父親が親権を獲得する方法|「母親有利」の実情と監護実績の作り方を解説

目次

【この記事の結論・要約】

  1. 親権者の決定は性別ではなく、「これまでの監護実績(育児の主担当者)」が最重視されます。
  2. 父親が親権を取るには、同居中からの育児参加の実績作りと、別居時の対応が鍵となります。
  3. 虐待や育児放棄など「母親が不利なケース」も存在し、適切な証拠があれば父親の親権は認められます。

はじめに

離婚に際して未成年の子どもがいる場合、父母のどちらを「親権者」とするかは、子どもの将来を左右する極めて重要な問題です。

一般的に、「親権争いは母親が圧倒的に有利」「父親が親権を取るのはほぼ不可能」と言われることがあります。
司法統計を見ても、母親が親権者となるケースが9割近くを占めているのは事実です。
しかし、これは「法律が女性を優遇しているから」ではありません。
多くの家庭において、母親が主たる監護者(メインで育児をする人)であったという「実績」が評価された結果に過ぎません。

したがって、父親(夫)であっても、裁判所が重視する判断基準を理解し、適切な監護の実績を積み上げ、戦略的に主張・立証を行えば、親権を獲得する方法は十分にあります。

本稿では、なぜ一般的に父親が難しいと言われるのかその法的背景を解説した上で、父親が親権を獲得するために必要な条件、母親が不利なケース、そして調停や裁判に向けて準備すべき証拠について、解説します。

1.なぜ「父親が親権を取るのは難しい」と言われるのか

まず、家庭裁判所がどのような基準で親権者を決定しているのか、その基準について解説します。

1-1. 「子の福祉」

裁判所が親権者を決める際、親の希望や経済力、離婚の有責性(不倫したかどうか等)よりも「子の福祉(子どもの利益)」が優先されます。
「どちらの親と暮らすことが、子どもの心身の健全な成長にとって望ましいか」という観点から判断されます。

1-2. 「継続性の原則」の壁

「子の福祉」を判断する上で、実務上最も重視されるのが「監護の継続性」の原則です。
これは、「これまで子どもの世話を主に行ってきた親との生活を継続させることが、子どもの精神的安定につながる」という考え方です。

日本の多くの家庭では、依然として「夫が外で働き、妻が家事育児を担う」あるいは共働きでも「妻の方が育児時間が長い」ケースが一般的です。
その結果、母親が「主たる監護者」と認定されやすく、結果として父親が親権争いで不利になる構造があります。
逆に言えば、父親が「主たる監護者」であった実績があれば、父親が親権者になることは十分に可能です。

1-3. 「母性優先の原則」の現在

かつては「乳幼児には母親が必要」とする「母性優先の原則」が重視されていました。
しかし現在では、父親も育児休暇を取得するなど育児参加が進んでいることから、必ずしも「母親でなければならない」とは考えられていません。
特に子どもがある程度成長している場合(小学生以上など)、この原則の影響力は相対的に低下しています。

2.父親が親権を獲得するための4つの必須条件

父親が親権を獲得するためには、以下の要素を具体的に立証する必要があります。

2-1. 具体的な「監護の実績」があること

「休日に遊ぶ」「お風呂に入れる」だけでは、監護実績としては不十分です。生活全般にわたる育児を行っている必要があります。

  • 食事の用意、食べさせ方
  • 寝かしつけ
  • 保育園・学校の準備、送迎
  • 宿題の確認、学校行事への参加
  • 病気の際の看病、病院への通院

これらの「生活のための育児」を、母親と同等かそれ以上に担ってきた実績が求められます。

2-2. 離婚後の「監護体制」が整っていること

父親がフルタイムで働いている場合、「仕事中に誰が子どもを見るのか」「急な残業や発熱時にどう対応するのか」が必ず問われます。

  • 定時退社や在宅勤務の活用による時間の確保
  • 実家の両親(祖父母)などの「監護補助者」の存在
  • 病児保育やファミリーサポートなどの利用計画

これらを具体的に提示し、「父親が引き取っても子どもの生活に支障がない」ことを証明する必要があります。

2-3. 子どもとの情緒的な結びつき

子どもが父親に懐いているか、父親との生活に安心感を持っているかも重要です。
日頃のコミュニケーションを通じて、信頼関係を築いておくことが不可欠です。

2-4. 面会交流への寛容性(フレンドリーペアレント・ルール)

自分が親権者になった場合、別居する母親と子どもを会わせる(面会交流)意向があるかどうかも審査されます。
相手を排除しようとするのではなく、「子どものために母親との交流も尊重する」という寛容な態度を示す親の方が、親権者として適格であると判断されやすくなります。

3.母親が「不利」になるケースとは

一般的に有利とされる母親でも、以下のような事情がある場合には「子の福祉」に反すると判断され、父親が親権を獲得できる可能性が高まります。

3-1. 育児放棄(ネグレクト)・虐待

母親が食事を与えない、入浴させない、パチンコなどで長時間放置する、あるいは子どもに暴力を振るうといった事情がある場合です。
子どもの安全が脅かされている場合、裁判所は父親への親権指定を優先的に検討します。

3-2. 子どもを置いて別居した

母親が(不倫相手の元へ行くなどして)子どもを自宅に残したまま別居を開始した場合です。
この時点で、父親と子どもだけの同居生活が始まり、父親が一人で育児を行う実績が積み重なります。
「現状維持」を重視する裁判所は、後から母親が「引き取りたい」と言っても認めにくくなります。

3-3. 重度の精神疾患等で育児困難

母親が重度の精神疾患や身体的な病気を抱えており、子どもの世話をすることが客観的に困難であると判断される場合です。

3-4. 【注意】不貞行為(不倫)だけでは決まらない

よくある誤解ですが、「母親が不倫をしたからといって、直ちに親権者になれないわけではない」という点には注意が必要です。

裁判所は「夫婦の問題(不貞)」と「親子の問題(監護)」を切り離して考えます。
不貞をしていても、普段の育児をしっかり行っていれば、親権者として指定される可能性はあります。

ただし、不倫に夢中で育児放棄していた場合や、子どもの前で不貞行為に及んでいた場合などは、監護者として不適格と判断される要素になります。

4.親権獲得に向けた具体的な準備と証拠

調停や裁判において、調査官や裁判官を説得するためには、客観的な証拠が不可欠です。

4-1. 「育児日記」の作成

自身が主たる監護者であることを証明するために、詳細な育児日記をつけることが有効です。

  • 起床・就寝時間
  • 食事の内容(写真付きが望ましい)
  • 保育園での様子、学校からの連絡事項
  • 子どもの健康状態、発言
  • 自身が行った育児の内容

これを継続的に記録することで、「父親が日常的に子どもの世話をしている」という強力な証拠になります。

4-2. 監護補助者の陳述書

実家の両親などに育児協力を依頼できる場合は、その方々にも「全面的に協力する」旨の陳述書を作成してもらい、バックアップ体制が万全であることをアピールします。

4-3. 学校・保育園との連携記録

連絡帳のコピーや、行事への参加写真なども、育児関与を示す証拠となります。

4-4. 相手方の問題点に関する証拠

母親側にネグレクトや虐待がある場合は、散らかった部屋の写真、子どもの怪我の写真、放置された時間の記録、暴言の録音データなどを確保します。

5.別居時の対応が勝敗を分ける

親権争いにおいて、最も致命的なミスが起こりやすいのが「別居のタイミング」です。

5-1. 子どもを置いて家を出てはいけない

父親が家を出て別居する場合、子どもを母親の元に残して自分だけ家を出てしまうと、その瞬間から「母親が主たる監護者」という実績が積み上がっていきます。
後から「親権が欲しい」と主張しても、「現在は母親の元で安定して暮らしている(継続性の原則)」として却下される可能性が極めて高くなります。

5-2. 「連れ去り」のリスクと適法性

逆に、父親が子どもを連れて別居する場合、それが「違法な連れ去り」とみなされないよう注意が必要です。
平穏に暮らしていた環境から無理やり子どもを引き離す行為は、違法性が高いと判断され、親権者としての適格性を疑われる原因になります。

ただし、母親による虐待がある場合などの緊急避難的な連れ出しや、これまで主として父親が監護していた場合の別居などは、正当性が認められることもあります。
この判断は非常に専門的であるため、別居前に必ず弁護士に相談してください。

6.家庭裁判所調査官による調査への対策

親権に争いがある場合、裁判所の専門職である「家庭裁判所調査官」による調査が行われます。
この調査結果は、裁判官の判断に大きな影響を与えます。

6-1. 調査官面談のポイント

調査官は、父母双方、そして子ども(年齢による)と面談を行います。
ここでは、相手方の悪口を言うのではなく、「いかに自分が子どものことを理解し、愛情を持って育ててきたか」「今後の生活環境がいかに安定しているか」を、事実に基づいて冷静に伝えることが重要です。

6-2. 家庭訪問

実際に子どもと生活している自宅を訪問し、養育環境を確認することもあります。
部屋の整理整頓や、子どもがリラックスして過ごせているかどうかがチェックされます。

おわりに

離婚における親権者の決定は、性別で自動的に決まるものではありません。あくまで「子の福祉」の観点から、これまでの実績とこれからの環境を比較して決定されます。

父親であっても、主体的に育児に関わってきた実績があり、離婚後も安定して子どもを育てられる環境を整え、それを客観的な証拠で示すことができれば、親権を獲得できる可能性は十分にあります。

ただし、そのためには同居中からの周到な準備と、別居の際の適切な立ち回りが必要です。
一度不利な状況(子どもと離れて暮らす等)が作られてしまうと、それを覆すのは極めて困難です。
「親権を取りたい」と考えた時点で、別居などの行動を起こす前に、離婚・親権問題に精通した弁護士にご相談ください。

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この記事を書いた人

髙田法律事務所の弁護士。東京弁護士会所属 登録番号60427
インターネットの誹謗中傷や離婚、債権回収、刑事事件やその他、様々な事件の解決に携わっている。
最新のビジネスや法改正等についても日々研究を重ねている。

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