交通事故(人身事故)で逮捕される基準と過失運転致死傷罪の刑罰|早期釈放と不起訴獲得への道

目次

【この記事の結論・要約】

  1. 人身事故の多くは「過失運転致死傷罪」に問われ、7年以下の懲役等の刑罰が科されます。
  2. 逮捕されるのは「逃亡」や「証拠隠滅」の恐れがある場合で、在宅捜査となるケースも多いです。
  3. 前科を回避(不起訴)するためには、保険会社任せにせず、刑事弁護としての「示談」が重要です。

はじめに

自動車やバイクを運転中、不注意により歩行者や他の車両と衝突し、相手に怪我を負わせてしまった場合、それは単なる「事故」ではなく、刑法上の犯罪である「人身事故」として扱われます。

「警察に逮捕されてしまうのか」 「刑務所に入らなければならないのか」 「会社を解雇されるのではないか」

加害者となった方は、こうした不安に直面していることかと思います。
交通事故における刑事責任は厳格化されており、過失運転致死傷罪や、より重い危険運転致死傷罪などが適用されます。
しかし、死亡事故や重傷事故であっても、必ずしも逮捕されるわけではありません。
また、逮捕されたとしても、その後の対応次第では、早期の釈放や、起訴を見送る「不起訴処分」を獲得できる可能性は残されています。

本稿では、交通事故(人身事故)を起こしてしまった方やそのご家族に向けて、逮捕されるケースとされないケースの違い、適用される法律と刑罰、そして刑事処分を軽くするために不可欠な「示談」の重要性について、解説します。

1.人身事故で逮捕されるケース・されないケース

「人身事故=即逮捕」というイメージがあるかもしれませんが、実務上は逮捕されずに捜査が進む「在宅事件」も数多く存在します。
警察が逮捕に踏み切る基準はどこにあるのでしょうか。

1-1. 逮捕の要件(逃亡と証拠隠滅の恐れ)

刑事訴訟法上、逮捕が必要とされるのは主に「逃亡の恐れ」または「証拠隠滅の恐れ」がある場合です。
交通事故において、具体的には以下のような事情がある場合に逮捕のリスクが高まります。

  • ひき逃げ(救護義務違反): 事故現場から逃走した場合、証拠隠滅と逃亡の意思が明白であるため、原則として逮捕されます。
  • 飲酒運転・無免許運転: 悪質性が高く、重い刑罰が見込まれるため、逃亡の恐れが高いと判断されます。
  • 被害結果が重大: 被害者が死亡、または重体となっている場合。
  • 否認している: 事故の事実や過失を認めていない場合、証拠を隠滅する恐れがあるとみなされます。
  • 住所不定: 定まった住所がない場合、逃亡の恐れありと判断されます。

1-2. 在宅捜査となるケース

一方で、過失による事故であり、加害者が現場に留まって警察の聴取に素直に応じ、身元や住所がしっかりしている(家族と同居している、定職がある等)場合には、逮捕の必要性がないとして「在宅捜査」となることが一般的です。
この場合、日常生活を送りながら、警察からの呼び出しに応じて出頭し、取調べを受けることになります。

2.適用される犯罪と刑罰(過失運転致死傷罪等)

人身事故を起こした場合に問われる罪名と、その刑罰について解説します。

2-1. 過失運転致死傷罪(自動車運転処罰法第5条)

一般的な不注意(前方不注視、脇見運転、信号無視など)によって人を死傷させた場合に適用されます。

自動車の運転により人を死傷させる行為等の処罰に関する法律 第5条

自動車の運転上必要な注意を怠り、よって人を死傷させた者は、7年以下の拘禁刑又は100万円以下の罰金に処する。ただし、その傷害が軽いときは、情状により、その刑を免除することができる。

2-2. 危険運転致死傷罪(同法第2条・第3条)

アルコールや薬物の影響、制御困難な高速度、妨害運転(あおり運転)など、極めて悪質で危険な運転により死傷させた場合に適用されます。

  • 負傷させた場合: 15年以下の拘禁刑(懲役)
  • 死亡させた場合: 1年以上の有期拘禁刑(最高20年)

危険運転致死傷罪には罰金刑がなく、起訴されれば公開の法廷で審理され、実刑判決となる可能性が極めて高い重罪です。

2-3. 救護義務違反(ひき逃げ)

道路交通法上の義務違反として、10年以下の拘禁刑(懲役)又は100万円以下の罰金が科されます。人身事故の罪と併合され、さらに重い刑となります。

3.逮捕後の刑事手続きの流れ

逮捕された場合、以下のようなタイムリミットの中で手続きが進行します。

3-1. 逮捕から勾留決定まで(最大72時間)

  1. 警察での取調べ: 逮捕後48時間以内に、身柄と事件が検察庁へ送致されます。
  2. 検察官の判断: 送致から24時間以内に、検察官は被疑者を釈放するか、引き続き身柄を拘束する「勾留」を裁判所に請求するかを判断します。

3-2. 勾留期間(最大20日間)

裁判所が勾留を認めると、原則10日間、延長されれば最大20日間、警察署の留置場等で身柄拘束が続きます。
この間、会社や学校へ行くことはできず、社会生活に多大な影響が生じます。

3-3. 起訴・不起訴の処分決定

勾留期間が満了するまでに、検察官は以下のいずれかの処分を決定します。

  • 公判請求(正式起訴): 公開の裁判にかけられます。懲役刑が見込まれるケースです。
  • 略式起訴: 裁判を開かず、書面審理のみで罰金刑を科す手続きです。身柄は解放されますが、前科がつきます。
  • 不起訴処分: 起訴しない処分です。裁判にならず、前科もつきません

4.民事責任・行政責任との違い

交通事故には「3つの責任」があります。刑事責任はそのうちの1つに過ぎません。

  1. 刑事責任: 国が加害者に刑罰(懲役・罰金)を科すもの。逮捕や前科に関わります。
  2. 民事責任: 被害者に対する損害賠償(治療費、慰謝料、修理費等)を支払う責任。通常は任意保険会社が対応します。
  3. 行政責任: 公安委員会による運転免許への処分(免許取り消し、免許停止、違反点数の加算)。

これらは別個の手続きですが、相互に影響し合います。特に、民事上の示談が成立しているかどうかが、刑事処分の重さを決める上で重要な要素となります。

第5章:不起訴・減刑のための「示談」の重要性

交通事故において、最も重視すべき弁護活動は「示談」です。

5-1. なぜ示談が必要なのか

過失運転致死傷罪は、被害者の処罰感情が量刑や起訴判断に大きく影響します。
検察官は、被害弁償が済んでおり、被害者が「処罰を望まない(宥恕:ゆうじょ)」という意思を示している場合、「当事者間で解決済みであり、国家が刑罰を科す必要性は低い」と判断し、不起訴処分(起訴猶予)とする可能性が高まります。

5-2. 保険会社任せでは不十分な理由

「任意保険に入っているから、示談は保険会社がやってくれる」と考える方が多いですが、ここには落とし穴があります。
保険会社が行うのはあくまで「民事上の損害賠償」の交渉です。
保険会社は、被害者に対して「加害者を許す(宥恕)」という条項や、「刑事処罰を求めない」という嘆願書の取り付けまでは、業務として行ってくれません。

刑事処分を軽くするための示談(刑事示談)を行うには、弁護士が別途、被害者と交渉し、謝罪の意を伝え、宥恕文言付きの示談書を作成する必要があります。

第6章:弁護士に依頼するメリット

人身事故の加害者となった場合、弁護士に依頼することで以下のメリットが得られます。

6-1. 早期釈放に向けた活動

逮捕直後から弁護士が介入し、「逃亡や証拠隠滅の恐れがない」ことを示す証拠(身元引受書など)を提出することで、勾留請求の却下や準抗告を行い、早期の身柄解放を目指します。

6-2. 被害者感情に配慮した示談交渉

事故直後の被害者は、加害者に対して強い怒りを持っています。
加害者本人が直接謝罪に行こうとしても拒絶されることが多いですが、弁護士が代理人として間に入ることで、冷静な話し合いが可能となり、円満な示談成立の可能性が高まります。

6-3. 不起訴・執行猶予の獲得

示談の成立や、再犯防止策(運転免許の返納、安全運転講習の受講など)を検察官や裁判所に主張し、不起訴処分や、実刑回避(執行猶予判決)を目指します。

おわりに

交通事故(人身事故)は、一瞬の不注意で誰にでも起こり得るものですが、その結果として生じる法的責任は重大です。
逮捕されるかどうか、前科がつくかどうかは、事故の態様だけでなく、その後の対応(謝罪、示談、取調べへの対応)によって大きく変わります。

特に、被害者への対応はデリケートであり、保険会社任せにするのではなく、刑事弁護のプロである弁護士のサポートを受けることが、将来への不利益を最小限に抑える鍵となります。
万が一事故を起こしてしまった場合は、できるだけ早い段階で弁護士にご相談ください。

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この記事を書いた人

髙田法律事務所の弁護士。東京弁護士会所属 登録番号60427
インターネットの誹謗中傷や離婚、債権回収、刑事事件やその他、様々な事件の解決に携わっている。
最新のビジネスや法改正等についても日々研究を重ねている。

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