盗撮(性的姿態等撮影)未遂事件の被疑者に対する接見等禁止の裁判についての最高裁の判断

目次

はじめに

タイトルの事件の特別抗告について、興味深い最高裁の判断がありました(最高裁第三小法廷決定 令和7年8月14日 https://www.courts.go.jp/app/hanrei_jp/detail2?id=94396)。
ただ、タイトルだけでは何が何だかわかりづらいため、前提知識等から解説します。

逮捕・勾留

何か犯罪行為をしたと疑われて逮捕された後、検察官が勾留請求をし、裁判官がこれを認めると勾留されてしまいます。
勾留が認められるための要件は以下のとおりです。
①罪を犯したことを疑うに足りる相当な理由があること(刑事訴訟法60条1項柱書)
②次のいずれかに該当するとき(刑事訴訟法60条1項各号)
⑴ 定まった住居を有しないとき
⑵ 罪証を隠滅すると疑うに足りる相当な理由があるとき
⑶ 逃亡し又は逃亡すると疑うに足りる相当な理由があるとき

勾留が認められると、延長も含めて最大20日間身体拘束されることになります。

接見禁止

この際、検察官の請求(又は職権)により、接見禁止(刑事訴訟法81条)というものがつけられることがあります。
接見禁止の決定がなされると、勾留されている人は、弁護人等以外とは面会をすることができなくなります。

接見禁止が認められるためには、「逃亡し又は罪証を隠滅すると疑うに足りる相当な理由があるとき」という要件を満たす必要があります(刑事訴訟法81条)。
勾留されている人(被疑者)は、罪証隠滅(証拠隠滅)や逃亡したりしないように身体拘束されているわけです。
そのため、勾留をするだけではなく、他者との面会を禁止しなければ罪証隠滅や逃亡を防げないという場合に、接見禁止がつけられることになります。
例えば、共犯者がいるような事件、特に、その共犯者や関係者がまだ捕まっていないような事件では、ほとんどのケースで接見禁止がつけられます。

…というのが建前なのですが、現実には、割とカジュアルに接見禁止がつきます。
共犯者がいない単独での事件でも接見禁止がつくケースは多々あります。
よく言われるのが、「知人や家族に依頼して重要な証拠を処分させる可能性がある」「知人や家族に依頼して被害者に脅迫等をする(証言を捻じ曲げる)可能性がある」などです。
実際にそのような可能性があるケースもないことはないのですが、そんなことを言い出せば、理由など無限に作り出せます。
一方で、被疑者が仕事をしていたり家族がいる場合、家族等と面会して今後のことについて話し合うことは非常に重要です。

このようなケースでも、後述する一部解除の申立てをすることで、家族との面会は許可されることが多いです。
というか、裁判官も、「検察官の請求があったからとりあえず接見禁止もつけとこう。弁護人から一部解除の申立てがあったらそこだけ解除すればいいや。」と考えて安直に接見等禁止の決定を出しているのではないでしょうか。知らんけど。

接見等禁止決定に対する対応

接見禁止がつけられてしまった場合に対する対応はいくつかあります。

1.準抗告(抗告)
まず、接見等禁止決定に対する準抗告という申し立てをする方法があります(刑事訴訟法429条1項2号)。
これは、裁判官の決定に対して取消・変更を求める手続です。
冒頭に挙げた事件でも、この方法を採っています。
なお、起訴後第1回公判までは準抗告、それ以後は抗告という形になります。

準抗告が認められず棄却されてしまった場合、この抗告裁判所の判断(刑事訴訟法427条)に対しては、特別抗告(刑事訴訟法433条)という不服申し立てをすることができます。
申立理由は憲法違反や判例違反に限られます(刑事訴訟法433条、405条)が、例外(刑事訴訟法406条や411条)もあります。

2.一部解除申立て
次に、接見等禁止の一部解除を申し立てるという方法があります。
これは、裁判官に対して、接見等禁止のうちの一部を解除してほしいと職権発動を促すというものです。
実務では、「家族等に対する接見禁止を解除してほしい」と申し立てることが多いです。
共犯者がいるような事件でも、事件の内容的に家族は無関係であるようなものでは、解除してもらえることが多いです。

他の地域ではわかりませんが、私が活動している東京では、裁判所から本人確認のために身分証の写しなどを出すように言われるため、あらかじめ準備しておくとよいでしょう。
うろ覚えですが、単に交際しているというだけでは解除してくれなかったものの、同居している事実婚の人は解除されたことがありました(実際に同居していることがわかるように、住所地が分かる身分証なども添付資料につけた)。
とはいえ、ここに明確な線引きがあるわけではなく、事案との関係でどこまで認められるかの判断になると思います。

今回の事件について

今回の事件は、「アパートに居住する女性に対し、同アパートの浴室の窓からスマホを浴室内に向けて差し入れ、女性の性的な部位等を撮影しようとしたが、女性に気付かれた」ということで勾留され、接見禁止がついたというものです。
証拠等を確認しているわけではないので詳細まではわかりませんが、おそらく共犯者等のいない単独での犯行で、証拠は防犯カメラや被害女性の証言などが考えられます。
性的な部位は撮影できていないにせよ、被疑者がスマホで何らかの写真撮影をしていたのであれば、それも証拠になる可能性があります。

これについて弁護人が準抗告をしたところ、「本件被疑事実の性質、内容、被疑者の供述状況及び供述内容からすれば、被疑者が、罪体や重要な情状事実について、関係者と通謀するなどして罪証を隠滅すると疑うに足りる相当な理由があり、これを防止するためには、刑訴法39条1項に規定する者以外の者との接見等を禁止する必要があると認められるから、被疑者の母を含めて接見等を禁止した原々裁判の判断は正当である」として棄却されたようです。
要するに、「関係者と協力して証拠隠滅をする可能性があるから、お母さんも含めて弁護人以外とは面会させませんよ」ということです。

このような事案ですと、防犯カメラなどは警察がすぐに証拠集めをするため、被疑者が誰かに頼んでこれを消させることは困難です。
また、被疑者のスマホ等は、逮捕時に警察に押収されているでしょうから、これを触って証拠隠滅することも困難でしょう。
一つ考えられるとすれば、誰かに頼んで被害者に脅しをかけて、被害証言をしないようにさせる、あるいは証言をひっくり返させるということですが、これは現実的には中々ありません。
あくまでも予想でしかありませんが、おそらく被疑者は、弁護人を通じて被害者に対して謝罪して示談をしようとしている(あるいは示談している)でしょうし、そのような状況の者が、被害者を脅迫するとは考えにくいです(例外はあるんでしょうが。)。
他にも、既に被害者の供述調書が作成されているのであれば、(公判で証言を変える可能性があるとはいえ)事件直後の重要な供述の証拠は既に警察が持っており、被疑者がこれを隠滅することは困難だといえます。

最高裁の判断

これに対して、最高裁は、「本件は、事案の性質、内容をみる限り、被疑者が被疑事実を否認しているとしても、勾留に加えて接見等を禁止すべき程度の罪証隠滅のおそれがあるとはうかがわれない事案であるから、原審は、原々裁判が不合理でないかどうかを審査するに当たり、被疑者が接見等により実効的な罪証隠滅に及ぶ現実的なおそれがあることを基礎付ける具体的事情が一件記録上認められるかどうかを調査し、原々裁判を是認する場合には、そのような事情があることを指摘する必要があったというべきである」として、原決定を取り消して差し戻しました。
原決定は、「関係者と通謀するなどして罪証を隠滅すると疑うに足りる相当な理由があり」などとしていましたが、最高裁は、「被疑者が接見等により実効的な罪証隠滅に及ぶ現実的なおそれがあることを基礎付ける具体的事情が一件記録上認められるかどうかを調査し、原々裁判を是認する場合には、そのような事情があることを指摘する必要があった」といっています。
要するに、証拠隠滅する可能性があるといえるような具体的事情があるかを調査し、指摘する必要があったということです。
本件では、具体的にどのような関係者がいて、その関係者がどのような方法で証拠隠滅をする可能性があるのか、などについてきちんと指摘する必要があったということですね。

また、そもそも、「被疑者が被疑事実を否認しているとしても、勾留に加えて接見等を禁止すべき程度の罪証隠滅のおそれがあるとはうかがわれない事案」としています。
通常、否認事件(犯罪行為をしたかどうかなどについて争っている事件)は、争っているということもあり、証拠隠滅の可能性が高いなどと判断されることが多いです。
しかし、この事件では、否認しているとしても、身体拘束に加えて面会禁止することまで必要な事案とはいえないとしています。
この点も非常に重要なところです。

接見等禁止に関しては、過去にも問題となった事例(例えば、最高裁第三小法廷決定平成31年3月13日など)はあったのですが、この事案も含めて、刑事実務に影響を与えるかもしれません。

  • URLをコピーしました!
  • URLをコピーしました!

この記事を書いた人

髙田法律事務所の弁護士。
インターネットの誹謗中傷や離婚、債権回収、刑事事件やその他、様々な事件の解決に携わっている。
最新のビジネスや法改正等についても日々研究を重ねている。

目次