どのような行為が「ストーカー」になるのか-ストーカー規制法の対象行為と罰則

目次

はじめに

特定の個人に対する恋愛感情や好意、あるいはそれが満たされなかったことへの怨恨(えんこん)から、つきまといや待ち伏せ、執拗な連絡といった迷惑行為を繰り返す「ストーカー行為」は、被害者の日常生活の平穏を著しく害し、時には生命・身体に危険を及ぼす深刻な社会問題です。

このような行為を規制し、被害者を保護するために制定されたのが「ストーカー行為等の規制等に関する法律」(通称:ストーカー規制法)です。
この法律は、単に相手に不快感を与える行為を超えて、どのような行為が法的な規制対象となり、どのような場合に犯罪として処罰されるのかを具体的に定めています。

しかし、「しつこく連絡するだけでストーカーになるのか」「どこからが法に触れる行為なのか」といった疑問を持つ方も少なくありません。
自分の行動がストーカーに当たるのか、心配になる方もいるかもしれません。

本稿では、ストーカー規制法がどのような行為を規制の対象としているのか、その中心的な概念である「つきまとい等」と「ストーカー行為」の定義、そしてそれぞれに科される可能性のある罰則等について解説します。

ストーカー規制法における2つの概念

ストーカー規制法を理解する上で、まず押さえるべきは「つきまとい等」「ストーカー行為」という2つの概念です。
この2つは、法律上明確に区別されており、規制や罰則の対象となる段階が異なります。

  • 「つきまとい等」: ストーカー規制法第2条第1項に列挙されている、特定の8つの類型の迷惑行為を指します。これらの行為は、それ自体が直ちに処罰の対象となるわけではありませんが、警察による警告や禁止命令等の対象となり得ます。いわば、ストーカー行為の「構成要素」となる行為群です。
  • 「ストーカー行為」: 上記の「つきまとい等」に該当する行為や、位置情報無承諾取得等(相手の承諾を得ずに、その位置情報を知るための行為)を、同一の者に対し反復して行うことで、相手に不安を覚えさせるようなものを指します(同法第2条第3項)。この「ストーカー行為」に至ると、それ自体が犯罪として刑事罰の対象となります。

つまり、法律はまず「つきまとい等」という個別の迷惑行為を定義し、それが繰り返され、相手に不安を与えるレベルに達した場合に「ストーカー行為」という犯罪が成立する、という二段階の構造をとっています。

「つきまとい等」に該当する具体的行為

ストーカー規制法第2条第1項は、「つきまとい等」として以下の8つの行為類型を具体的に定めています。
これらの行為は、特定の者に対する恋愛感情その他の好意の感情又はそれが満たされなかったことに対する怨恨の感情を充足する目的で行われる場合に規制の対象となります。

ストーカー行為等の規制等に関する法律 第2条第1項

この法律において「つきまとい等」とは、特定の者に対する恋愛感情その他の好意の感情又はそれが満たされなかったことに対する怨恨の感情を充足する目的で、当該特定の者又はその配偶者、直系若しくは同居の親族その他当該特定の者と社会生活において密接な関係を有する者に対し、次の各号のいずれかに掲げる行為をすることをいう。

以下、各号に定められた行為を具体的に見ていきます。

1. つきまとい、待ち伏せ、押しかけ、うろつき等(第1号)

一 つきまとい、待ち伏せし、進路に立ちふさがり、住居、勤務先、学校その他その通常所在する場所(以下「住居等」という。)の付近において見張りをし、住居等に押し掛け、又は住居等の付近をみだりにうろつくこと。

物理的な接近や監視に関連する行為です。

  • つきまとい: 相手の後を執拗につけ回す行為。
  • 待ち伏せ: 相手が現れるのを待ち構える行為(自宅前、駅、職場など)。
  • 進路妨害: 相手の行く手に立ちふさがる行為。
  • 見張り: 自宅や職場、学校などの付近で相手の様子をうかがう行為。
  • 押しかけ: 相手の自宅や職場などに、望まれていないにもかかわらず訪問する行為。
  • うろつき: 正当な理由なく、相手の自宅などの付近を徘徊する行為。

2. 監視していると思わせるような事項の告知等(第2号)

二 その行動を監視していると思わせるような事項を告げ、又はその知り得る状態に置くこと。

相手に「見られている」「行動を把握されている」と感じさせ、不安を与える行為です。

  • 「今日は〇〇にいただろう」「△△さんと会っていたね」など、相手の行動を知っていることを告げる。
  • 相手しか知りえないはずの自宅内の様子などを仄めかす。
  • SNSなどで相手の行動に関する投稿をする(例:「今日の服装、似合ってたよ」)。

3. 面会、交際その他の義務のないことを行うことの要求(第3号)

三 面会、交際その他義務のないことを行うことを要求すること。

拒否されているにもかかわらず、面会や交際をしつこく要求する行為です。金銭の要求や、性的関係の要求なども含まれます。

  • 復縁を迫る連絡を繰り返す。
  • プレゼントを受け取るよう執拗に要求する。
  • 義務のない謝罪や説明を求める。

4. 著しく粗野又は乱暴な言動(第4号)

四 著しく粗野又は乱暴な言動をすること。

相手に対して、乱暴な言葉遣いや態度で不安や恐怖を与える行為です。

  • 大声で怒鳴りつける、罵倒する。
  • 自宅のドアを激しく叩く、蹴る。
  • 近くで物を叩き壊すなど、威嚇的な態度をとる。

5. 無言電話、連続した電話・文書・FAX・電子メール・SNSメッセージ等(第5号)

五 電話をかけて何も告げず、又は拒まれたにもかかわらず、連続して、電話をかけ、文書を送付し、ファクシミリ装置を用いて送信し、若しくは電子メールの送信等をすること。

通信手段を用いた執拗な連絡行為です。
2016年の法改正により、電子メールだけでなく、ブログやSNS(X(旧Twitter)、LINE、Instagramなど)のメッセージ送信、ウェブサイトへのコメント書き込みなども対象となりました(第2条2項)。

  • 相手が出るまで何度も電話をかける、留守番電話に大量のメッセージを残す。
  • 拒否されているのに、手紙やメール、SNSのDMなどを繰り返し送る。
  • 相手のブログやSNSの投稿に、執拗にコメントを書き込む。

6. 汚物、動物の死体等の送付等(第6号)

六 汚物、動物の死体その他の著しく不快又は嫌悪の情を催させるような物を送付し、又はその知り得る状態に置くこと。

著しい不快感や嫌悪感を与える物を送りつける、あるいは相手が見える場所に置く行為です。

  • ゴミや排泄物、動物の死骸などを自宅に送りつける、玄関先に置く。

7. 名誉を害する事項の告知等(第7号)

七 その名誉を害する事項を告げ、又はその知り得る状態に置くこと。

相手の名誉や社会的信用を傷つけるような情報を告げる、あるいはインターネット上などに公開する行為です。
内容が真実であるか虚偽であるかを問いません。

  • 相手のプライベートな情報や、誹謗中傷する内容を、本人のみならず、職場や学校、家族などに告げる。
  • SNSやインターネット掲示板に、相手を中傷する書き込みをする。

8. 性的羞恥心を害する事項の告知等又は性的画像等の送付等(第8号)

八 その性的羞恥心を害する事項を告げ若しくはその知り得る状態に置き、その性的羞恥心を害する文書、図画、電磁的記録(電子的方式、磁気的方式その他人の知覚によっては認識することができない方式で作られる記録であって、電子計算機による情報処理の用に供されるものをいう。以下この号において同じ。)に係る記録媒体その他の物を送付し若しくはその知り得る状態に置き、又はその性的羞恥心を害する電磁的記録その他の記録を送信し若しくはその知り得る状態に置くこと。

わいせつな言葉を告げたり、わいせつな画像・動画(いわゆるリベンジポルノを含む)を送りつけたりする行為です。2016年の法改正で、電磁的記録(データ)の送信も対象となりました。

  • 卑猥な言葉を告げる、わいせつな内容の手紙やメールを送る。
  • わいせつな画像や動画をSNSのDMなどで送りつける。
  • 相手の性的画像をインターネット上に公開する(リベンジポルノ防止法にも抵触します)。

以上の8つの類型のいずれかに該当する行為が、「つきまとい等」となります。これらの行為は、被害者本人だけでなく、その配偶者、親子、同居の家族、交際相手、職場の上司・同僚など、被害者と社会生活上密接な関係にある人物に対して行われた場合も、規制の対象となります。

「ストーカー行為」の成立要件

「つきまとい等」が繰り返され、一定の要件を満たすと、「ストーカー行為」という犯罪が成立します。

3-1. 法律の条文

ストーカー行為は、ストーカー規制法第2条第4項で定義されています。

ストーカー行為等の規制等に関する法律 第2条第4項

この法律において「ストーカー行為」とは、同一の者に対し、つきまとい等(第一項第一号から第四号まで及び第五号(電子メールの送信等に係る部分に限る。)に掲げる行為については、身体の安全、住居等の平穏若しくは名誉が害され、又は行動の自由が著しく害される不安を覚えさせるような方法により行われる場合に限る。)又は位置情報無承諾取得等を反復してすることをいう。

3-2. 成立要件の具体的な検討

  • ① 同一の者に対し: ストーカー行為が成立するためには、つきまとい等の対象が、特定の同一人物(またはその関係者)であることが必要です。不特定の相手に対して無差別に迷惑行為を行う場合は、ストーカー行為には該当しません。
  • ② つきまとい等を反復してすること: 「反復して」とは、繰り返して行うことを意味します。一度きりの行為ではストーカー行為にはなりません。どの程度の回数や期間があれば「反復」と認められるかは、行為の態様や悪質性によって個別に判断されますが、短期間に複数回のつきまとい行為や、多数回の電話・メッセージ送信などがあれば、反復性が認められる可能性が高いです。
  • ③ 不安を覚えさせるような方法(一部の行為類型について): 第1項第1号から第4号(つきまとい、監視告知、面会要求、粗野な言動)および第5号のうち電子メール・SNS等の送信については、単に繰り返されるだけでなく、その方法が「身体の安全、住居等の平穏若しくは名誉が害され、又は行動の自由が著しく害される不安を覚えさせるような方法」で行われる必要があります。これは、行為の客観的な態様から、被害者が身体的な危害や私生活への侵入、名誉毀損、行動の制約といった具体的な不安を感じるようなやり方であることを意味します。例えば、深夜に執拗にインターホンを鳴らす、GPS等で常に位置情報を把握していることを仄めかす、職場に押しかけて業務を妨害するなど、客観的に見て被害者が強い恐怖や不安を感じるような方法がこれに該当します。なお、第5号の電話・FAX・文書送付、および第6号から第8号(汚物送付、名誉毀損、性的羞恥心侵害)については、行為自体が強い精神的苦痛を与えるものであるため、この「不安を覚えさせるような方法」という要件は課されておらず、反復性があればストーカー行為が成立し得ます。

3-3. 「ストーカー行為」の判断

最終的に「ストーカー行為」に該当するか否かは、上記の要件を総合的に判断して決定されます。
「つきまとい等」に該当する行為が、特定の相手に対して、恋愛感情等の目的で、反復して行われ、かつ(行為類型によっては)不安を覚えさせるような方法で行われている場合に、ストーカー行為という犯罪が成立します。

科される刑罰と法的手続き

ストーカー規制法は、「つきまとい等」の段階と、「ストーカー行為」に至った段階で、異なる法的措置と罰則を定めています。

4-1. 「つきまとい等」に対する措置と罰則

  • 警告(第4条): 被害者からの申し出に基づき、警察本部長等(警察署長経由)が、加害者に対して「つきまとい等」を更に反復して行ってはならない旨を警告することができます。これは行政的な措置であり、これ自体に罰則はありませんが、加害者に対する公的な注意喚起となります。
  • 禁止命令等(第5条): 警告に従わず、さらに「つきまとい等」を行うおそれがあると認められる場合、またはGPS等を用いた位置情報無承諾取得等の行為が行われた場合、被害者の申し出または職権により、都道府県公安委員会が加害者に対して禁止命令等を発することができます。 この命令では、「つきまとい等」および位置情報無承諾取得等を更に反復して行わないこと、場合によっては被害者の付近に接近しないことなどが命じられます。
  • 禁止命令等違反罪(第19条): この禁止命令等に違反して、さらに「つきまとい等」または位置情報無承諾取得等を行った場合、2年以下の拘禁刑または200万円以下の罰金が科されます。つまり、「つきまとい等」の段階であっても、禁止命令が出された後にそれを無視して行為を続ければ、犯罪として処罰されることになります。

4-2. 「ストーカー行為」に対する罰則

ストーカー行為そのものが犯罪として処罰されます。

  • ストーカー行為(第18条): ストーカー行為をした者は、1年以下の拘禁刑または100万円以下の罰金に処せられます。
  • 禁止命令等に違反してストーカー行為をした場合(第19条第2項): 禁止命令等が出されているにもかかわらず、それに違反してストーカー行為を行った場合は、上記のストーカー行為罪よりも重く処罰され、2年以下の拘禁刑または200万円以下の罰金が科されます。

4-3. 被害者による告訴

ストーカー行為罪および禁止命令等違反罪は、「親告罪」ではありません。
したがって、被害者からの告訴がなくても、警察が捜査を行い、検察官が起訴することが可能です。
しかし、事件の性質上、被害者の処罰意思は捜査や起訴の判断において重要な要素となるため、被害者が刑事処罰を望む場合には、警察に告訴状を提出することが、手続きを確実に進める上で有効です。

おわりに

ストーカー規制法は、恋愛感情等に基づく執拗な迷惑行為に対し、段階的な法的措置を定めています。
個別の「つきまとい等」行為に対しては、まず警察による警告や公安委員会による禁止命令等によって行為の停止を求め、それに違反した場合に罰則が科されます。
そして、これらの「つきまとい等」が反復され、被害者に不安を与える「ストーカー行為」に至った場合には、それ自体が直接の処罰対象となります。

SNSの普及により、つきまとい等の手段は多様化・巧妙化していますが、法律も改正を重ね、電子メールやSNSメッセージ、GPSによる位置情報の無承諾取得なども規制対象に含めるようになりました。
どのような行為が「つきまとい等」に該当し、どのような場合に「ストーカー行為」として犯罪になるのか、その法的な境界線を理解することは、被害者にとっても、また、意図せず加害者となってしまうことを避けるためにも重要です。
もし、ご自身がストーカー被害に遭っている、あるいは自身の行為がストーカー規制法に抵触するのではないかと不安に感じている場合は、一人で悩まず、警察の相談窓口や弁護士などの専門家に相談し、適切なアドバイスを受けることが肝要です。

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この記事を書いた人

髙田法律事務所の弁護士。
インターネットの誹謗中傷や離婚、債権回収、刑事事件やその他、様々な事件の解決に携わっている。
最新のビジネスや法改正等についても日々研究を重ねている。

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