金額が異なるため、実務上は、事前に裁判所の書記官に確認するなどした上で申し立てをします。
3-2. 明渡しの催告
申立てから1〜2週間後、執行官、立会人、鍵屋、そして賃貸人と共に現地へ赴きます。
これを「明渡しの催告」と呼びます。
- 目的: 占有者に対し、「〇月〇日までに退去せよ」(約1か月後)という最終通告をすること。
- 公示: 部屋の目立つ場所に「引渡期限」を記した公示書を貼り付けます。
- 状況確認: 執行官が室内の荷物量を確認し、最終的な「断行(強制撤去)」に必要な人数やトラックの台数を見積もります。
この催告の段階で、相手が「本当に追い出される」と悟り、自主的に退去することも少なくありません。
3-3. 明渡しの断行
催告で指定された期限(約1ヶ月後)を過ぎても居座っている場合、「断行」が実施されます。
- 強制搬出: 執行官の指揮のもと、搬出業者が室内の荷物をすべて運び出します。
- 保管と処分: 運び出した荷物は倉庫へ一時保管されますが、価値がないものはその場で廃棄、または後日売却・処分されます。
- 鍵の交換: 荷物を出し切った後、鍵を交換し、建物が賃貸人に引き渡されたことを宣言して完了です。
第4章:強制執行にかかる費用と期間の目安
強制執行は、精神的な負担だけでなく金銭的な負担も大きい手続きです。
4-1. 費用内訳の早見表
以下は、あくまでも目安です。
実際の費用は、事案ごとに大きく異なります。
| 項目 | 概算費用 | 備考 |
| 裁判所予納金 | 6万円 〜 10万円 | 執行官の手数料や交通費 |
| 搬出作業費用 | 20万円 〜 100万円以上 | 荷物の量、部屋の広さに比例 |
| 鍵代・解錠費用 | 2万円 〜 5万円 | 鍵が開かない場合の強制解錠 |
| 保管・処分費用 | 10万円 〜 30万円 | 一時保管倉庫の利用料など |
※荷物が多い(ゴミ屋敷状態など)場合、作業員が増えるため費用が跳ね上がります。
4-2. 期間のスケジュール
- 訴訟提起〜判決取得: (争いのない事案の場合)約2ヶ月〜4ヶ月
- 強制執行申立て〜催告: 約2週間〜3週間
- 催告〜断行(猶予期間): 約1ヶ月
- 合計期間: 約4ヶ月〜6ヶ月程度
上記は、賃料を長期間滞納しているような、賃貸借契約の解除にほとんど争いのないケースを想定しています。
賃貸借契約の解除に争いがある場合、判決取得だけで数年かかるケースもあります。
第5章:失敗しないためのポイント
5-1. 占有移転禁止の仮処分
裁判中に相手が勝手に他人に部屋を貸したり、同居させたりすると、せっかくの判決が無効になる(別の人には強制執行できない)恐れがあります。
これを防ぐために、あらかじめ「占有移転禁止の仮処分」という手続きを打っておくことが重要です。
5-2. 相手方との交渉
強制執行の「断行」まで至ると費用が膨大になります。
催告の段階で相手方と交渉し、「断行まで行くと荷物の保管費用等もすべて請求することになる」と伝え、自主的な退去を促します。
おわりに
不動産明渡しの強制執行は、オーナーにとって「最後の手段」です。
時間も費用もかかりますが、放置すれば滞納額は増え続け、物件の資産価値も損なわれてしまいます。
「家賃を払ってくれない」「退去勧告を無視される」とお悩みの方は、被害が拡大する前に、まずは弁護士へご相談ください。
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