はじめに
「スマホ一つで、いつでもどこでもラスベガスの興奮を」
「今なら登録ボーナス〇〇ドルプレゼント!」
インターネットやSNSを閲覧していると、このような華やかな広告に誘うオンラインカジノの存在が、日常に深く浸透してきていることに気づきます。
有名インフルエンサーがプレイを公言したり、「海外政府のライセンスを取得した合法的な運営」「日本でプレイしても違法ではない」といった情報がまことしやかに囁かれたりすることで、多くの人が「オンラインカジノは合法的な、新しいエンターテインメントなのだろう」と誤解してしまっている方が多くいました。
結論から先に申し上げると、日本国内から、海外で運営されているオンラインカジノにアクセスして金銭を賭ける行為は、現在の日本の法律上、犯罪(賭博罪)に該当します。
最近では、芸能人やスポーツ選手がオンラインカジノを利用していたことで書類送検されたことが報道されています。
本稿では、オンラインカジノが刑法上どのように取り扱われるのかなどについて解説いたします。
賭博罪について
まず、なぜオンラインカジノが犯罪とされるのか、その根拠となる日本の法律を確認しましょう。
1.刑法が禁じる「賭博」とは
日本の刑法は、公営競技など一部の例外を除き、金銭や財産を賭けて偶然の勝敗によってその得喪を争う行為を「賭博」として禁止しています。
刑法第185条(賭博)
賭博をした者は、五十万円以下の罰金又は科料に処する。ただし、一時の娯楽に供する物を賭かけたにとどまるときは、この限りでない。
刑法第186条(常習賭博及び賭博場開張等)
1 常習として賭博をした者は、三年以下の拘禁刑に処する。
2 賭博場を開張し、又は博徒を結合して利益を図った者は、三月以上五年以下の拘禁刑に処する。
犯罪としての「賭博」が成立するためには、以下の要素が必要です。
財物または財産上の利益の得喪を争うこと
金銭や品物などを賭けること。
偶然の勝敗によって決定されること
スロット、ルーレット、カードゲームの結果など、当事者の技量だけで左右できない偶然の要素で勝敗が決まること。
双方が危険を負担すること
賭けた金銭などが、勝敗の結果によって一方から他方へ移転するリスクを、当事者双方が負っていること。
「一時の娯楽に供する物を賭けた」にとどまらないこと
その場で飲食物やタバコ(の代金)を賭けるような場合には賭博罪は成立しない。
オンラインカジノは、プレイヤーが入金した金銭をチップに替え、スロットやバカラといった偶然性の高いゲームの結果によって、そのチップが増減(最終的に金銭として出金)する仕組みです。
これは、上記の賭博罪の要素を満たすものです
2.常習賭博罪のリスク
オンラインカジノは、その手軽さから繰り返しプレイしてしまう傾向が強く、単なる賭博罪ではなく、より刑罰の重い「常習賭博罪」が適用される危険性が非常に高いという特徴があります。
「常習性」とは、賭博を反復・継続して行う癖や傾向を指し、過去の賭博罪での検挙歴がなくとも、短期間に多数回のベットを行っている、多額の入出金を繰り返している、といった客観的な事実から常習性が認定される可能性があります。
「海外サイトだから合法」ではない
オンラインカジノを「合法」だと主張する最大の論拠は、「運営会社が海外にあり、その国の政府から正式なライセンスを受けて合法的に運営されているのだから、日本の法律は適用されない」というものです。
一見すると、もっともらしく聞こえますが、この主張は日本の法律の根本原則を無視した、危険な誤解です。
「属地主義」~プレイヤーがどこでプレイしたか~
日本の刑法は、「属地主義(刑法第1条)」を大原則としています。
これは、「犯罪が行われた地が日本国内である限り、犯人の国籍や居住地に関わらず、日本の法律を適用する」という原則です。
オンラインカジノの問題で最も重要なのは、「プレイヤーが賭けを行った場所はどこか」という点です。
あなたが日本の自宅や外出先で、スマートフォンやパソコンを操作してオンラインカジノにベットした瞬間、その「賭けの操作」という犯罪の実行行為は、紛れもなく日本国内で行われています。
サーバーが海外にあろうとも、運営会社が海外にあろうとも、日本国内からオンラインカジノをプレイした場合、その行為は日本の刑罰の対象となります。
これは、海外旅行先のカジノで賭けをすることが、その国の法律で合法とされている限り日本の賭博罪に問われないこととは異なります。
オンラインカジノは、「海外のカジノに、日本からアクセスして賭けている」のであり、行為地は日本なのです。
実際の摘発事例
「理論上は違法でも、実際に逮捕されることなんてないだろう」ということはなく、最近では逮捕される事案が出てきています。
「スマートライブカジノ事件」(2016年)
オンラインカジノのプレイヤーが日本で初めて逮捕されたのが、2016年に摘発された「スマートライブカジノ」事件です。
このカジノは、英国に拠点を置きながらも、日本人ディーラーが日本語でゲームを進行し、日本人向けのイベントを開催するなど、明らかに日本人をターゲットにした運営を行っていました。
京都府警は、プレイヤーの銀行口座の入出金履歴などを基に複数名のプレイヤーを特定し、単純賭博の容疑で逮捕しました。
逮捕されたプレイヤーの多くは、略式起訴という手続きを受け入れ、数十万円の罰金を支払うことで事件を終えました。
しかし、一部のプレイヤーが「処罰は不当だ」として、裁判で争う姿勢を見せました。
最終的に、検察官は争ったプレイヤーを「不起訴処分」としました。
もっとも、不起訴処分となったからといって、オンラインカジノが合法だと判断されたわけではありません。
その後の摘発事例
スマートライブカジノ事件の後も、警察はオンラインカジノプレイヤーの摘発を続けています。
オンラインカジノの決済代行業者と、その業者を利用していた多数のプレイヤーが一斉に検挙されるという大規模な事件も発生しました。
また、2025年には、芸能人のオンラインカジノ利用問題で、メディアでも大々的に報道されました。
政府・警察の公式見解
現在、政府および警察は、国民に対して繰り返し「オンラインカジノは犯罪です」という警告を発しています。
警察庁のウェブサイト(https://www.npa.go.jp/bureau/safetylife/hoan/onlinecasino/onlinecasino.html)や、消費者庁の注意喚起(https://www.caa.go.jp/policies/policy/consumer_policy/caution/caution_030/)、国会答弁など、様々な場面で、「海外で合法的なライセンスを受けているものであっても、日本国内から接続して賭博を行うことは犯罪です」と明言されています。
おわりに
本稿で繰り返し述べてきた通り、オンラインカジノを日本国内からプレイする行為は賭博罪に該当します。
「合法」「グレーゾーン」といった言説は、あなたを犯罪行為に誘い込むための、運営者やアフィリエイターによる無責任かつ虚偽の情報に過ぎません。
警察の捜査技術は日々進化しており、「自分だけは大丈夫」という保証はどこにもありません。
もし、あなたが既に関与してしまい、不安を感じている場合、あるいはご家族が関わっていることを知った場合は、一人で抱え込まず、速やかに弁護士にご相談ください。