住居侵入して窃盗をした場合に成立する犯罪と科される刑罰

目次

はじめに

人の家に侵入して物を盗む行為は、複数の犯罪に該当する可能性があります。
本稿では、そのような場合に成立する主な犯罪、科される刑罰等について解説します。

成立する主な犯罪

他人の住居に無断で立ち入り、財物を窃取する行為は、主に「窃盗罪」と「住居侵入罪」という2つの異なる犯罪を同時に成立させます。
これらは、保護しようとする法益(法律によって守られるべき利益)が異なるため、それぞれ独立して評価されます。

1-1. 窃盗罪(刑法第235条)

窃盗罪は、財産犯の中核をなす犯罪であり、他人の財物を盗む行為を処罰の対象とします。

刑法 第235条

他人の財物を窃取した者は、窃盗の罪とし、十年以下の拘禁刑又は五十万円以下の罰金に処する。

  • 成立要件 窃盗罪が成立するためには、以下の要素が必要です。
    1. 他人の財物であること: 財物とは、有体物(形のある物)を指します。現金、貴金属、家電製品はもちろん、電気も財物とみなされます(刑法第245条)。その財物が、自己の所有物ではなく、他人が占有(事実上支配している状態)しているものであることが要件です。
    2. 窃取すること: 「窃取」とは、占有者の意思に反して、その財物の占有を自己または第三者の下に移す行為を指します。暴行や脅迫を用いず、ひそかに盗み取ることが典型例です。
    3. 不法領得の意思: 窃取した財物を、権利者を排除して自己の所有物であるかのように振る舞い、その経済的な用法に従って利用・処分する意思のことです。一時的に使用して後で返すつもりであった場合(使用窃盗)は、原則として不可罰ですが、自動車など価値の高いものを長時間使用した場合などは、例外的に窃盗罪が成立することがあります。
  • 刑罰 窃盗罪の法定刑は、10年以下の拘禁刑または50万円以下の罰金です。初犯で被害額も僅少な万引きのようなケースでは罰金刑となることもありますが、住居に侵入して行われる窃盗(侵入盗)は、犯行態様が悪質であると評価されるため、初犯であっても拘禁刑(執行猶予を含む)となる可能性が高いです。

1-2. 住居侵入罪(刑法第130条)

住居侵入罪は、個人の私生活の平穏を保護することを目的とする犯罪です。

刑法第130条

正当な理由がないのに、人の住居若しくは人の看守する邸宅、建造物若しくは艦船に侵入し、又は要求を受けたにもかかわらずこれらの場所から退去しなかった者は、3年以下の拘禁刑又は10万円以下の罰金に処する。

  • 成立要件
    1. 人の住居などであること: 「住居」とは、人が日常生活を送るために起臥寝食(きがしんしょく)する場所を指します。一戸建てやマンションの一室などが典型です。人が居住していなくても、施錠管理されている「邸宅」や「建造物」(事務所、店舗、倉庫など)への侵入も処罰の対象となります。
    2. 侵入すること: 「侵入」とは、住居権者(居住者や管理者)の意思に反して立ち入ることを意味します。鍵のかかっていない玄関から無断で入ることはもちろん、窓ガラスを割って入るなど、物理的な障害を乗り越えて立ち入る行為も含まれます。また、当初は住人の許可を得て家に入った場合でも、住人から「出ていってください」と退去を求められたにもかかわらず、居座り続ける行為(不退去罪)も本条によって処罰されます。
    3. 正当な理由がないこと: 立ち入ることに法的に正当化される理由がないことが必要です。物を盗む目的での立ち入りに正当な理由がないことは明らかです。
  • 刑罰 住居侵入罪の法定刑は、3年以下の拘禁刑または10万円以下の罰金です。

1-3. 窃盗罪と住居侵入罪の関係性

人の家に侵入して物を盗む行為は、窃盗罪と住居侵入罪の両方の成立要件を満たします。
このように、一つの行為が複数の犯罪に該当する場合や、ある犯罪の手段として別の犯罪が行われる場合、法律上は「牽連犯(けんれんぱん)」として扱われます。

  • 牽連犯(刑法第54条第1項後段): 牽連犯とは、犯罪の手段または結果である行為が、他の罪名に触れる場合を指します。住居に侵入する行為(住居侵入罪)は、物を盗むという目的(窃盗罪)を達成するための「手段」であるため、両者は牽連犯の関係に立ちます。
  • 処罰: 牽連犯の場合、成立した複数の犯罪のうち、最も重い刑が定められている犯罪の刑罰によって処断されます。窃盗罪(10年以下の拘禁刑)と住居侵入罪(3年以下の拘禁刑)を比較すると、窃盗罪の方が重いため、このケースでは窃盗罪の法定刑の範囲内(10年以下の懲役)で刑罰が科されることになります。ただし、これはあくまで科される刑罰の上限が窃盗罪のそれになるというだけであり、住居侵入という悪質な手段が用いられた事実は、量刑を判断する際に、被告人にとって極めて不利な情状として考慮されます。

より重い犯罪が成立するケース

侵入や窃取の態様によっては、単なる窃盗罪・住居侵入罪にとどまらず、さらに重い犯罪が成立することがあります。

2-1. 強盗罪(刑法第236条)

財物を盗む際に、暴行または脅迫を用いた場合、窃盗罪ではなく強盗罪が成立します。

第236条

暴行又は脅迫を用いて他人の財物を強取した者は、強盗の罪とし、五年以上の有期拘禁刑に処する。
2 前項の方法により、財産上不法の利益を得、又は他人にこれを得させた者も、同項と同様とする。

  • 成立要件: 「暴行・脅迫」は、相手の反抗を抑圧するに足りる程度のものを指します。住居に侵入し、家人に発見された際に、相手を殴って制圧したり、ナイフを突き付けて「騒ぐな」と脅したりして財物を奪った場合などが典型です。また、窃盗犯が財物を盗んだ後に、それを取り返そうとする被害者などから逃れるために暴行・脅迫を加えた場合も「事後強盗罪」(刑法第238条)として、強盗罪と同様に処罰されます。
  • 刑罰: 強盗罪の法定刑は「5年以上の有期拘禁刑」であり、窃盗罪とは比較にならないほど重い犯罪です。執行猶予が付される可能性は極めて低く、初犯であっても実刑判決となるのが通常です。さらに、強盗の際に相手に怪我をさせれば「強盗致傷罪」(無期または6年以上の拘禁刑)、死亡させれば「強盗致死罪」(死刑または無期拘禁刑)という、さらに重い罪に問われます。

2-2. 窃盗罪の常習犯に対する加重処罰

過去10年以内に窃盗罪などで3回以上、懲役6ヶ月以上の刑の執行を受けた者が、常習として窃盗を行った場合には、「盗犯等ノ防止及処分ニ関スル法律」により、刑罰が加重されます。

  • 常習累犯窃盗: この法律が適用されると、法定刑は「3年以上の有期拘禁刑」となります。通常の窃盗罪よりも下限が引き上げられており、常習的な窃盗犯に対しては、より厳しい処罰がなされることになります。

刑事手続きの流れと処分の見通し

侵入盗の容疑で逮捕された場合、以下のような刑事手続きが進められます。

3-1. 逮捕後の捜査

逮捕されると、警察署の留置施設で身柄を拘束され、取調べを受けます。
逮捕後48時間以内に検察官に送致され、検察官は24時間以内に勾留請求を行うか判断します。
勾留が決定されると、原則10日間、延長を含めて最大20日間、身体拘束が続く中で捜査が行われます。

3-2. 起訴・不起訴の判断

検察官は、捜査の結果を踏まえ、被疑者を起訴するか否かを最終的に判断します。
侵入盗は悪質な犯罪とみなされるため、証拠が十分にある場合は、起訴される可能性が非常に高いです。
しかし、初犯であり、被害額が僅少で、かつ被害者との間で示談が成立し、被害弁償が完了している場合には、検察官が情状を酌量し、不起訴処分(起訴猶予)とする可能性もゼロではありません。

3-3. 刑事裁判と量刑

起訴された場合、公開の法廷で刑事裁判が開かれます。
裁判官は、以下の要素を総合的に考慮して、最終的な刑罰の重さ(量刑)を決定します。

  • 犯行態様の悪質性: 侵入の手段(無施錠か、窓ガラスを破壊したかなど)、計画性の有無、犯行時間(昼間か、家人が在宅中の夜間かなど)。
  • 被害の大きさ: 盗まれた金品の総額。
  • 被害弁償と示談の有無: 被害者に対して被害を弁償し、示談が成立しているか否かは、量刑を決定する上で最も重要な情状の一つです。真摯な反省と被害回復の努力は、被告人に有利に働きます。
  • 前科・前歴: 同種の前科がある場合は、更生の意欲が低いと判断され、厳しい処罰が科される傾向にあります。
  • 犯行動機: 動機に酌むべき事情があるか(生活苦など)。
  • 被告人の反省の程度: 法廷での態度や、具体的な更生計画の有無。

侵入盗の事案では、初犯で被害弁償が済んでいれば、執行猶予付きの判決が下されることも少なくありません。
しかし、被害額が大きい、犯行態様が悪質、あるいは同種前科があるといった場合には、実刑判決となる可能性が高まります。

おわりに

人の家に侵入して物を盗む行為は、窃盗罪と住居侵入罪という2つの犯罪を同時に成立させ、牽連犯として、より重い窃盗罪の法定刑の範囲で処罰されます。
その法定刑は「10年以下の拘禁刑または50万円以下の罰金」ですが、住居への侵入という行為の悪質性から、初犯であっても懲役刑が選択される可能性が高いです。
さらに、犯行の際に暴行・脅迫が伴えば、格段に重い強盗罪が成立します。

刑事手続きにおいては、被害者との示談および被害弁償の有無が、不起訴処分の可能性や最終的な量刑を大きく左右します。
もし、このような行為に関与してしまった場合、または家族が逮捕されてしまった場合には、速やかに弁護士に相談し、被害者への謝罪と被害回復に向けた対応を早期に開始することが、自らの刑事責任を軽減するために取りうる最も重要な行動となります。

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この記事を書いた人

髙田法律事務所の弁護士。
インターネットの誹謗中傷や離婚、債権回収、刑事事件やその他、様々な事件の解決に携わっている。
最新のビジネスや法改正等についても日々研究を重ねている。

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