自身が出演したAVを削除・販売停止する方法|AV新法に基づく解除権と違法サイト対策

目次

【この記事の結論・要約】

  1. 「AV新法」により、公表から一定期間内であれば無条件で契約解除・販売停止・削除が可能です。
  2. 新法の適用外であっても、肖像権侵害や契約の無効・取消しを主張し、削除を求められるケースがあります。
  3. 違法アップロードサイトや海外サーバーへの対応は複雑であるため、弁護士による法的手続きが有効です。

はじめに

過去に出演したアダルトビデオ(AV)が現在も販売されていたり、インターネット上の動画サイトに無断でアップロードされていたりすることは、出演された方にとって継続的な精神的苦痛と社会的な不利益をもたらす深刻な問題です。

「過去の過ちだから仕方がない」「契約書にサインしてしまったから消せない」と諦めている方もいらっしゃるかもしれません。
しかし、現在の法制度においては、出演者の権利保護が大幅に強化されており、一度は同意して撮影された作品であっても、後から削除販売停止を求められる法的なルートが確立されています。

特に、2022年に施行された「AV出演被害防止・救済法(通称:AV新法)」は、出演者に対して強力な「契約解除権」を付与しており、これを行使することでメーカーに対して販売の停止と回収、そしてデジタルデータの削除を義務付けることが可能です。

また、正規の販売ルートではなく、海賊版サイトやSNS等に流出した動画についても、肖像権プライバシー権著作権(メーカー側が持つ権利ですが、削除要請に利用できる場合があります)に基づき、削除を求めることができます。

本稿では、ご自身が出演されているAVの削除を希望される方に向けて、AV新法に基づく解除権の仕組み、新法適用外のケースにおける法的根拠、そして違法アップロードサイトへの対処法について、解説します。

1.「AV新法」による削除請求(差止請求権)

AVの削除を検討する際、まず確認すべきは「AV新法(性をめぐる個人の尊厳が重んぜられる社会の形成に資するために性行為映像制作物への出演に係る被害の防止を図り及び出演者の救済に資するための出演契約等に関する特則等に関する法律)」の適用可否です。

1-1. 無条件の契約解除権(クーリング・オフのような制度)

AV新法の最大の特徴は、撮影や公表(発売)に同意していたとしても、一定期間内であれば無条件で契約を解除できるという点です(同法第13条等)。
理由を問わず、「辞めたい」「消したい」という意思表示だけで効力が生じます。

  • 解除ができる期間: 原則として、映像が公表(発売・配信開始)されてから1年間は、無条件で契約を解除できます。 (※経過措置として、法律の施行後一定期間は、解除可能期間が2年間に延長されていました。)

この権利を行使した場合、契約は「初めからなかったこと」になります。

1-2. 解除の効果:販売停止と回収・削除義務

契約が解除されると、AVメーカー(制作者)や販売業者には以下の法的義務が発生します。

  1. 販売・頒布の停止:直ちにDVDの販売や有料配信を停止しなければなりません。
  2. 回収:店舗に出回っている商品を回収しなければなりません。
  3. 映像の削除:インターネット上の配信データを削除しなければなりません。

メーカーは、これらの措置を講じた上で、出演者に対して措置の内容を報告する義務も負います。
つまり、出演者は、「消してください」と伝えるだけで削除してもらうことのできる権利があります。

1-3. 期間経過後でも解除できるケース

公表から1年(または2年)が経過してしまった場合でも、以下のような事情があれば、契約の無効や解除、取消しを主張し、削除を求めることが可能です。

  • 契約書が交付されていなかった、または説明が不十分だった場合(同法第11条、第5条1項、第6条)。
  • 脅迫されたり、騙されたりして契約した場合(同法第11条、第5条1項など)。
  • 撮影禁止期間(契約締結から1か月)や公表禁止期間(撮影から4か月)に違反して、禁止期間より前に映像が公表された場合(同法第12条1項1号3号、第7条1項、第9条)。

その他にも、AV新法では、契約が無効となる場合や解除できる場合について定めています。

1-4. 削除請求(差止請求)

出演契約を締結せずにAVが制作公表された場合や、AV出演契約が取り消しや解除された場合、出演者は、AVを公表している人や公表しようとしている人に対して、公表されているAVの差止請求(公表の停止または予防の請求)をすることができます(法第15条1項)。

なお、この差止請求権は、経過措置(法令や制度が新しく制定・変更された際に移行の円滑化を図るために設けられる措置)の対象外とされています(附則第2条1項)。
そのため、AV新法設立以前から公表されているAVについても、出演契約が締結されていないものや、出演契約の取消し・解除が認められるものについては、差止請求(削除請求)をすることができます

2.AV新法が適用されない場合の削除根拠

AV新法によって差止請求ができない作品についても、削除が不可能というわけではありません。
民法や憲法上の権利に基づき、削除請求をすること可能なケースもあります。

2-1. 肖像権およびプライバシー権の侵害

すべての人は、みだりに自己の容貌等を撮影・公表されない権利(肖像権)や、私生活を公開されない権利(プライバシー権)を持っています。
過去に同意して出演したものであっても、その同意が「脅迫」「詐欺」「錯誤(勘違い)」によるものであった場合や、当時の判断能力が不十分であった場合、その同意は無効あるいは取り消しうると主張できます。
同意が無効になれば、動画の公開は肖像権やプライバシー権の侵害となり、差止請求(販売停止・削除請求)の根拠となります。

2-2. 契約の無効・取消し(民法)

以下のような事情があれば、民法の一般原則に基づき契約の効力を否定できます。

  • 公序良俗違反(民法90条): 撮影の内容が著しく過激で人権を侵害するものである場合や、出演者を奴隷的に拘束するような契約内容は、公序良俗に反し無効となります。
  • 詐欺・強迫(民法96条): 「モデルの撮影だ」と騙された、「違約金を払え」と脅されたといった事情がある場合、契約を取り消すことができます。

3.削除請求の具体的な手順と対象

削除を実現するためには、対象ごとに適切な手続きを踏む必要があります。
「販売元(メーカー)」と「違法アップロードサイト」では、対応が異なります。

3-1. メーカー・販売サイトへの請求

正規のメーカーが販売・配信している動画については、以下の手順で進めます。

  1. 内容証明郵便の送付: AV新法に基づく解除通知、または契約の無効・取消しを通知する書面を、メーカーに対して内容証明郵便で送付します。これにより、解除の意思表示が到達した証拠を残します。
  2. 交渉: メーカー側が素直に応じない場合、交渉を行います。
  3. 仮処分命令の申立て: 交渉で解決しない場合、裁判所に対して「販売停止・削除」を求める仮処分を申し立てます。裁判所が認めれば、強制力のある命令が出されます。

3-2. 違法アップロードサイトへの請求

メーカーが販売を停止しても、海賊版サイトや海外のアダルトサイトに動画が転載されているケースが多々あります。
これらはメーカーとは無関係の第三者がアップロードしているため、個別に削除申請が必要です。

  1. サイト内の削除フォームからの申請: 多くのサイトにはDMCA(デジタルミレニアム著作権法)に基づく削除申請フォームがあります。ここから肖像権侵害等を理由に削除を依頼します。
  2. プロバイダ責任制限法に基づく送信防止措置請求: 日本のサーバーや運営者の場合、法的な削除依頼書を送付します。
  3. サイト管理者・ホスティングプロバイダへの法的措置: 運営者が不明な場合や海外サーバーの場合、サーバーを管理している会社に対して削除を求めます。

3-3. 検索結果の削除(Google・Yahoo!など)

動画そのものが消せなくても、検索エンジンで自分の名前を検索した際に動画が表示されないようにする手続きです。
Googleなどの検索エンジンに対し、検索結果からの削除(インデックス削除)を申請します。
これにより、一般の人の目に触れるリスクを大幅に低減できます。

5.弁護士に依頼するメリット

AV削除問題を弁護士に依頼することで、以下のメリットが得られます。

5-1. 代理人としての対応と匿名性の確保

弁護士が代理人となることで、メーカーやサイト運営者とのやり取りはすべて弁護士が行います。
ご自身の氏名や住所を相手方に秘匿したまま交渉できるケースもあり(※手続きによります)、個人情報漏洩のリスクを最小限に抑えられます。

5-2. 法的強制力のある手続き

任意の削除依頼で応じない相手に対しても、裁判所を通じた「仮処分」や「間接強制(削除しない場合に制裁金を科す)」といった法的手続きを行うことが可能です。

5-3. 損害賠償請求

無断で出演させられた場合や、リベンジポルノ被害の場合、加害者やメーカーに対して慰謝料(損害賠償)を請求することも可能です。
削除と並行して、金銭的な被害回復を目指します。

おわりに

ご自身が出演しているAVの存在は、消えない傷のように感じられるかもしれません。
しかし、「AV新法」やその他の法的根拠により、削除することができる可能性はあります。

「過去のことだから」と諦める必要はありません。
販売を停止させ、インターネット上の動画を削除することは、あなたの尊厳と平穏な生活を取り戻すための正当な権利行使です。

特に、違法サイトへの対応やメーカーとの法的な交渉は、専門的なノウハウを要します。
一人で悩まず、インターネットトラブルに精通した弁護士にご相談ください。

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この記事を書いた人

髙田法律事務所の弁護士。東京弁護士会所属 登録番号60427
インターネットの誹謗中傷や離婚、債権回収、刑事事件やその他、様々な事件の解決に携わっている。
最新のビジネスや法改正等についても日々研究を重ねている。

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