【この記事の結論・要約】
- ファスト映画は著作権法違反(翻案権・公衆送信権侵害)であり、実刑判決や5億円の賠償命令が出ています。
- 切り抜き動画も、配信者の許諾がない場合やガイドライン違反の場合は違法となり、刑事・民事の責任を問われます。
- 警察による逮捕やプロバイダからの意見照会書が届いた場合は、直ちに弁護士へ相談し、被害拡大を防ぐ対応が必要です。
はじめに
YouTubeやTikTokなどの動画プラットフォームにおいて、映画を短く編集してストーリーを紹介する「ファスト映画」や、YouTuberやVTuberの配信の面白い部分を抜粋した「切り抜き動画」が人気を博しています。
しかし、これらの動画投稿は、著作権法上の「著作権侵害」に該当するリスクと常に隣り合わせです。
特にファスト映画に関しては、2021年に投稿者が逮捕され、有罪判決や5億円という莫大な損害賠償命令が下されたことで、社会的にも大きな注目を集めました。
「みんなやっているから大丈夫だろう」 「収益化していなければ問題ないはずだ」 「宣伝になるから感謝されるはずだ」
こうした安易な自己判断は極めて危険です。
権利者は、著作権侵害に対して厳格な姿勢を強めており、ある日突然、警察が家に来たり、裁判所から通知が届いたりするケースが現実に増えています。
本稿では、ファスト映画や無許可の切り抜き動画を投稿してしまった方、あるいはプロバイダから「発信者情報開示に係る意見照会書」が届いた方に向けて、著作権侵害の法的根拠、逮捕や刑罰のリスク、そして高額な損害賠償請求への対応について、弁護士が法的な観点から解説します。
第1章:ファスト映画はなぜ「違法」なのか
ファスト映画とは、映画の映像や静止画を無断で使用し、字幕やナレーションをつけて10分程度に短縮し、結末まで明かしてしまう動画のことです。
これは著作権侵害行為に該当します。
1-1. 侵害される主な権利
ファスト映画の作成・公開は、主に以下の権利を侵害します。
- 翻案権 映画のストーリーを要約し、編集を加えて改変する行為は、著作権者の専有する「翻案権」の侵害にあたります。単なる「引用」の範囲を逸脱し、クリエイティブな編集を加えることで、新たな著作物(二次的著作物)を無断で作成したとみなされます。
- 公衆送信権 作成した動画をYouTube等にアップロードし、不特定多数が見られる状態にする行為は、「公衆送信権」の侵害です。
- 著作者人格権(同一性保持権) 著作者の意に反して、作品の内容を勝手に改変・切除することは、「同一性保持権」の侵害となります。
1-2. 「引用」という反論は通じない
著作権法には「引用(第32条)」という例外規定がありますが、ファスト映画がこれに該当する可能性は非常に低いと思われます。
引用が認められるには、「報道・批評などの正当な目的」や「主従関係(自分の文章が主で、引用部分は従)」などの厳格な要件が必要です。
ファスト映画は、映画の映像そのものを見せることが主目的であり、主従関係が逆転しているため、適法な引用とは認められません。
1-3. 2021年の逮捕・有罪事例
2021年6月、宮城県警はファスト映画を無断で公開していた男女3人を著作権法違反の疑いで逮捕しました。
これは全国初の摘発事例です。
その後、仙台地方裁判所は、主犯格に対して懲役2年、執行猶予4年、罰金200万円の有罪判決を言い渡しました(仙台地判令和3年11月16日)。
「いわゆるファスト映画の作成及び公開は、映画の著作権者が正当な対価を収受する機会を失わせ、映画の収益構造を破壊し、ひいては映画文化の発展を阻害しかねないものであり、厳しい非難に値する」などとして、刑事罰が科された重要な事例です。
第2章:切り抜き動画の著作権と「許諾」の有無
YouTuberやVTuberの配信を編集した「切り抜き動画」も、構造としてはファスト映画と同じく、他人の著作物を利用する行為です。
しかし、こちらは「適法」なケースと「違法」なケースが混在しています。
2-1. 著作者(配信者)の許諾があれば適法
多くの人気配信者や事務所(UUUM、ホロライブ、にじさんじ等)は、切り抜き動画に関するガイドラインを制定しています。
「収益の一部を分配する」「申請フォームに登録する」「悪意ある編集をしない」といったルールを守り、許諾を得ていれば適法です。
近年は、MCN(マルチチャンネルネットワーク)を通じて収益分配システムが整備されており、ビジネスとして成立している側面もあります。
2-2. 無許可・ガイドライン違反は違法
一方で、以下のようなケースは著作権侵害となります。
- 無許可での投稿: ガイドラインで禁止されている、または許諾制なのに申請していない場合。
- ガイドライン違反: 「誹謗中傷を含む編集」「有料メンバーシップ限定動画の公開」「ネタバレ禁止区間の公開」など、著作者が定めたルールを破った場合。
これらは、著作権法違反だけでなく、配信者の社会的評価を下げる編集であれば名誉毀損や侮辱にも該当する可能性があります。
第3章:逮捕される基準と刑事罰の重さ
「著作権侵害=即逮捕」ではありませんが、悪質性が高い場合は警察が動きます。
3-1. 著作権法違反の刑罰
著作権(財産権)を侵害した場合の法定刑は以下の通りです。
- 10年以下の拘禁刑(懲役)
- 1000万円以下の罰金
- またはその両方(併科)
これは、窃盗罪(10年以下の懲役)や詐欺罪(10年以下の懲役)と同等かそれ以上に重い刑罰です。
3-2. 逮捕される可能性が高いケース
以下のような事情がある場合、逮捕・起訴のリスクが高まります。
- 営利目的: 広告収益やアフィリエイトで多額の利益を得ている。
- 常習性・反復性: 警告を受けても無視し、大量に投稿を続けている。
- 被害額が甚大: 再生数が数百万回に及び、本家の映画や動画の収益を著しく阻害している。
- 証拠隠滅・逃亡の恐れ: アカウントを削除して逃げようとしたり、PC等の証拠を破壊したりする恐れがある。
3-3. 親告罪と一部非親告罪化
著作権侵害は原則として「親告罪」であり、権利者が告訴しなければ起訴されません。
ただし、海賊版漫画サイトのような「対価を得る目的で」「原作のまま」「権利者の利益を不当に害する」場合には、告訴がなくても起訴できる非親告罪となります。
ファスト映画や切り抜き動画は、編集が加えられているため親告罪の枠組みで扱われることが多いですが、権利者の処罰感情は強く、刑事告訴に踏み切るケースが増えています。
第4章:5億円の賠償命令も|民事上の損害賠償リスク
刑事罰以上に恐ろしいのが、民事上の損害賠償請求です。
4-1. 損害額の計算方法
著作権侵害による損害賠償額は、通常以下のいずれかの方法で計算されます(著作権法114条)。
- 譲渡数量基準: (侵害動画の再生数)×(正規版の単価)×(権利者の利益率)
- 侵害者の利益額: 投稿者が得た広告収益の全額。
- ライセンス料相当額: 正規に利用許諾を得た場合に支払うべき使用料。
4-2. ファスト映画に対する5億円の判決
2022年11月17日、東京地方裁判所は、ファスト映画を投稿していた男女2人に対し、大手映画会社13社へ総額5億円を支払うよう命じました(東京地判令和4年11月17日)。
この判決では、損害額の算定にあたり、以下の計算式が採用されたと言われています。
- (再生回数)×(再生数1回当たり200円)= 損害額
裁判所は「ファスト映画を見た人は、もう本編を見なくなる(レンタルしなくなる)」として、映画1本分のレンタル料金(1作品当たり400円~500円)やプラットフォーム手数料(YouTubeは30%)、その他の事情を考慮して、再生数 1回当たり200円が「著作権…の行使につき受けるべき金銭の額に相当する額」(著作権法114条3項)に相当すると認定しました。
もしあなたの動画が10万回再生されていれば、それだけで数千万円単位の請求を受けるリスクがあるのです。
第5章:ある日届く「意見照会書」への対応
民事での損害賠償請求の場合、まずはプロバイダから郵便物が届くケースが一般的です。
5-1. 発信者情報開示に係る意見照会書とは
権利者が、投稿者を特定するためにプロバイダ(通信会社)に対して契約者情報の開示を求めた際、プロバイダから契約者(あなた)へ送られてくる確認書類です。
「あなたが著作権侵害をしたとして、情報の開示を求められていますが、開示に同意しますか?」という内容です。
5-2. 無視してはいけない
「怖いから見なかったことにしよう」と無視してはいけません。
回答書を提出しない場合、プロバイダは「反論なし」として、権利者の主張通りに情報を開示する可能性が高くなります。
5-3. 「同意」か「拒否」か
- 心当たりがある場合: 早期の解決(示談)を目指すなら、開示に同意し、弁護士を通じて権利者に謝罪と賠償の申し入れを行うことが賢明な場合があります。
- 心当たりがない場合: 家族が勝手にやった、Wi-Fiをタダ乗りされた等の場合は、開示を拒否し、その理由を法的に主張する必要があります。
この判断は極めて専門的であるため、回答書を書く前に弁護士に相談することを強く推奨します。
第6章:加害者がとるべき対処法
もし、違法な動画を投稿してしまっている場合、今すぐとるべき行動は以下の通りです。
6-1. 動画の削除とアカウントの停止
該当する動画をすべて削除してください。
侵害状態を継続させることで、損害額を増やし、悪質性を高めてしまいます。
6-2. 証拠の保存
削除する前に、ご自身の管理画面のスクリーンショット(再生数、収益額、投稿日時など)を保存してください。
後の示談交渉において、「実際の収益はこれだけだった」「再生数はこれだけだった」と適正な損害額を主張するための材料になります。
これがないと、権利者側の推計(過大な請求)に反論できなくなります。
6-3. 弁護士への相談
警察からの呼び出しや、意見照会書が届いた段階で、直ちに弁護士に相談してください。
- 刑事弁護: 逮捕の回避、不起訴処分の獲得に向けた活動、被害者との示談交渉。
- 民事弁護: 損害賠償額の減額交渉。5億円のような莫大な請求に対し、現実的な支払い能力や、実際の侵害の程度(再生単価の反論など)を主張し、和解を目指します。
おわりに
ファスト映画や無許可の切り抜き動画は、軽い気持ちで始めたとしても、結果として人生を棒に振るほどの法的責任を負う可能性があります。
「逮捕」や「数千万円〜数億円の賠償」は、決して他人事ではありません。
もし、心当たりがある場合や、すでにプロバイダから通知が来ている場合は、早急に対応を検討する必要があります。
自分一人で抱え込まず、専門家である弁護士にご相談ください。
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