【この記事の結論・要約】
- 5ちゃんねるの削除依頼は、メールまたは「削除要請板」から行いますが、公開申請には炎上リスクが伴います。
- 削除されない場合や投稿者を特定したい場合は、裁判所を通じた「仮処分」や「発信者情報開示請求」が必要です。
- プロバイダのログ保存期間(約3ヶ月〜)というタイムリミットがあるため、被害発見後は迅速な対応が不可欠です。
はじめに
日本最大級の匿名掲示板である「5ちゃんねる(旧2ちゃんねる)」。
膨大なスレッドが存在し、日々様々な議論が交わされる一方で、その匿名性の高さから、特定の個人や企業に対する誹謗中傷、プライバシー侵害、根拠のないデマの拡散といった被害が後を絶ちません。
「自分の名前がスレッドタイトルになり、あることないこと書かれている」 「住所や勤務先を晒され、私生活に支障が出ている」 「会社がブラック企業であるという虚偽の事実を書き込まれた」
5ちゃんねるは情報の拡散力が非常に高く、また「まとめサイト(コピーサイト)」に転載されることで、被害が半永久的にインターネット上に残り続ける(デジタルタトゥー化する)リスクがあります。
そのため、被害を発見した場合には、静観するのではなく、迅速に削除や投稿者の特定といった法的措置を講じることが重要です。
しかし、5ちゃんねるは独自の削除ルール(ガイドライン)を持っており、また運営元が海外法人であることなどから、手続きには専門的な知識を要する場面が多々あります。
本稿では、5ちゃんねるでの誹謗中傷被害に遭われた方に向けて、サイトの仕組みや権利侵害の基準、ご自身で行う削除依頼の方法とリスク、そして弁護士を通じて投稿者を特定し損害賠償を請求するまでの一連の流れについて、法的な観点から解説します。
1.5ちゃんねるとは?2ちゃんねるとの違いと被害の特性
対策を講じる前に、対象となるプラットフォームの特性を理解しておく必要があります。
1-1. 2ちゃんねるからの名称変更と運営実態
かつて「2ちゃんねる(2ch.net)」として知られていた掲示板は、運営権の譲渡や分裂騒動を経て、現在は「5ちゃんねる(5ch.net)」という名称で運営されています(※現在「2ちゃんねる(2ch.sc)」として存在するサイトは、5chの内容を転載している別のサイトです)。
現在の5ちゃんねるの運営元は、フィリピンに拠点を置く「Loki Technology, Inc.」という法人です。
運営が海外であるため、法的手続きにおいては、海外法人に対する送達などの専門的な対応が必要となる場合があります。
1-2. 誹謗中傷被害の特徴
5ちゃんねるにおける誹謗中傷には、以下のような特徴があります。
- 匿名性と集団心理:完全に匿名で書き込めるため、攻撃的な投稿がエスカレートしやすく、一人が叩き始めると集団での「炎上」や「私刑(リンチ)」に発展しやすい傾向があります。
- コピーサイトへの拡散:人気のあるスレッドは、アフィリエイト収入を目的とした「まとめブログ」「まとめサイト」に自動的・手動的に転載されます。5ちゃんねる本体の記事を削除しても、これらコピーサイトの記事は消えないため、被害の根絶が難しいという側面があります。
2.5ちゃんねるでの書き込みが「権利侵害」となる基準
削除や開示請求を行うためには、その書き込みが単に「不快である」というだけでなく、法律上またはガイドライン上の「権利侵害」に該当する必要があります 。
2-1. 名誉毀損(めいよきそん)
不特定多数が閲覧できる状態で、具体的な事実を摘示し、社会的評価を低下させる行為です。
- 例:「Aさんは前科持ちだ」「B社は違法な長時間労働を強いている」など。
- たとえ事実であっても、公共の利害に関わらず、公益目的がない場合は名誉毀損が成立する可能性があります。
2-2. 侮辱
具体的な事実を挙げずに、公然と人を侮辱し、社会的評価を低下させる行為です。
- 例:「バカ」「死ね」「ブス」「無能」などの罵詈雑言。
2-3. プライバシー権侵害
私生活上の事実や、一般に知られていない情報を、本人の承諾なくみだりに公開する行為です。
- 例:本名(一般人の場合)、住所、電話番号、顔写真、病歴などの晒し行為。
2-4. 5ちゃんねる独自の削除ガイドライン
5ちゃんねるは、削除判断の基準として「削除ガイドライン」を公開しています。 例えば、以下のようなものは削除対象として明記されています。
- 個人の取り扱い(住所、電話番号、メールアドレスなどの個人情報)
- 差別・蔑視(特定の民族や地域への差別など)
- 荒らし行為
3.自分でできる削除依頼の方法とリスク
5ちゃんねるには、ユーザー自身が削除を要請するためのシステムが存在します。
3-1. メールによる削除依頼
「名誉毀損」や「プライバシー侵害」など、法的な権利侵害が明らかな場合、運営が指定するメールアドレス(meiyokison@5ch.net 等)宛に削除依頼を送付する方法です。
- メリット:非公開で申請できるため、削除依頼をしたこと自体が他人に知られるリスクが低い。
- デメリット:膨大なメールが届いているためか、対応が遅い、あるいは無視されるケースも少なくありません。また、本人確認資料(身分証)の添付が求められます。
3-2. 削除要請板・削除整理板での申請
掲示板上の公開スレッドである「削除要請板」や「削除整理板」に、削除依頼を書き込む方法です。
- 手順:削除ガイドラインに従い、削除対象のURL(レス番号)、削除理由を書き込みます。削除人(ボランティア)がガイドラインに照らして削除可否を判断します。
- 【重要】最大のリスク この方法は、「誰が」「どの書き込みを」「どんな理由で」削除したがっているかが、掲示板上で誰でも見られる状態になります。これにより、「本人が降臨した」「効いてる効いてる」などと面白がられ、さらなる誹謗中傷を招いたり、当該書き込みが拡散されたりする「ストライサンド効果(隠そうとすると余計に広まる現象)」を引き起こすリスクが非常に高いです。そのため、プライバシーに関わる深刻な案件や、炎上中の案件では、この方法の利用は慎重になるべきです。
4.削除されない場合は「弁護士による削除請求」へ
メール依頼が無視され、公開板での申請もリスクが高い場合、弁護士を通じて法的な手続きを行います。
4-1. 裁判所を通じた「削除仮処分」
5ちゃんねるのような匿名掲示板の削除においては、通常の訴訟(裁判)ではなく、より迅速な「仮処分」という手続きを利用するのが一般的です。
裁判所に対し、「この書き込みは違法な権利侵害である」と申し立て、裁判官がそれを認めれば、運営者(Loki Technology, Inc.)に対して「削除命令」が出されます。
5ちゃんねる側は、裁判所の決定には原則として従う傾向にあります。
- 期間:申立てから削除まで、早ければ1〜2ヶ月程度で完了します 。
- 担保金:仮処分を申し立てる際、法務局に担保金(30万〜50万円程度)を供託する必要があります(手続き終了後に返還されます) 。
5.投稿者を特定する「発信者情報開示請求」の手順
「削除だけでは気が済まない」「慰謝料を請求したい」「刑事告訴したい」という場合は、削除と並行して、投稿者を特定する「発信者情報開示請求」を行います 。
特定手続きは、大きく分けて2つの段階を踏みます。
5-1. ステップ1:5ちゃんねる側へのIPアドレス開示請求
まず、5ちゃんねるの運営者に対し、対象の書き込みがなされた際の「IPアドレス」と「タイムスタンプ(投稿日時)」の開示を求めます。
5ちゃんねるは、ユーザーの氏名や住所などの個人情報を保有していません。
保有しているのは通信の記録(ログ)のみであるため、まずはこれを取得します。
通常は、前述の「削除仮処分」と同時に「IPアドレス開示仮処分」を申し立てます。
5-2. ステップ2:アクセスプロバイダ(ISP)の特定
開示されたIPアドレスを調査すると、投稿者が利用したインターネット接続業者(アクセスプロバイダ)が判明します。
- 例:NTTドコモ、KDDI(au)、ソフトバンク、J:COM、So-netなど。
5-3. ステップ3:プロバイダへの契約者情報開示請求
次に、特定したプロバイダに対して、「その日時に、そのIPアドレスを使っていた契約者の氏名・住所・電話番号・メールアドレスを開示せよ」と求めます。
これには原則として「発信者情報開示請求訴訟」(あるいは発信者情報開示命令)という裁判手続きが必要です。
裁判所が「権利侵害が明白である」と認めれば、プロバイダに対して情報の開示を命じる判決が出されます。
6.ログ保存期間とタイムリミット(3ヶ月〜6ヶ月の壁)
発信者情報開示請求において、最大の敵は「時間」です。
6-1. プロバイダのログ保存期間
ステップ2で特定したプロバイダ(携帯キャリアやISP)が、投稿者の通信ログ(「誰がいつどのIPを使ったか」という記録)を保存している期間は非常に短いです 。
- 携帯キャリア(ドコモ、au、ソフトバンク等):約3ヶ月
- 固定回線プロバイダ:約3ヶ月〜6ヶ月程度(一部、長期間保存している事業者もあり)
6-2. ログが消えると手遅れになる
この保存期間を過ぎてしまうと、ログが自動的に消去され、技術的に投稿者を特定することが不可能になります。
特に、ステップ1(5ちゃんねる側への手続き)に時間がかかると、ステップ3(プロバイダへの請求)に進む前にログが消えてしまうリスクがあります。
そのため、誹謗中傷の書き込みを見つけたら、「一刻も早く」弁護士に相談し、手続きに着手する必要があります。
弁護士は、訴訟の前にプロバイダに対して「ログを消さないでほしい」という要請(ログ保存要請)を行い、証拠の保全を図ります。
7.特定後の責任追及(損害賠償・刑事告訴)
無事に投稿者の身元(氏名・住所)が特定された後は、以下の法的措置をとることができます 。
7-1. 民事上の責任追及(損害賠償請求)
特定した投稿者に対し、不法行為に基づく損害賠償を請求します。 請求内容は主に以下の通りです。
- 慰謝料:精神的苦痛に対する賠償。
- 個人の名誉毀損:10万〜50万円程度(場合により100万円以上)
- プライバシー侵害・侮辱:数万〜数十万円程度
- 調査費用:投稿者を特定するために要した弁護士費用。
- 裁判実務上、全額が認められることは稀ですが、かかった費用の1割〜数割程度が損害として認められるケースが一般的です。
まずは弁護士名義で内容証明郵便を送付し、示談交渉を行います。
相手が支払いに応じない、あるいは誠意ある対応が見られない場合は、民事訴訟(裁判)を提起します。
7-2. 刑事上の責任追及(刑事告訴)
投稿内容が悪質な場合、警察に対して刑事告訴を行い、処罰を求めることも検討します 。
- 名誉毀損罪(刑法230条):3年以下の拘禁刑(懲役若しくは禁錮)又は50万円以下の罰金。
- 侮辱罪(刑法231条):1年以下の拘禁刑(懲役若しくは禁錮)若しくは30万円以下の罰金又は拘留若しくは科料。(※2022年7月の厳罰化により法定刑が引き上げられました)
- 信用毀損罪・偽計業務妨害罪(刑法233条):3年以下の拘禁刑(懲役)又は50万円以下の罰金。
おわりに
5ちゃんねるは、匿名性が高く、また運営が海外法人であることから、個人で対応するには限界があります。
特に「削除要請板」での申請は、さらなる被害拡大のリスクがあります。
弁護士に依頼することで、以下のメリットが得られます。
- 安全かつ確実な削除:炎上リスクの高い公開板を使わず、仮処分等の法的手段で削除を目指せます。
- スピード対応:ログ保存期間のタイムリミットを熟知し、最短のスケジュールで手続きを進めます。
- 加害者との直接交渉の回避:特定後の示談交渉において、被害者本人が矢面に立つことなく、適正な解決を図れます。
インターネット上の誹謗中傷は、放置しても自然に消えることはありません。
被害を最小限に食い止めるために、まずはインターネット問題に精通した弁護士にご相談ください。
インターネットの誹謗中傷等についてはこちら
弊所の弁護士へのご相談等はこちらから