傷害罪で逮捕されたら|暴行罪との違いと量刑・示談の重要性を弁護士が解説

目次

【この記事の結論・要約】

  1. 傷害罪は、相手に怪我を負わせた場合に成立し、暴行罪よりも重い刑罰(15年以下の拘禁刑等)が科されます。
  2. 逮捕後は最大23日間の身柄拘束が続く恐れがあり、早期の釈放と不起訴獲得には被害者との「示談」が最重要です。
  3. 示談金の相場は怪我の程度により異なりますが、弁護士による交渉が不可欠です。

はじめに

喧嘩で相手を殴って怪我をさせた、口論の末に突き飛ばして骨折させたなど、他人の身体に損傷を与える行為は刑法上の「傷害罪」に該当します。
傷害罪は、相手に怪我をさせていない「暴行罪」と比較して法定刑が重く設定されており、初犯であっても、被害の程度によっては正式裁判(公判請求)となり、実刑判決を受ける可能性がある重大な犯罪です。

また、逮捕された場合、逃亡や証拠隠滅の恐れがあるとして、長期間の勾留(身柄拘束)がなされるケースも少なくありません。
会社や学校への発覚を防ぎ、前科を回避して社会復帰するためには、逮捕直後の初動対応、特に被害者に対する被害弁償と示談交渉が極めて重要となります。

本稿では、ご自身やご家族が傷害罪で逮捕された、あるいは警察の捜査を受けているという方に向けて、傷害罪の成立要件、暴行罪との境界線、量刑や示談金の相場、そして不起訴処分獲得に向けた弁護活動について、法的な観点から解説します。

1.傷害罪の成立要件と暴行罪との違い

まず、どのような行為が傷害罪にあたるのか、暴行罪と何が違うのかを法的定義に基づいて確認します。

1-1. 傷害罪(刑法第204条)の定義

傷害罪は、刑法第204条に以下のように規定されています。

刑法 第204条(傷害)

人の身体を傷害した者は、15年以下の拘禁刑又は50万円以下の罰金に処する。

ここでいう「傷害」とは、判例上、「人の生理的機能に障害を与えること」と定義されています。
具体的には、以下のような状態が傷害に該当します。

  • 外傷: 切り傷、打撲、骨折、火傷、歯の欠損など。
  • 健康不良: 暴行によって失神させる、病気に罹患させる、睡眠障害やPTSD(心的外傷後ストレス障害)等の精神疾患を発症させる行為も傷害に含まれます。

1-2. 暴行罪(刑法第208条)との違い

傷害罪と暴行罪の境界線は、「傷害の結果(怪我)」が発生したかどうかです。

  • 暴行罪: 人の身体に対し不法な有形力を行使したが、傷害するに至らなかった場合。(法定刑:2年以下の拘禁刑若しくは30万円以下の罰金又は拘留若しくは科料)
  • 傷害罪: 有形力の行使等により、傷害の結果が発生した場合。(法定刑:15年以下の拘禁刑又は50万円以下の罰金)

重要なのは、たとえ加害者が「怪我をさせるつもりはなかった(暴行の故意しかなかった)」としても、結果的に相手が怪我をした場合は、傷害罪が成立するという点です(結果的加重犯)。
「軽く押しただけ」であっても、相手が転倒して頭を打ち、怪我をすれば傷害罪として扱われます。

1-3. 診断書の重要性

実務上、暴行罪か傷害罪かを分ける決定的な証拠となるのが、医師の作成した「診断書」です。
被害者が警察に診断書を提出した時点で、捜査機関は事件を「傷害事件」として扱います。
診断書には「全治〇週間」といった治療期間が記載されており、これが量刑や示談金の算定における重要な基準となります。

2.傷害罪で逮捕された後の手続きと流れ

傷害事件で逮捕されると、厳格な時間制限の中で刑事手続きが進行します。

2-1. 逮捕から勾留までの「72時間の壁」

  1. 逮捕: 警察署の留置場に収容されます。逮捕から48時間以内に検察官へ送致されます。
  2. 送致: 検察官は、送致から24時間以内に、被疑者を釈放するか、引き続き身柄を拘束する「勾留」を請求するかを判断します。
  3. 勾留決定: 裁判官が勾留を認めると、原則10日間、延長されれば最大20日間、身柄拘束が続きます。

傷害事件の場合、被害者への接触や口裏合わせによる証拠隠滅の恐れが高いと判断され、勾留請求が認められることもあります。
逮捕・勾留された場合、この最大23日間(逮捕3日+勾留20日)の間に、起訴か不起訴かが決定されます。

2-2. 起訴・不起訴の判断

検察官は、捜査結果に基づき処分を決定します。

  • 不起訴処分: 裁判を行わず、事件を終了させる処分です。前科はつきません。(嫌疑不十分、起訴猶予など)
  • 略式起訴: 公判(公開の裁判)を開かず、書面審理のみで罰金刑を科す手続きです。身柄は早期に解放されますが、前科がつきます。
  • 公判請求: 正式な刑事裁判が開かれます。拘禁刑(実刑または執行猶予)が求刑される可能性が高いケースです。

3.傷害罪の量刑相場と判断要素

起訴された場合、あるいは示談交渉を行うにあたって、どの程度の刑罰が想定されるかを知ることは重要です。

3-1. 量刑を左右する要素

裁判所や検察官は、主に以下の要素を総合的に考慮して処分を決定します。

  1. 結果の重大性: 怪我の程度(全治期間)、後遺障害の有無。
  2. 犯行態様: 凶器の使用有無、一方的な攻撃か、執拗さ、危険性。
  3. 動機・経緯: 突発的な喧嘩か、計画的な犯行か、被害者側の落ち度(挑発など)の有無。
  4. 示談の状況: 被害弁償が済み、被害者が処罰を望まない意思(宥恕)を示しているか。
  5. 前科・前歴: 同種の前科があるか。

3-2. 怪我の程度による処分の目安(初犯の場合)

あくまで一般的な目安ですが、初犯で示談が成立していない場合の傾向は以下の通りです。

  • 全治1週間〜2週間程度(軽傷): 罰金10万円〜30万円程度、または不起訴(起訴猶予)。
  • 全治3週間〜1ヶ月程度: 罰金30万円〜50万円程度、または公判請求(執行猶予付き懲役刑)。
  • 全治数ヶ月以上の重傷・後遺障害: 公判請求される可能性が高く、実刑判決のリスクも生じます。

示談が成立していれば、これらの処分よりも軽くなる(不起訴や執行猶予)可能性が高まります。

4.不起訴・減刑獲得のための「示談」の重要性

傷害事件において、最も効果的な弁護活動は「示談」です。

4-1. 示談の法的効果

傷害罪は親告罪(被害者の告訴がなければ起訴できない犯罪)ではありませんが、被害者の処罰感情は検察官の判断に決定的な影響を与えます。
被害者に対して謝罪し、治療費や慰謝料を支払った上で、「被害者は被疑者を許し、刑事処罰を望まない(宥恕:ゆうじょ)」という条項を含む示談書を締結できれば、検察官は「当事者間で解決済み」と判断し、不起訴処分とする可能性が高くなります。
起訴された場合でも、執行猶予を得るための有力な材料となります。

4-2. 傷害事件の示談金相場

示談金は「治療費(実費)」+「慰謝料」+「休業損害」などで構成されます。

  • 軽傷(打撲・捻挫等): 10万円〜30万円程度 + 治療費実費
  • 中等度の怪我(骨折・数針縫う等): 50万円〜100万円程度 + 治療費実費
  • 重傷・後遺障害: 数百万円以上になるケースもあります。

金額は被害者の感情や加害者の資力によっても変動するため、相場はあくまで目安です。

4-3. 示談交渉の難しさ

傷害事件では、被害者が加害者に対して強い恐怖心や怒りを抱いていることが通常です。
そのため、加害者本人やその家族が直接連絡を取ろうとしても、拒絶されたり、感情的な対立からトラブルが悪化したりするリスクがあります。
また、捜査機関は「証拠隠滅の恐れ」を防ぐため、加害者側に被害者の連絡先を教えないのが原則です。

5.弁護士に依頼するメリット

傷害事件で逮捕された場合、弁護士に依頼することで以下のメリットが得られます。

5-1. 早期の身体拘束からの解放

逮捕直後から弁護士が活動することで、検察官や裁判官に対し「逃亡や証拠隠滅の恐れがない」ことを主張し、勾留請求の却下や準抗告、保釈請求などを行い、早期の釈放を目指します。
これにより、職場や学校への影響を最小限に抑えます。

5-2. 示談交渉の代行

弁護士であれば、検察官を通じて(被害者の同意を得て)連絡先を入手し、第三者の立場から示談交渉を行うことが可能です。
被害者にとっても、加害者本人ではなく弁護士が相手であれば、安心して交渉に応じられるケースが多く、適正な金額での示談成立が期待できます。

5-3. 不起訴処分の獲得

示談の成立や、再犯防止策(カウンセリング受診や環境調整など)、被害者側の事情(喧嘩両成敗的な要素など)を検察官に訴え、不起訴処分(起訴猶予)の獲得に全力を尽くします。
不起訴となれば前科はつかず、社会復帰への障害を減らすことができます。

おわりに

傷害罪で逮捕された場合、そこからの23日間が将来を左右する重要な期間となります。
「手を出してしまった」という事実は変えられませんが、その後の誠実な対応と迅速な弁護活動によって、最終的な処分は大きく変わります。

特に、被害者との示談交渉は、刑事処分の軽減において不可欠な要素ですが、個人での対応は極めて困難です。
ご自身やご家族が傷害事件の当事者となってしまった場合は、一刻も早く弁護士にご相談ください。
早期の相談が、最善の結果への第一歩となります。

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この記事を書いた人

髙田法律事務所の弁護士。東京弁護士会所属 登録番号60427
インターネットの誹謗中傷や離婚、債権回収、刑事事件やその他、様々な事件の解決に携わっている。
最新のビジネスや法改正等についても日々研究を重ねている。

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