メタバースのハラスメントは訴えられる?弁護士が手順を解説

目次

【この記事の結論・要約】

  • メタバース上のハラスメントは、現行法(民法709条の不法行為、刑法の名誉毀損罪・脅迫罪等)で訴えることが可能です
  • 加害者が匿名アバターでも、発信者情報開示請求により特定できる可能性があります
  • 泣き寝入りしないためには「証拠保全」と「早期の弁護士相談」が最も重要です

はじめに

VRChatclusterRobloxなどのメタバースプラットフォームの利用者は急速に拡大しています。
それに伴い、アバターへの性的な接触行為、暴言・差別発言、執拗なストーキングといった深刻なハラスメント被害の報告も増加しています。

しかし、「相手はアバターだから」「仮想空間の出来事だから」と泣き寝入りしてしまう方が非常に多いのが現状です。

メタバース上のハラスメントであっても、現実の法律で訴えることは可能です。

ただし、メタバースハラスメントに関する直接的な裁判例はまだほとんど存在しないのが実情です。
現行法の解釈により対処が可能と考えられるものの、SNSや掲示板での誹謗中傷と比較して、証拠収集や加害者特定に独自の困難があります。

本稿では、適用される法律の種類、加害者の特定方法、証拠の残し方、弁護士に相談すべきタイミングまで、実務的な視点で具体的に解説します。

【結論】メタバースのハラスメントは法律で訴えることができる

メタバースは「法の及ばない空間」ではありません。
現行の日本法では、仮想空間での行為であっても、現実の人間に対する権利侵害として法的責任を問うことができます。

訴えられるケース・訴えにくいケースの違い

メタバース上のハラスメントが法的に訴えられるかどうかは、主に以下の3つの要素で決まります。

判断要素訴えやすいケース訴えにくいケース
被害の具体性特定個人への暴言・脅迫・つきまといゲーム内の一般的な対戦行為
証拠の有無スクリーンショット・録画・ログあり証拠が一切残っていない
加害者の特定可能性プラットフォームにアカウント情報あり完全匿名で痕跡なし

重要なのは、「仮想空間だから」という理由だけで法律の適用が否定されるわけではないという点です。

ただし、メタバースハラスメントに直接適用された確立した判例は、現時点ではほとんど見当たりません。
以下で解説する法律の適用は、既存の法解釈をメタバースの文脈に当てはめた場合の分析であり、今後の裁判例の蓄積により判断が具体化されていく分野です。

メタバースで起きるハラスメントの種類と実態

メタバースでのハラスメントは多様化しています。
ご自身の被害がどの類型に該当するかを把握することが、法的対応の第一歩です。

性的ハラスメント(アバターへの不正接触・わいせつ発言)

メタバース特有の被害として注目されているのが、アバターに対する性的な接触行為です。

VRデバイスを使用している場合、その没入感により、アバターへの接触をあたかも自分の身体への接触であるかのように心理的に体験することがあり、被害者が強い精神的苦痛を受けるケースが報告されています。

具体的には以下のような行為が該当します。

  • アバターの身体部位への意図的な接触・抱きつき
  • わいせつな発言や性的な画像の送りつけ
  • 性的な行為を強要するようなロールプレイの強制

2022年には、Meta社のHorizon Worlds(現Meta Horizon)でアバターへの性的接触被害が報告され、パーソナルバウンダリー機能が導入されるきっかけとなりました。

言語的ハラスメント(暴言・差別発言・脅迫)

ボイスチャットやテキストチャットを通じた暴言、差別的発言、殺害予告などの脅迫は、メタバースにおいて最も多い被害類型の一つです。
特にボイスチャットでのハラスメントは、相手の声が直接聞こえるため、テキストベースのSNSよりも心理的なダメージが大きいとされています。

「殺す」「住所を特定する」といった発言は、仮想空間であっても脅迫罪(刑法222条)に該当する可能性があります。

ストーキング・つきまとい行為

メタバース上で特定のユーザーを執拗に追い回す、ワールドを移動しても追跡してくる、複数アカウントでつきまとうといった行為も深刻な問題です。

さらに、メタバース上の行為にとどまらず、SNSのDMへの大量メッセージ送信や現実世界での接触を示唆する発言が伴う場合は、ストーカー規制法(ストーカー行為等の規制等に関する法律)の適用対象になる可能性があります。

なりすまし・アバター無断使用・名誉毀損

他者のアバターを模倣した「なりすまし」や、メタバース上の公開空間で特定個人の実名を挙げての誹謗中傷も増えています。

例えば、メタバース内のイベントで「〇〇(実名)は犯罪者だ」と公然と発言するような行為は、名誉毀損罪(刑法230条1項)に問われる可能性があります。

メタバースのハラスメントに適用される可能性がある法律

仮想空間での行為であっても、その行為の主体と被害者は現実の人間です。
この原則を理解することが、法的対応の出発点となります。

なお、以下の各法律の適用に関しては、メタバースハラスメントに直接適用された裁判例はまだほとんどなく、既存の法解釈をメタバースの文脈に当てはめた場合の分析です。

不法行為(民法709条)による損害賠償請求

最も広く適用される可能性があるのが、民法709条の不法行為に基づく損害賠償請求(慰謝料請求)です。

民法709条:「故意又は過失によって他人の権利又は法律上保護される利益を侵害した者は、これによって生じた損害を賠償する責任を負う。」

メタバース上のハラスメントにより精神的苦痛(人格権の侵害)を受けた場合、加害者に対して慰謝料を請求できる可能性があります。

インターネット上の誹謗中傷に対する慰謝料の相場は、一般に数万円~数十万円程度とされていますが、被害の程度や継続性によって異なります。
メタバース特有の没入感に起因する被害の場合、従来のSNS上の誹謗中傷よりも高額の慰謝料が認められる可能性もありますが、確立された裁判例はまだ限られており、今後の判例の蓄積が待たれる状況です。

名誉毀損罪・侮辱罪(刑法)が問われるケース

メタバース内の公開空間で特定個人の社会的評価を低下させる事実を摘示した場合、名誉毀損罪(刑法230条1項、3年以下の拘禁刑又は50万円以下の罰金)が成立する可能性があります。

また、2022年7月の法改正により侮辱罪(刑法231条)の法定刑が引き上げられ、「1年以下の拘禁刑若しくは30万円以下の罰金又は拘留若しくは科料」となりました。
この改正は、インターネット上の誹謗中傷の深刻化を背景としたものであり、メタバース上の侮辱行為にも当然に適用されます。

名誉毀損罪と侮辱罪はいずれも親告罪であり、犯人を知った日から6ヶ月以内に告訴する必要があります(刑法232条1項、刑事訴訟法235条)。

脅迫罪・ストーカー規制法の適用可能性

「殺す」「家に行く」などの発言は、メタバース上であっても脅迫罪(刑法222条、2年以下の拘禁刑又は30万円以下の罰金)に該当し得ます。

恋愛感情やそれが満たされなかったことに対する怨恨の感情を充足する目的でのつきまとい等の行為は、ストーカー規制法の規制対象となります。
同法は2021年の改正でGPS機器等を用いた位置情報の無承諾取得も規制対象に加えられており、今後、メタバース上の位置追跡行為への適用可能性も議論されていくと考えられます。

迷惑防止条例・情報流通プラットフォーム対処法との関係

各都道府県の迷惑防止条例は、つきまとい行為や嫌がらせ行為を規制しています。
メタバース上の行為が条例の構成要件に該当するかはケースバイケースですが、オンラインでの行為が条例の適用対象に含まれるよう改正が進んでいる自治体もあります。

また、加害者を特定する際に重要となるのが情報流通プラットフォーム対処法(旧:プロバイダ責任制限法)です。
2022年10月施行の改正により、発信者情報開示命令(新たな裁判手続き・非訟手続)が創設され、従来よりも迅速な開示が可能になりました(同法5条・8条以下)。

アバターへの「身体的接触」は傷害罪になるか?(法的考察)

この問題は、メタバース法の中でも最も議論が分かれるテーマの一つです。

傷害罪(刑法204条)は「人の身体を傷害した」場合に成立しますが、アバターへの接触が「身体の傷害」に当たるかは、現行法の解釈上、直ちに肯定することは困難です。

ただし、判例上、傷害罪の「傷害」にはPTSD(心的外傷後ストレス障害)などの精神的機能の障害も含まれるとされています。
最高裁は、監禁行為により被害者にPTSDの特徴的な精神症状が継続して発現した事案において、「精神的機能の障害を惹起した場合も刑法にいう傷害に当たると解するのが相当である」と判示しました(最決平成24年7月24日・刑集66巻8号709頁)。

したがって、VRデバイスを通じたアバターへの接触行為により、被害者が医学的に診断可能な精神的障害を発症した場合には、傷害罪の成立が認められる余地があります。

もっとも、メタバース上のアバターへの接触行為に傷害罪を適用した裁判例は現時点では確認できていません。
そのため、「必ず傷害罪が成立する」とは言い切れませんが、泣き寝入りする必要もないと考えられます。

【重要】加害者が匿名の場合でも特定できるか

メタバースハラスメントで最大のハードルとなるのが、加害者の特定です。
しかし、匿名アバターであっても法的手続きにより特定できる可能性があります。

プラットフォームへの情報開示請求とは

メタバースプラットフォーム(VRChat、cluster等)は、ユーザーのアカウント情報(メールアドレス、IPアドレス、登録情報等)を保有しています。

被害者は、プラットフォーム運営事業者に対し、加害者のアカウントに紐づく情報の開示を請求することができます。
任意の開示請求に応じない場合は、裁判所を通じた発信者情報開示命令の手続きに進むことになります。

発信者情報開示の手順

情報流通プラットフォーム対処法に基づく発信者情報開示の基本的な流れは以下のとおりです。

  1. 証拠を確保する(スクリーンショット、録画、ログ等)
  2. 弁護士に相談・依頼する
  3. プラットフォームに対し発信者情報開示命令を申し立てる(裁判所)
  4. 開示されたIPアドレス等をもとに、接続プロバイダ(ISP)に対して契約者情報の開示を請求する
  5. 加害者の氏名・住所が判明したら、損害賠償請求等の手続きに移行する

改正法により、上記3と4の手続きを1つの裁判手続き(非訟手続)で一体的に行えるようになったため、従来よりも迅速な特定が可能です。ただし、この手続きには通常数ヶ月~半年程度を要します。

海外サーバー・外国法人が運営する場合の注意点

VRChatやRecRoom、Meta Horizonなど、多くの主要メタバースプラットフォームは米国法人が運営しています。
この場合、以下のような追加的な課題が生じます。

  • 開示請求の送達先が海外となる場合があるため、手続きに時間がかかる可能性がある
  • プラットフォームが日本の裁判所の管轄に服するかが問題になる場合がある
  • ログの保存期間が海外の法制度や運営ポリシーに依存する

実務的には、日本国内にサービスを提供している以上、日本の裁判所への申立てが認められるケースが多いですが、個別の事情により異なります。
海外法人が絡むケースでは、手続きに精通した弁護士への相談が不可欠です。

特定が難しいケースと現実的な選択肢

すべてのケースで加害者を特定できるわけではありません。
例えば、以下のような場合は特定が困難です。

  • VPN(仮想プライベートネットワーク)を使用しており、元のIPアドレスが隠蔽されている
  • 使い捨てアカウントで、本人確認情報が一切紐づいていない
  • ログの保存期間が経過しており、データが消去されている

訴えるために今すぐやるべき証拠保全の方法

メタバースハラスメントでは、「証拠がすべて」と言っても過言ではありません。
被害に気づいた時点での迅速な対応が極めて重要です。

スクリーンショット・録画の正しい残し方

証拠として最も有効なのは、ハラスメント行為が行われている場面のスクリーンショットや録画です。
以下のポイントを意識して保存してください。

  • 日時が分かるようにする(PCやVR機器の時計を画面内に表示、またはファイルの作成日時を改変しない)
  • 加害者のアバター名・ユーザーIDが判読できる状態で撮影する
  • 行為の前後の文脈も含めて記録する(切り取りによる誤解を防ぐため)
  • OBS Studio等の画面録画ソフトを常時起動しておくことも有効です

チャット・ボイスログの保存と証拠価値

テキストチャットのログは比較的保存しやすいですが、ボイスチャットでの暴言や脅迫は、録音しなければ証拠として残りません。

  • チャットログが表示される場合は、スクリーンショット等で画面を保存しておく
  • OBS Studioや録音ソフトを使ってボイスチャットを録音しておく
  • プラットフォームによってはサーバー側にログが保存されている場合もありますが、保存期間に限りがあるため、早めの対応が必要です

第三者(目撃者アバター)の証言は使えるか

メタバース上で被害を目撃した他のユーザーの証言は、補助的な証拠として活用できる可能性があります。
ただし、以下の点に注意が必要です。

  • 目撃者が匿名のアバターのままでは、証拠としての信用性に限界がある
  • 可能であれば、目撃者に自身の連絡先(メールアドレス等)を教えてもらう
  • 目撃者自身にもスクリーンショットや録画の保存をお願いしておく

証拠保全の際の注意点(改ざん・消去リスク)

デジタル証拠は改ざんが容易と見られることもあるため、以下の対策を講じてください。

  • スクリーンショットや録画は原本のまま保存し、加工しない
  • 可能であれば複数のデバイスやクラウドストレージにバックアップを取る
  • プラットフォームの通報機能を利用した場合は、通報日時と内容のスクリーンショットも残す
  • 加害者がアカウントを削除する前に証拠を確保することが重要

【チェックリスト】被害後の初動対応5ステップ

メタバースでハラスメント被害に遭ったら、以下の5ステップを速やかに実行してください。

ステップ具体的なアクション
①証拠を確保スクリーンショット・録画・チャットログを直ちに保存
②加害者情報を記録アバター名・ユーザーID・プラットフォーム名をメモ
③プラットフォームに通報運営の通報機能を使い、通報した事実もスクショで記録
④被害日記をつける日時・場所(ワールド名等)・行為の内容・精神的影響を記録
⑤弁護士に相談証拠と記録を持って、早めに法律の専門家に相談

特にステップ①②は、時間が経つほど難しくなります。被害直後の対応が、その後の法的措置の成否を左右します。

弁護士に相談すべきケース

こんな状況なら迷わず弁護士へ相談を(緊急性の高いケース)

以下のような状況では、できるだけ早い段階で弁護士に相談することを強くお勧めします。

  • 殺害予告・脅迫を受けた(刑事事件の可能性)
  • 個人情報(本名・住所・勤務先等)を晒された
  • ハラスメントが長期間・反復的に続いている
  • 被害によりうつ症状・不眠・PTSD等の精神的症状が出ている
  • 加害者を特定して慰謝料を請求したい
  • プラットフォームの通報では解決しなかった

一方、一度きりの軽微な暴言等については、プラットフォームの通報・ブロック機能で対応できる場合もあります。
ただし、「軽微かどうか」の判断に迷われる場合は、まずは相談だけでもされることをお勧めします。

弁護士に相談するメリットと費用の目安

弁護士に依頼することで得られる主なメリットは以下のとおりです。

  • 法的に有効な証拠の整理・助言を受けられる
  • 発信者情報開示請求を適切に進められる(個人での対応は困難)
  • 加害者との交渉・訴訟手続きを代理してもらえる
  • 精神的な負担を軽減できる

費用は事務所や案件の内容によって異なります。弊所の弁護士費用については、以下のページをご参照ください。

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よくある質問(FAQ)

メタバース内の出来事で本当に慰謝料を請求できますか?アバター同士のことだと「たかがゲーム」と思われて認められない気がするのですが…

はい、慰謝料を請求できる可能性があります。

メタバース上の行為であっても、その操作主体と被害者は現実の人間です。
民法709条(不法行為)に基づく損害賠償請求は、権利侵害が認められれば仮想空間の出来事でも成立し得ます。

ただし、メタバースハラスメントに直接適用された裁判例はまだほとんどなく、慰謝料の金額は被害の程度・継続性・証拠の充実度によって大きく異なります。
具体的な請求の可否や金額の見通しについては、弁護士にご相談ください。

プラットフォームへの通報だけでは不十分ですか?弁護士に頼むほどのことなのか判断がつきません。

通報は重要な第一歩ですが、それだけでは十分でないケースが多いです。
プラットフォームへの通報で期待できるのは、加害者アカウントの警告・制限・凍結(BAN)といった措置であり、被害者への慰謝料の支払いや加害者への法的制裁にはつながりません。

また、加害者がアカウントを変えて再びハラスメントを繰り返すケースもあります。
通報だけで解決しなかった場合や、金銭的な賠償を求めたい場合は、弁護士への相談をお勧めします。

相手が海外に住んでいるみたいなのですが、それでも訴えることはできますか?

原則として、訴えること自体は可能です。
ただし、手続きがより複雑になり、時間とコストがかかる傾向があります。

日本国内から日本国内向けのサービスを通じて被害を受けた場合、日本の裁判所に管轄が認められる可能性があります(民事訴訟法第3条の3第8号等参照)。
一方、判決の執行(実際に慰謝料を回収すること)は相手国の法制度に依存するため、回収が困難になる場合もあります。
海外が関わるケースでは、早い段階で弁護士にご相談ください。

おわりに

メタバースは「法の及ばない空間」ではありません。
アバターを操作しているのは現実の人間であり、仮想空間での行為であっても、権利侵害が認められれば法的責任を問うことが可能です。

現時点ではメタバースハラスメントに直接適用された裁判例はほとんどなく、法的対応には不確実な面もあります。
しかし、既存の法律(民法709条、刑法の名誉毀損罪・脅迫罪等、情報流通プラットフォーム対処法)の枠組みで対処できる場面は確実にあり、泣き寝入りする必要はありません。

被害に遭ったら、まずは証拠を確保し、プラットフォームに通報したうえで、弁護士に相談してください。

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この記事を書いた人

髙田法律事務所の弁護士。東京弁護士会所属 登録番号60427
インターネットの誹謗中傷や離婚、債権回収、刑事事件やその他、様々な事件の解決に携わっている。
最新のビジネスや法改正等についても日々研究を重ねている。

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